連載後編のテーマは、奥八女にすでにある場やグループと共に、自分らしい暮らしをつくり出している人たちをご紹介します。自分で事業をしている方もいれば、会社勤務の方も。奥八女暮らしの多様な可能性が、きっと見えてくるのではないでしょうか。
<矢部エリア>エリアのフロントに立つ!外と内をつないで盛り上げる、プロの仕掛け方
徳永潤(じゅん)さん。エンターテイメント業界に身を置いて30年。俳優・日本伝統曲芸師・MCパフォーマー・『GONかんぱに~』代表。八女市地域おこし協力隊を経て『秘境 杣の里渓流公園』の指定管理者である『一般財団法人秘境杣の里』と業務提携。地域活性化のための企画・制作として、イベント『秘境のコスプレ・杣レイヤー』、アトリエ企画『サロンdeねこや』、喫茶ブース『茶房ねこや』などを実施。ほかにYouTube配信『矢部村放送局やべんもん』や、日本の文化を国内外へ広め伝える『From Japan うるみ』など幅広く活動中。
伝統的な日本の良さを次世代につなぎたい
徳永さん:俳優業のほか日本伝統芸能の曲芸師として、国内外で芸能の仕事しています。たとえば海外現地の『JAPAN FEAR』で曲芸パフォーマンスを入口に、日本の物産品のエピソードを紹介してブースに誘導したりとか。矢部村からも『八女矢部まつり』という伝統行事での曲芸のために招いていただいたことがあって、これが移住のきっかけになったんですよ。というのも知人の紹介で、矢部で陶芸文化を根付かせている『御前窯 窯元』の渕之上伸一さんにお会いすることがあって、その想いや活動にとても共感して。渕之上さん自身も平成元年に移住されていて、今度新たに募集する地域おこし協力隊の枠に推薦してくださったんです。
地域おこし協力隊の移住動機って「とにかくこの土地が好きだから」「ここなら自分のスキルを活かせるから」という、たぶん2種類があると思うんですね。自分の場合は、募集枠が「情報発信役」で、伝統芸能の知識やエンターテイメントを通して伝えるスキルを活かせると思いました。ネット番組を作ったりもしていたので、協力隊赴任後は「やべんもん」というYouTube放送局を立ち上げたりもして。矢部のことは、移住してみてさらに好きになった、という感じです。
移住ですごく感じるのは、渕之上さんのように地域活性化のために移住して地域に溶け込んで活動されている先輩方がいらっしゃったことで「とても助けられたなあ〜」と。おかげで自分も、地域の方々にスムーズに受け入れていただけたと思います。今は芸能活動をしながら、地域財団が運営する『杣(そま)の里渓流公園』での企画制作や情報発信を請け負っているのですが、ひとりでは忙しすぎて・・・。ゆくゆくは地域活性化に能力を活かしてくださるような協力隊や移住者の方々を受け入れていけたらと考えています。
「入口」を企てて、WIN-WINのマッチングをつくりだす
徳永さん:移住してみて「まさにこれが自分の役割だな」と思ったのが、「入口づくり」です。自分が道化となって人を寄せて、興味に合わせて地元の詳しい方を紹介しているんですね。そうすると紹介先の方は、得意領域だけに集中してストレートに語れるじゃないですか。そして聞き手も深く知ることができます。
たとえば物産展などでは、商品や作品を華やかに並べますよね。でもさらにそこから、モノだけでは伝わりづらい「作り手の想い」や「生み出すまでのプロセス」までも、丁寧に届けることこそ大事ではないかと思っています。今の時代あらゆる所から情報が入るので、適当な見よう見まねなんかはすぐに見抜かれてしまいます。自分がリスペクトする作り手さんへ、興味を持ってくださる方を適切に誘導していく役割をもっと深めていきたいです。
そうなると「入口としてどうやって興味を持っていただくか」がキモなんです。特にこれからコロナと共生していくようになるとしたら「地域でお祭りをやります、来てください!」というような、不特定多数の方々が無条件に集まるのは難しくなるだろうなと思うんです、たぶん。
そこで自分が一番のテーマにしているのは、この矢部村の「秘境」というポイントにハマってくださる方、リピーターになってくださる方にどのように見つけていただくかということです。
そのひとつとして企画したのが、秘境のコスプレイベント『杣レイヤー』。この公園全体を貸し切って、自由に撮影をしてもらおうというものです。施設内で着替えも休憩もできて、矢部ならではの飲食も味わえて、たっぷりと秘境を楽しめるんですね。実は都市部では古民家を改装したスタジオなどもたくさんあるんですよ。じゃあ逆に矢部では「秘境ならではの自然環境を活かしたコスプレイベントをしたら、面白いんじゃない?」「世界中でも珍しいんじゃないかな?」と思って、そこに目をつけました。
徳永さん:さらにコスプレイヤーには若い方も多い、というのも大事なポイントです。一緒に親御さんもいらっしゃって、ゆっくり滞在してもらえることもあって。それにゆくゆくは、コスプレイヤーさんたちが今度は自分の子どもと一緒に来てくれるといいなと思っています。子どもは写真を撮ってて、お父さんお母さんは今度は釣りや散策を楽しんだりして。
家族みんながそれぞれ秘境で遊ぶ、そんな循環を作りたいですね。その中でそのうち、矢部に住もうという人もでてくるかもしれません。そんなふうに過去や現在の視点に加えて、5年、10年先の未来も常に意識してやっているんです。
地域も自分のビジネスも、持続可能性を追求する
徳永さん:移住してきた人にとって次のステップとして大事なのは「継続していくシステムづくり」だと思います。もし参加無料などで行うと、継続するための経費や人件費も準備できずに将来的には厳しくなります。だから参加費などはちゃんといただいて、納得する満足度を提供していくことが大事。まさに「価格」ではなく「価値」が重要な時代になっているな、と実感しています。そこでたとえば企画運営している喫茶ブースでも、ちゃんと「価値」を提供できるよう珈琲や紅茶の淹れ方などを専門店で指導していただきました。最初は素人だったんですよ(笑)
また、地域に負荷をかけすぎないことも長続きしていくポイントだと思います。たとえばイベントの昼食は地元のお店に作ってもらっているのですが、定員制にすることで材料などに無駄がでないようにしています。そして私たちが料理を受け取りに行って現場で提供したり。そうすれば「地元のお蕎麦屋さんの蕎麦をぜひ食べてもらいたい!」というような企画でも、イベントのためにわざわざ蕎麦屋を閉めて出張しなくても済みますからね。するとお店の営業は通常通りで、さらに私たちの企画での売上もプラスされます。
一方、イベントにいらっしゃる方って、セルフ配膳だとしても給食の時間みたいにそれ自体を楽しんでくださったりして。ありがたいです。実は、そうしてみなさんが楽しめるよう演出や雰囲気づくりをするのが、私の大事な仕事だったりします(笑)結果、イベントに関係するみなさんが万々歳、みたいになることを大切にしているんですね。
人口の少ない地域では、住民のみなさんそれぞれが地域の役割や行事などで忙しいんです。だから「この地域の活性化のためですから、力を貸してください」って一方的なお願いばかりするのは、できるだけしないでいたいと思っています。むしろ地域のみなさんが普段通り生活していても、販路が広がっていくような仕掛けを工夫していきたいですね。
そして入口に立つということは、トラブル無く楽しく過ごしていただけるよう、問題を事前に避けるフィルターにもならなきゃいけないと思うんです。村が誤解を受けるような扱い方をされたり、荒らされたりしないように。大変申し訳ないけれど、お客さまに来ていただく際にはトラブルが無いよう、自分がちゃんとフィルタリングする役割を意識しています。
かといって主催側がやたらと指示をしすぎると、どうしてもお客さんと溝ができがちです。「安全のために」とどんなに丁寧にお伝えしても、やっぱり何か命令されているように感じたりとか。「せっかく来たのに、あれもこれもだめなの?」ってなるのも残念です。
なのでイベント企画をする時はいろいろな会場へ自分から足を運んで、関心を持ってくださる方々にご挨拶させていただいています。最終的に連携することが多いのは、対応が丁寧だったり、価値観や考え方が近くて企画やイベントを一緒に育ててくれるようなグループの方々ですね。最近では、新しい参加者さんにはベテランさんがいろいろ教えてくれて、みなさんでイベントを育てていくような空気とシステムができあがっていて。結果これまで事故やトラブルもなく、地域にもいい貢献ができているんじゃないかと思います。
徳永さん:私の場合は、地域に必要とされるポジションに身を置くことができたっていう感じです。矢部村は「はじめて来たのに懐かしく感じる」魅力的なエリアです。これから未来に向かって可能性を試す場所として、また経験や知識を発揮し勝負していく場所として、「秘境・矢部村」は非常にやりやすい場所だと思います。