「あり続ける」ことの意味
――ちなみに会員さんは皆さん、この「オンラインコワーキング」に参加されているんでしょうか?
脇山さん:スタートしたばかりなので参加率はまだそれほど高くないのですが、一方でコメントを残してくださる方がいるなど、徐々に回りはじめています。
――例えば、どんな反応がありますか?
野上さん:私の担当は雑談コーナーなので、コメントといっても「わー!」とか「笑」などが多いです(笑)。でも一部の会員さんの息抜きにはなれているんじゃないかな、と感じますね。一方「おつまみライブ」では、「勉強になった」などの声をいただいたりもしていますよ。
脇山さん:何を持って反応とするか、もありますよね。例えばこの場がなかったら、もうやりとりがなかったかもしれない会員さんが、ライブ配信を機に思い出してコメントや連絡をくださることもあって。それもひとつの成果だなと。
斎藤さん:そうですね。取り組み自体は地味ですけど、毎日続けていると案外、「SALTでまた何かやっているな」というのを頭の片隅に置いてもらえたりするので。毎日見ていなくても、必要になったときに、アーカイブで見られる状態もありますし。
脇山さん:リアルのシェアオフィスとも重なるんですが、その方のタイミングで、ふらっと来れる場所が「あり続ける」ことが大事かなと考えています。
まず、やってみる
――「オンラインコワーキング」について伺ってきましたが、他にもこの外出自粛期間に取り組まれたことなどはありますか?
脇山さん:別の記事で紹介している『HOOD SCHOOL WITH』(以下、HSW)もそのひとつです。休校が発表されてすぐ、会員さんから「オンラインで子ども向けに何かやりませんか?」と提案をいただいて。工作からプログラミングまで、会員さんのスキルを持ち寄って、その10日後にはオンラインの体験型スクールを開始しました。
野上さん:参加した子どもたちも、親御さんも、とっても喜んでくださって。私たちも「オンラインでもこういうことができるんだ」と発見がありました。
脇山さん:HSWが初めてのオンラインコミュニケーションだったので、そこで好反応を得られたのは大きかったです。だからその後も、オンラインの取り組みに対して「まず、やってみよう」という気持ちになれました。
――HSWは3月でいったん終了していますが、今後も開催されるのでしょうか?
脇山さん:はい。休校期間が延長になったこともあり、HSWを再開させるべく動いていますよ。(※取材後追記:4/29〜5/6にて開講中。詳しくはこちら)
――そうなんですね! 他にも、準備中の新たな取り組みなどありますか?
脇山さん:はい。会員さん向けの新しい取り組みとして、私たちの最近の取り組みをまとめた『SALTとHOOD通信』を作っています。Facebookページでは全員とお話できているわけではないので、こちらではメール等で個別に状況をお尋ねしつつ、コミュニケーションをとっていければと考えていて。隔月くらいで定期的にお届けしていきたいです。
見ているのは、その先の未来
――今後、オンラインの取り組みがうまく回り始めたら、リアルの場と併せてどんな化学反応が起きていくと思いますか?
野上さん:私たちは「リアルの価値」をあげるためにオンラインを活用していて。だからオンラインの取り組みがうまく回りだせば、むしろリアルな空間の価値がよりあがっていくんじゃないかと考えていますね。
また長期的には、これまでリアルの場で出会ってきたのとは違う方、たとえば障害のある方や、引きこもりがちな天才肌の学生さんなど、多様な方々がコミュニティのメンバーになれるんじゃないか、とも思っていて。そういう方がオンラインの場にいて、リアルな空間の私たちともコワーキングする。そんな将来像を夢見ています。
▲SALTでのイベントの様子(2019年5月)
脇山さん:私は、今後ますます「家で働ける時代」になって、シェアオフィスの役割はもはや「働く空間」じゃなくなると思っているんです。むしろ、人に会ってしゃべるとか、“遊ぶ”ための場所になるのでは。『SALT』や『HOOD天神』の会員さんは本当にユニークで魅力的な方ばかりなので、そうなったら会員さんと一緒に、本気の「遊び」を考えるのもおもしろいだろうな、とわくわくしますね。
それから、これまでリアルのイベントを通して行っていたことを、オンラインも含め、その他の方法でも推進していきたい。「こういう未来や、こういう暮らしっていいよね」という提案を、もっと多角的に行っていければと思うんです。
野上さん:『SALT』は今年フロア数が拡充したので、モノが集まる拠点になってもおもしろそうですよね。例えば地元の飲食店が提供しているメニューや、「福岡移住計画」でとりあげた九州の商品を集めるとか。するとそれを買うために人が来る。近所の方や子どもたちも気軽に出入りしてくれるような場所になったら楽しいな、と。
脇山さん:そう。あくまで「物理的な空間に人が集まるしかけ」を、次のステージでは必ず作りたいんです。その上でオンラインを活用していくにはどうしたらいいか、を今試している感じですね。
――最後に、これだけは言っておきたい、ということはありますか?
野上さん:最近、オンラインとオフラインが融合された社会の未来像、みたいなものを考えていて。以前は、海外とつながるとか、物理的な距離を縮めることにオンラインを活用する社会だったと思うんです。でも今は、「生活圏の中でオンライン」を活用していますよね。今の私たちの取り組みもそう。
その先にはもしかしたら、コミュニティ内の通貨を作って独自の経済圏を作っていくようなことも起こりうるかもしれない。それでさらに、リアルの生活が楽しくなったりするかもしれない。これまでの価値観や社会構造にとらわれなければ、いくらでも可能性はあるかなと思ってますね。
斎藤さん:なんか、壮大な……!
脇山さん:そうですね。ただ、未来のことはいろいろと構想しつつも、現時点では、あくまで私たちに今できることをやっているだけで、“カッコいいこと”をやっているわけではなくて。もっとシステム的にバーチャルオフィス環境を整えているところは他にたくさんあると思うんですよ。でも私たちは「すでにリアルのコミュニティになっていたもの」に「どうオンラインを沿わせていくか」を考え続けているので。
野上さん:そうですよね。考えていることは壮大だけど、目の前のことはとても地味です。そして、会員さんたちもすごく、私たちの挑戦に付き合ってくださっている……。
脇山さん:そう、応援してくださっている……。その気持ちに応えられるよう、試行錯誤を続けながら、よりよい場作りを実現していきます!
取材を通して一番心に残ったのは、「リアルに“沿わせていく”オンライン」という言葉でした。オンラインを活用した取り組みは世の中にあふれていますが、「リアルな場作り」を大切にしてきた3人だからこそ生み出せる、新しいオンライン活用の形がきっとあるはず。そしてその先には、シェアオフィスという概念を飛び越え、毎日の「暮らし」が楽しくなるような未来が広がっているのかもしれません。楽しみです。