【ぼくらが連れて行きたい店vol.49】学生も社会人も。人とつながるおもしろさをこのバーで。(ブックバーひつじが)

魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。

“バー”ってなんだか、敷居が高い。落ち着いた大人の常連客が集うイメージで、慣れない自分が突然行っても楽しめるのかどうか……。そんな不安を、気持ちのいいほど裏切ってくれるバーがあります。

2019年2月に福岡市中央区・白金にオープンした『ブックバーひつじが』。扉を開けてすぐのカウンター席には、本を読みつつお酒を楽しむ方もいれば、偶然隣り合った人といつしか話が弾んでいる方も。はたまた日によっては、学生が本気の就活相談に来たり、店内で作家さんが個展を開いたりもしているとか……。

「たまり場ではなく、“入り口”や“動線”でありたい」と語るのは、店主の下田洋平さん。お店を始めた背景やこれからの取り組みについて、お話を伺ってきました。

受けた恩を、次世代へ

―お店をやろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

大学生のとき、京都で通っていた大学の近くに『猿基地』という飲み屋さんがあったんです。カウンター席に座って、そこで出会う社会人と話したり、一緒にお酒を飲んだりして。それまでは年の離れた人と話す機会がなかったので、それがとてもおもしろかった。かつ相手も、若い人と話すことをおもしろがってくれる。そんな空気感がすごくいいなと感じて。
僕はそのお店のおかげで「人生が変わった」くらいの感覚があったので、当時から、いずれ自分がいい大人と呼べる年齢になったら、若い人にそんな空間を作ってあげたいな、と思うようになったんです。

―人生が変わった、ほどの感覚は、どんな体験からきているのでしょう?

具体的な何かというよりは、そのお店は“いつ行ってもおもしろかった”んですよね。飲食店だからいつもそこに存在していて、フラッと行くと他のお客さんたちと話せることもあれば、マスターと1対1で深い話ができることもある。かつ、自分が考えていることを洗いざらい話しても、受け止めてもらえて。その空間がとても貴重だったので、いつか自分もそんな場所を作りたいなと。

―そのお店があったからこそ、この『ひつじが』が生まれたんですね。

はい。ちなみに、そこに飾ってあるのは『猿基地』のマスターが書いた色紙なんです。座右の銘だそうで。

『猿基地』には、毎年たくさんの学生が就職活動の相談に来るんです。それで学生が卒業するときに、店内に色紙を飾っていく。もう『猿基地』は10年目なので、天井までびっしりと色紙が飾ってあって。それでも、僕が卒業するときに書いた色紙も、1年目として今でも飾ってあるんです。

―すごいですね。いろんな学生さんの歴史がそこに積み重なって。

そういう流れがあったから、自分がお店を開くときには、『猿基地』のマスターに色紙を書いてもらおうと思って、書いてもらったのがあれです。それから、『ひつじが』にもすでに就活生が何人も来てくれていて。卒業するときにはみんなにも色紙を書いてもらって、ここに飾っていきたいなと思っているんです。

―バーに、就活生が相談に来られるんですね。

シーズンにはたくさん来ていましたよ。最近は、内定の報告を受けるようになって。

―そういえば以前、下田さんがカウンター越しに、就活生のエントリーシートを添削されているのを見かけました。

事前にLINEで送られてくるんです、添削してくださいって。もちろん、アドバイスをするために後日お店に来てもらうのですが。だから就活シーズンは閉店後、夜中の3時からエントリーシートを見てました、ずっと(笑)。

―夜中の3時から! その原動力はどこから来るんでしょう。

もちろん、学生がよりよい方向に行ってほしいという気持ちがあります。でも何より、自分がそういう恩を受けてきた側だから、それを、若い人たちにお返ししていきたいという気持ちが大きくて。やってもらったことを、やっている感じですね。

たまり場ではなく、動線に

―お店をはじめるにあたって、コンセプトは決めましたか?

カチっとは決めていないんです。ただ、「入り口」もしくは「人がA地点からB地点に行くまでの動線」の一部になりたい、とはずっと考えていて。たまり場は作りたくなかったんです。

―それはなぜでしょう?

ずっと同じ人が集まっている状態は、落ち着くけれど、新しい刺激がなくなっていくと思うんです。それなら、ここへ来てもらったときに、いろんなところを紹介して、外に出かけてほしい。そして外で吸収したものを持ち帰ってもらったら、より刺激的ですし。そういう循環が、おもしろい街づくりにもつながっていくのかなと思います。

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僕が福岡で店を持つ理由

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