【ぼくらが連れて行きたい店vol.49】学生も社会人も。人とつながるおもしろさをこのバーで。(ブックバーひつじが)

僕が福岡で店を持つ理由

―お店の場所として福岡を選ばれたのはどうしてですか?

僕の出身は長崎で、大学で京都に出て、その流れで大阪の企業に就職しました。働きながら計画的に開業資金は貯めていたんですが、30歳を前に、じゃあ具体的にどこで店を始めようかと考え始めたんです。選択肢としては、関東、関西、そして地元である長崎が頭に浮かんでいました。
でも関西には『猿基地』があるし、東京にも似たお店はもうあるだろうと思って。せっかく自分がやるなら、別のところがいいだろうと。長崎の場合は、自分も18年間過ごしてきて、都会的な刺激は少ないという印象も抱いていたので、そこに新しい何かを持ち帰れないか、という気持ちもありました。

―なるほど、最初は長崎が候補だったんですね。

はい。でも帰ったら、僕の想像した以上に、地元周辺には若い方がいないという状況で。そこで店をやっても、若い方に来てほしいという自分の思いは実現できないと感じたんです。それで長崎を出て、点々と土地を探して。
その中で福岡は、おもしろいと思う若い方々が多かった。後に『ひつじが』で個展を開いていただくことになる作家さんにも、そのときに知り合ったりして。福岡、いいなと。それに福岡なら、長崎からでも来られます。それで福岡を経由して、別の場所へ流れてもいいですし。逆に都会で疲れた人が、この店を経由して長崎に行ってくれても嬉しいですし。そんな動線の一部になれたらとも思い、福岡に決めました。

舞い込む、広がる

―オープンから5ヵ月ほどですが、今一番感じていることは何でしょう?

日々、おもしろいことが続いているので、ありがたいなあと思います。想像以上に、周りの方がおもしろがってくださって。

―たとえばどんなことですか?

たとえば作家さんの個展を開くのも、もともと計画していたわけではないんです。たまたま別のカフェで展示している作家さんとお話する機会があり、それをきっかけに『ひつじが』でも個展を開くことになって。するとそれを見ていた他の作家さんが、わたしもやりたい、と来てくださったりして。そうやって話がつながっていくのは刺激的ですね。

―来られる方の反応はどうでしょう?

すごくおもしろがってもらっています。普段はギャラリーへ行かない方が、本やお酒を目的に『ひつじが』に来て、展示を見て、興味を持ってくださったりとか。作家さんも在廊されていることが多いので、お客さんと作家さんが直接お話されていることもよくあります。そういったつながりが生まれているのは嬉しいですね。

本はひとをつなぐツール

―“つながり”や“動線”を大切にされたお店づくりの中で、「ブックバー」という形にしたのはなぜですか?

理由はいくつかあります。まず、店には自分ひとりで立つと決めていたので、ひとりの方とお話ししているときに、他の方にも楽しんでいただくには……と考えて、本が役立つかなと思ったのがひとつ。
それから、僕は関西に知人が多いので、遠方からでも関わってもらえるにはどうしたらいいかなと考えたんです。それで思いついたのが、ご本人が来れない代わりに、その方に寄贈いただいた本を、僕が「こんな方からいただいた本です」と他の方に紹介する、寄贈本システムで。だから寄贈本は、初対面の方からは受け付けていないんです。まずは1度来ていただかないと、僕が説明できないので。

―なるほど! 本棚に並ぶ本、1冊1冊の背景に「人」がいらっしゃると。

はい、その人の代わりにいるというか。最近では福岡の方も結構、本を持ってきてくださいます。自分の持ってきた本を、他の方が読むのを楽しみにしている方も多くて。時には自分が寄贈した本を、誰かが読んでいるところに居合わせて、場合によってはそこから会話が始まったりして。
本にはそうやって、会話のきっかけになる一面もありますよね。「この本、読んだことある?」と話したり、その場で一緒にページをめくったり。僕も他の大人と話して成長した節があるので、本が会話を助けるツールになればいいなとも思っています。

お客さんが投票する文学賞

―これから、新しく企画されていることなどはありますか?

ちょうど第1回の『ひつじが文学賞』が始まります。小説やエッセイ、詩などの文章を投稿してもらい、その作品たちをお客さんに読んでもらって、お客さんが1人1票で投じて大賞を決めるという文学賞なんです。
これは、香川の『珈琲と本と音楽 半空(なかぞら)』さんでやっている『半空文学賞』がもとになっていて。その取り組みが素敵だなと思い、『半空』さんに連絡したら快く許可をいただいたので、じゃあやってみようと。一般的な文学賞は敷居が高いという方も、『ひつじが文学賞』を入り口に、書くことを身近に感じてもらえたら嬉しいなと思います。

▼第1回ひつじが文学賞
テーマ:「お酒」
応募規定:A4用紙 片面1枚分の文章(ジャンル不問)
応募期間:2019年7月1日〜2019年9月30日
※詳細はこちらのページから↓
https://note.mu/shimotch/n/n94cc3a94ac85

エリア全体を、おもしろく

―最後に、これから取り組んでいきたいことなどはありますか?

今はイベントもたくさんやっていますが、ゆくゆくはイベントを減らしても成り立つようにしたいなとは思います。何もやっていなくても、来たら何かがおもしろい。そんな状況を作れるように、考えていきたいですね。
あとは、やっぱり同じジャンルが固まりすぎるとおもしろくなくなっていくと思うので、自分も別ジャンルの考え方を柔軟に取り入れながら、おもしろい空間を提供し続けていきたいです。最終的には『ひつじが』がというより、このエリア一帯がおもしろくなればいいな、というのが野望です。

―エリア一帯を、おもしろく。すでに実施していることなどあるのでしょうか?

たとえば今年の5月には『ART WALK HiRAO』という、周辺のお店をはしごしてもらえるような合同のアートイベントをやりました。さらにそれを見た別の作家さんが、自分も複数店舗で展示をやりたいといって、今度はその作家さんが3箇所での分散個展をする話も進んでいます。そんな感じで、このエリアをみなさんに“うろうろ”してもらえるようになったら嬉しいですね。

「お店を始めたのも、夢を叶えたわけじゃなくて計画を実行しただけなんですよ」と一見、淡々と語る下田さん。でもその根底には「受けた恩を次世代へ」という熱い思いがありました。そんな店主が生み出す居心地のよさに、学生から社会人まで幅広い年齢層の方が集うのも納得です。本を手にとって読みふけるもよし、店主や他の方とのおしゃべりも楽しむのもよし。眠れない夜、『ひつじが』で時を過ごしてみては?

【ブックバーひつじが】
https://twitter.com/bb_hitsujiga
福岡県福岡市中央区白金2-15-3 SKJ白金 2F
営業時間:17:00〜26:00ごろ
定休日:不定休

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