九州の山の未来、木を使う文化はどうなる?~住宅メーカーの活動から~

「平成29年九州北部豪雨」から1年が経とうとしていたこの夏、私たちは被災された方々にインタビューし、被災からの経過・考えている未来のことを「朝倉・東峰のいま」というタイトルでリポートしました。取材中、特に被害の大きかったあるエリアでは、砂埃の中、無残な姿で倒れ、積み上げられている数々の杉を目にしました。そして沸々と疑問が沸き上がりました。

▲山中では未だ手つかずのところも多く存在する。

「九州の山・林業事情は、今どうなっているのだろう? 生活者・消費者として、知っておくべきことがあるのでは?」と。

そこで、産地の明らかな素材で「良質な木の家づくり」の実現を目指す「地域主義工務店の会」に名を連ねる住宅メーカー『未来工房』の取締役・金原さんにお話をうかがおうと、久留米市内の本社を訪れました。今の住宅事情やその背景、そして今後の「木を使う文化」の未来・展望についてのお話です。

―ホームページを拝見しました。掲載されている「妥協することなく。丁寧な本物の家づくりを。」「長持ちの家がいい。家は強くなければならない。」というメッセージや、素材として呼吸する無垢の木を使われるなど「本物のストック住宅をつくる」という姿勢から、家づくりへの大変なこだわりを感じました。御社は、どういう流れで現在の自然素材を使った家づくりをされるようになったのでしょう?

1980~90年代に表面化したシックハウス症候群がきっかけです。住宅の高気密・高断熱化によって、建材・内装材に使われている化学物質が原因と思われる健康被害、例えば目や喉の痛み、頭痛、めまい、息苦しさ、吐き気などの症状を訴える患者さんが、全国各地で増加しました。今は法律で規制されていますが対象となる種類は限られていて、それ以外の化学物質は規制対象にもなっていません。EUで禁止されている化学物質で、残念ながら日本国内では使われている物質も数多くあります。施工する時に防護服を着なければならない、そして24時間換気をしなければ住むことが出来ない家は、ご家族が“心から安心して住む家”には成り得ないと思います。
私たちは、このシックハウスに対する危機感を持っており、最終的なきっかけは幼稚園の建築依頼をいただいたことでした。「落ちたおにぎりを拾って食べる子もいる」と聞いたときに、化学塗料を使いたくないと調べはじめたのがはじまりで、自然素材の家づくりに大きく舵を切りました。素材として使っている木材も、極力高温乾燥ではなく低温乾燥のものを選んで、適材適所を心がけています。お越しいただいたこのモデルハウスでは、自然素材の住み心地、そして職人技で建てられた家の経年変化を、お客様にも体感していただく場所になります。

―長持ちの家、そして本物のストック住宅を具現化したものを、直接目で見て、感じていただくということですね。自然素材へのこだわり、中でも国産材を使うことにも積極的に活動をしておられるとうかがいました。どういう想いで取り組んでおられるのでしょう?

先代である父が代表の頃に、熊本の山主の方と出会ったことがきっかけです。実際に山を代々受け継ぎ、木を育ててきた方と直接お話させていただいたことで、大変な危機感を覚えました。林業が主力産業だったその地域の平均世帯年収が、本当に少なかったのです。“きつい・儲からない・継ぐ人間がいない・高齢化・過疎化”・・・と悪循環に陥っています。この悪循環を改善するには、国産材を使うことが日本の林業を、そして地域・国土を守ることだと思ったのです。
今、国内の林業に関わっている方々は、70代が主力です。この方々が引退されてからでは遅いんです。根の張らない針葉樹ではなく広葉樹を植えよう、という議論もあるのですが、消費が増えない限り、広葉樹の森も針葉樹の森と同様に、飽和状態になるときがきます。
ただその期間が、50-60年でなく、200-300年と長いだけで、木を使う文化が引き継がれなければ変わらないのです。消費されない、生計がなりたたない、担い手がいないというのは変わりません。
改善していくには、国産の木材を家具や道具、家で使うといった“木を使う文化”への愛着を感覚的にも育てていくことが必要だと思っています。そうすることで山を取り巻く経済をまわし、環境、地域と国土を守っていく。私たちは木をつかう仕事をしていますので、ある意味そういった使命感も持って木のこと、山のことを勉強し続けています。

木は、衣・食と違い、消費者から時間も距離もとても遠いところにあるので、日頃はその価値に気づきません。生産現場である森林、山とその守り手、そして消費者(生活者)をつなぎ、一般の方々に興味を持っていただけるようにならないと、暮らしに木を使う文化も消えていきます。
私たちの場合だと住宅メーカーという立場があるので、“木を使う文化”のつなぎ手となることが使命だと思っています。そして技術の継承についても同じことが言えます。昔からの技法を習得するには、それを現場で学ぶことが必要です。我が社でも、若手への技術の継承が課題で、ベテランの職人から学ばせてもらっています。

―国産木材、そして山について会社としても学び、それを消費者、つまり御社で言うと、住宅購入者の方々へ伝えていくということですね。今後の取組みとしてはどのように考えておられますか?

国産の木を使おうと言い続けることですね。家具・道具・家・・・私は、小さな頃から木に囲まれて育ってきたので、懐かしさや愛着といった感覚を育ててもらえた気がしています。私たちが仕事の中で本気でお伝えし、つなげていくことで啓蒙活動になればと。そうそう、実は、すごく嬉しいことがありました。施主の方のお子さんが、当社にインターンに来てくれました。小さい頃にきっと職人が作業するところを見ていたのだと思います。職人の本気が伝わったのかなと。嬉しかったです。

私たちの“企業としての営利活動”が、社会的に意味のある活動でなければなりません。地域が違えば気候・風土が違います。私たちは福岡で誕生したのですから、九州、特に北部九州で、お客様と一緒にきちんと考え尽くして心から満足していただけるような、そんな家を作り続けたいと考えています。そしてなにより、林業、山の事も、こうして関わった以上は発信していく責務があります。ここ数年が勝負だと思っています。

未来工房では「やかまし村のギャラリー」というイベントスペースを作り、住宅購入予定者のみならず、一般の生活者の方々にも「木を使う文化」を発信すべく、色々なイベントを展開されています。

▽直近情報▽
10/25-11/30(11月19日→30日となりました)には「森林の国ニッポンと」いうタイトルで、山と木とそれらにまつわる人のことを伝えるイベントを開催予定。


便利さに慣れた日本人の暮らしが「木」から少し遠いものになっていることは事実だと思います。しかし、住宅メーカーである未来工房さんの活動が、生産者と私たち生活者をつなぐ架け橋となるならば、その先に「私たち生活者と木・山の新たな関わり方」が見えるのかもしれません。さらにその先にある林業の課題解決の糸口になるかもしれません。
今の山の守り手の方々が現役を離れるまで、猶予は長くありません。更なる宿題をいただいたような、そんな気持ちになりました。

【未来工房】
https://www.mirai-kohboh.co.jp/
[久留米展示場]福岡県久留米市津福本町731
[福岡展示場]福岡県福岡市西区豊浜2-2 hitマリナ通り住宅展示場 北会場
[佐賀展示場]佐賀県佐賀市神野東4-4-26
[やかまし村のギャラリー]福岡県久留米市津福本町834-4

"暮らしのこと"の関連記事

keyboard_arrow_up