【朝倉・東峰のいま(4/5)】時代も自然の変化も受け入れながら覚悟をもってやっていく。

2017年7月5日、九州北部豪雨。わずか数時間の間に記録的な豪雨が襲った朝倉市及び東峰村。大切な住民の方々の命が失われ、また、各所に甚大な被害がもたらされました。今回私たちはあれから1年が経過しようするこのタイミングで、朝倉市・東峰村の人々の“いま”をお伝えしようと取材を行ってきました。この地で再び立ち上がり、日々の暮らしや生業を再生しようと前へ進み始めた方々のいまをご覧ください。
(注)この記事は「平成30年7月豪雨」以前に取材したものです。

昨年7月、豪雨に襲われた朝倉市古毛。「鮎や鯉などの川魚が、美味しくいただける」と人気のドライブイン『香魚』も被害を受けました。建物には泥や流木などが流れ込み、鮎の養殖池も容赦なく濁流に飲み込まれました。
現在、お店は綺麗に復旧され、1月からは営業も再開されています。「筑後川の恵み」を活かす生業を家族で営み続けて三代目となる田中康彦さんに、お店再開への道程などをうかがいました。

―田中さんが、家業として筑後川の川魚を扱うようになったのはいつ頃からでしょうか?

祖父の代からですね。釣り堀から始まって、川魚の養殖、そしてドライブインを昭和50年にスタート、という感じですね。私は携わって25年になります。そうそう、祖父の代にも洪水被害にあってますね。昭和28年の大水害。この時もかなりやられたように聞いています。

―なるほど。そうすると、今回は大きな被害としては2度目となるのですね。当日はどのような状況だったのでしょう?

山手の方にため池や小さい川筋があるんですよ。それが決壊したり氾濫したりして、このあたりは水が1.2mの高さまで来ました。店の方にも土砂がだいぶ入ってきまして。厨房器具や道具類も全部やられましたね。家もやられましたが、家族は無事で、そこからは暫く避難生活でした。それでも店は、どうにかせんといかんわけですよ。親戚やボランティアさんやお取引先・常連さんたちがものすごく助けてくれました。厨房器具を扱っている親戚は、予算が厳しいけどきちんとしたものを手配してくれたり。ボランティアさんたちは、たぶん延べでいったら300人以上の方に手伝ってもらったと思います。泥かきとか色々ですね。ありがたかったです、本当に。大勢の方に手伝って来てもらって、今があると思っています。

―こういう時はやはり地域のつながり、人のつながりが本当にありがたいですね。一方で、養殖池の被害はいかがでしたか?

だいぶ流されましたね。筑後川に鮎が泳いでいたら、それはうちから流れていった鮎じゃないかね~というぐらい流されましたね。養殖池自体も結構設備がやられていまして…うーん…手前のお店に近い方の池は、再開がだいぶ厳しい状況ですね。今は、店から少し離れた無事だった池の方で育てています。お取引先の中には、お待ち頂いているところもあるような状況ですね。やっぱり生き物相手なので、急激には太らんからですね。

―そうなんですね。川魚の養殖をされている事業者さんって、このあたりではあまりお見かけしないと思うのですが、実際どうですか?

その通りですね。鮎で言うと、このあたりで養殖しているのはたぶんうちと八女の方だけですね。川の漁師さんもどんどん減っていっていますよ。高齢化しています。天然ものも、だいぶ厳しいです。放流もしていますけどね。外来種が徐々に増えてきている一方で、在来の魚は徐々に減って来ています。それと、ダムがあちこちにあるので、遡上しづらくなっているでしょう。ダムの近くに定着してる鮎もいますけどね。それと、養殖でいうと、鮎の生育日数も以前よりもかかるようになってきたと思います。こちらは要因としてすぐにパッと思いつくような事はありませんけど・・・とにかく生き物相手なので、様子を見ながら世話をしないといかんですね。無理に数を増やしすぎたり、急いで太らせても、いい鮎にはならないので。

―手をかけて育てる、時間もかかるということですよね。筑後川の生育環境も、お爺さまが始められた頃とは変わって来ているという事なんでしょうか。ここ数年来続いている夏の高温なども関係ありますか?

関係無くはないかもしれんですね。だいたい、鮎の生育に丁度いい温度帯は20℃から23℃ぐらいです。それ以上高温になると、食いが悪くなったり、酸欠したりします。

※鮎の生育環境は年々厳しくなっている。川の護岸工事による直線化や、細かい粒径の土砂が堆積することでの川床の平坦化、そして濁水なども要因となる。

―ところで、今回被災された事で何かお気づきになった点や、補助金などについても「こうだったら良いなぁ」というような事はありましたか?

養殖業の方では、県水産局の情報をいただいたんですよ。でも、店舗の方は復旧に使える補助金が殆どありませんでしたね。補助金だと単年度事業のしばりがあるものが多いですね。今回みたいにあっちもこっちもだと、業者さんがおらんのですよ。それで期限内に間に合わなくなってしまう。そこはもう少し融通が効くといいなぁと思いますね。背に腹は代えられないので、借り入れして、調理器具を買ったり、設備の修理とか改装をしました。

―実際に経験しなければわからなかった課題ですね。さて、40代で再建されました。筑後川流域での「川魚の養殖業」という生業を、これからどうしていきたいというお考えはありますか?

やっぱり、養殖は年々厳しくはなっているように思いますね。大分県は、県としてバックアップされているんですよ。なので、河川の環境向上とかも含め、行政支援はあると違うと思いますね。とは言え、今の時代の流れに沿っていかなきゃいけないという覚悟もしているので。年々気候は変わっていて厳しくなっているし、毎年状況も違いますし。うちもドライブインの方がメインになっていくかもしれないですね。それと・・・子ども2人はまだ小学生なので、跡を継ぐかどうかはわかりません。自分のしたいことをして欲しいです。でも、将来の進路の1つに考えてもらえたら、親としては嬉しいですね。

流域を潤し有明海へそそぐ、全長143kmという九州一の大河、筑後川。悠々とした流れは、川の恵みを私たちにもたらします。色々な川魚を様々な料理法でいただく豊かな食文化もその1つ。けれど、「筑紫次郎」という別名でも知られる程の「暴れ川」ゆえになされた様々な治水工事が、一方で川魚の生育環境を厳しくしているのだということを知りました。
「自然相手、生き物相手ですから」と語る田中さんのしなやかな強さは、3代に渡って筑後川とともに暮らし、「川がもたらす自然の恵み」と「時に被害をもたらす暴力性」の双方を知っているからこそ、身についたものなのかもしれません。仕事と暮らしが一体化している、この地に自然と根を張った強さです。川魚好きな方のみならず、応援してほしいお店をまた1つ、見つけました。
(取材協力:あさくら観光協会

=参考情報=
今回の九州北部豪雨については、関係機関各所で情報が色々と発信されています。
福岡県の被災者支援ポータルページで、リンク集がUPされています。
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/hisaisyasien0.html

【ドライブイン香魚】
福岡県朝倉市古毛837
TEL:0946-52-0053
営業時間:11:00〜19:00
定休日:火曜日

→連載コンテンツ「朝倉・東峰のいま」1本目記事はこちら
→連載コンテンツ「朝倉・東峰のいま」2本目記事はこちら
→連載コンテンツ「朝倉・東峰のいま」3本目記事はこちら

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