九州大学の技術をもとに2018年4月、福岡市西区(福岡市産学連携センター内)で誕生したKAICO株式会社。カイコの体内で自在にタンパク質を作って新薬を開発するという、かつてないビジネスに挑戦して大きな注目を集めています。人気テレビ番組「ガイアの夜明け」や大手企業の会報誌で取り上げられ、2021年に始めた新型コロナウイルス抗体測定サービスは、福岡で話題をよびました。
そんなKAICOが、研究職に従事するメンバーを募集しています。
九州・福岡では数少ないバイオ系企業として、大学でバイオを学んだ九州出身者や、関東や関西で研究職に就いているけれど九州にUターンや移住したい方にとって、魅力的な受け皿になりたいという想いがあるそうです。
今回は社長の大和さんと、福岡にUターンや移住した現場社員3人に、KAICOの事業展開や働き方、福岡でのライフワークなどについてお話を伺いました。
カイコで経口ワクチンを開発し、人の未来に貢献したい
#社長インタビュー
KAICO株式会社 代表取締役社長 大和建太さん
まずは社長の大和さんに、会社の創業背景から現在に至るまでの事業展開、今後のビジョンについて伺いました。
―大学発ベンチャーとして創業して、どんな事業をされているのでしょうか?
九州大学のカイコを利用して、医薬品や診断薬、試薬の原料になるタンパク質を作っています。他の発現系では生産が難しいものに絞り、さまざまなパートナーと開発を進めています。カイコを活用することで、手軽かつ安全に低コストでタンパク質の量産が可能になります。
―大和さんがKAICOを設立するまでの話を聞かせてください。
私は神奈川県出身で、大学卒業後に総合重機メーカーで働き、長崎に赴任しました。サラリーマン生活はとても充実していたのですが、もともと起業したいという思いがありました。そこで、退職後ネット通販会社を起業したものの、なかなかうまくいかずサラリーマンに戻りました。でも、やはり会社を作りたいという思いが募り、九州大学ビジネス・スクール(以下:QBS)に入学し、カイコに出会ったことがきっかけで、今のビジネスにつながりました。
―カイコに着目したということは、大和さんは理系出身ですか?
いえいえ、大学で経営学を専攻した文系人間です。しかし、QBSの講座で、大学には専門的に研究されているが、ビジネスにはなっていない、さまざまな事業の種があると可能性を感じ、中でもカイコに興味を持ちました。九州大学では100年以上カイコを飼育して研究を続けており、カイコからタンパク質を作る日下部宜宏教授(農学研究院)の研究をビジネスにしたいと相談して、2018年にKAICOを立ち上げました。
私にとってバイオは未知の世界でしたが、カイコによって医薬品を作ることができれば、人や世界の未来に貢献できるという可能性の大きさがとても面白いと思いました。私のビジネスや起業の選択基準は、基本的に「面白そうかどうか」なんです。
―大学発ベンチャーとして創業して、どのようなことをされましたか?
事業の一つは、カイコの体内でタンパク質を作り、研究に使う試薬として大学や研究機関に販売。もう一つは、製薬会社と連携して、動物用の医薬品の原料開発を進めてきました。そんな中、2020年に新型コロナウイルス感染症が世界に広がり、私たちは大きな転換点を迎えました。
―どんな転機があったのでしょう?
未知のウイルスに不安が広がる中、人用のワクチン開発を始めました。人用の医薬品は開発が大変難しく時間がかかるため、まずは動物用から始めて、いつか人用にもチャレンジしたいと遠い目標に置いていたのですが、コロナ禍で自分たちができることを考えたとき、今すぐ始めようと舵をきりました。
ちょうど同じ頃、カイコを食べると注射するのと同様に免疫が上がるという結果が出て、人用の経口ワクチンを作ることができれば、世の中がガラリと変わると考えました。
創業当初、日本のワクチンで一般的に認知度が高いものは、卵で作るインフルエンザ用ワクチンくらいしかなくて、カイコでワクチンを作りたいと話しても、ほとんど理解を得られませんでした。しかし、コロナによって「国産ワクチンを作ろう」という機運が高まり、現実味を帯びてきました。
また、コロナに対して私たちができることとして、当社では新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を開発。2021年9月には抗体値を測定できる抗体検査キットの販売を始めました。
―2020・21年には総額5億2000万円の資金調達を行い、2022年3月には経済産業省がグローバルな活躍を推進する「J-Startup KYUSHU」にも選定されましたね。
時流に乗って壮大なビジョンに向かい始めたので、研究開発費がかさんで、いつまでたっても黒字化しません(笑)。スタッフを増やして、この4月には新たな製造工場も完成予定です。当初の試薬だけに絞っていれば、もう黒字化していたかもしれませんが、その分今はすごく面白い事業展開ができていることにやりがいを感じています。
―ちなみに、壮大な目標への道のりを今どのくらい進んでいるとお考えですか?
10くらいかな。1000か10000のうちの(笑)。ただ、創業から積み重ねてきた技術開発やさまざまな会社とのお付き合いから、最近はちょっとずつ芽が出て広がって、かすみがかっていた景色が少し見えてきたような感覚があり、非常に面白いフェーズに入ったと感じています。いろいろなものを形にしながら、最終的には経口ワクチンを世界に届けられるように、みんなで頑張っています。
経口ワクチンという、まだ世の中にないものを生み出すハードルはとても高く、だからこそ一つずつ課題をクリアして前進していくことの喜びや面白さは何物にも代えがたいと思います。