糸島という土地に根付いてきた「またいちの塩」
この10年で、「糸島」という土地が持つイメージは大きく変わりました。食べるものはおいしいけど、どちらかといえば地味な福岡市のベッドタウンという位置づけから、福岡県内はもちろん全国からの観光客が訪れる魅惑の土地へ。大都市圏からの移住者も珍しくなくなりました。
糸島のブランドイメージがこれだけ向上したのは多くの人たちの発信や取り組み、努力の成果ですが、その基礎のひとつに「またいちの塩」があることは、糸島に住む誰もが認めることでしょう。
糸島半島のいちばん端で、きれいな海水から塩を作り出す製塩所「工房とったん」。その塩を使い、糸島の食材を生かした味を提供する「ゴハンヤイタル」「sumi cafe」。「またいちの塩」をはじめ、名物の「しおをかけてたべるプリン」などの商品を販売する「新三郎商店」。製塩のために最良の環境を求めたことで、工房とったんは図らずもインスタ映えする絶景として予想外の人気スポットになりました。2017年当時30人ほどだった社員(パートタイム含む)は70人以上の大所帯になっています。
しかし、2020年初めから流行した新型コロナウイルス感染症が、世の中を大きく変えました。人の動き方、働き方、余暇の過ごし方、すべて新しい方法を模索しなければいけません。
この難しい時代に、「持続可能な塩作りを通じて新しい挑戦をはじめたい。そのために、新しい人材が必要です」と熱い思いを静かに聞かせてくれたのが、新三郎商店株式会社の代表・平川秀一さんです。
2020年の変革の年、今とこれから
「地方を拠点に仕事をしている僕たちは、大都市で働いている方たちよりも影響は少ないと思います。厳しい状況に置かれている人たちが一方にいるなかで、僕たちは僕たちにできることを追いかけていきたい。僕たちの事業の中心は『塩』。この塩を使って今までなかった商品を生み出すことができるように試行錯誤しています」
ー外出や外食を控えなければいけない時期もありましたが、新三郎商店もお弁当のテイクアウトやオンラインショップの開設など、さまざまな対策を講じてこられましたね。
「オンラインショップでは塩はもちろん、柚子胡椒やドレッシングなど調味料、チョコレートやお菓子。またいちの塩を30%使った石けんも販売しています。いろいろな試みをやっていますが、僕たちの仕事で一番の喜びは『おいしい』と言ってもらって、喜んでもらうことです。これまで料理をおいしくする調味料としての『塩』を追求してきて、それをより深く感じてもらえるようにといろんな商品も作ってきました。しかし今回、その幅をもっと広げて、新しい挑戦をはじめようと思います」
ー今やっている事業を続けることも難しい時代ですが、新しい挑戦ですか。いったい、どんなチャレンジなのでしょうか。
「塩そば屋です。僕らは塩を作っていますから、中華そば、塩そば屋です。糸島も福岡ですからラーメンは豚骨一色ですし、僕自身も物心ついたときから豚骨でした。でも、そこで豚骨じゃない、またいちの塩のラーメンで勝負してみたい。
店名ももう決まっていて、『おしのちいたま』。秋にオープンする予定です。JR筑肥線・筑前前原駅前すぐのところに古いけど大きな家屋が空いていたので、そこを使います。庭もけっこう広いので、ビアガーデンみたいにビールも楽しめるようにしたい。まずは、この店舗で力を発揮できる人を求めています。
そして、現在の『新三郎商店』とは別に、新たに物販をやる店舗も考えています。こちらは数年単位でしっかり仕込んで、立ち上げようと思っています」
※塩そば屋「おしのちいたま」の店舗予定地を社員総出で片付けを行っている様子