多くの飲食店が自粛し、保育園や学校も休校。自由に買い物にいくことすらできない。新型コロナウイルスの影響で今までの便利な暮らしが揺らぎ、価値観が変わった人も多いのではないでしょうか。
そんな中、福岡県糸島市には「食べ物・お金・エネルギーを自分たちでつくる」をコンセプトに自給自足の生活を送っている人たちがいます。それが今回お話をうかがった『いとしまシェアハウス』のみなさん。さまざまなサービスや物流に支えられた生活が、当たり前でなくなった今だからこそ考えたい「農のある暮らし」について、いとしまシェアハウス発起人の志田浩一さんにお伺いしました。
暮らしをつくるという安心感
--ご存知の方も多いかと思いますが、改めて『いとしまシェアハウス』について教えてください。
『いとしまシェアハウス』は糸島市の自然豊かな場所にある築80年の古民家を改修して、管理者である僕と妻の千春のほか、メンバーの6~8人で暮らすシェアハウスです。メンバーそれぞれが自分の仕事をしながら、お米づくりや畑のほか、狩猟や釣り、DIYなどを通して“暮らし”をつくっています。僕も千春も元々は東京で働いていたのですが、3.11の震災をきっかけに福岡に移住し、2013年に今のシェアハウスを始めました。
--となるともう8年目になるんですね。シェアハウスのメンバーはどんな方たちが暮らしているのでしょうか。
フリーランスの仕事をしている人が多いですね。今までのメンバーでは、ライター、プログラマー、デザイナーなどのweb系のほか、大工やバレエダンサー、整体師や着付け師など多様なメンバーが住んでいます。
暮らしをつくるといっても全てを自給自足しているわけではなく、お米は自分たちですべて賄っていますが、畑は小さいので近所の農家さんにいただいたり、地元の直売所で買うこともあります。むしろ全部をやりすぎないように意識しています。そもそも全部やろうとすると大変ですし、そこだけに注力しちゃうとどんどん内側に目が向いていってしまう。そうではなくて、外側にも目が向くよう“余白づくり”も大事にしています。
--今回のコロナの影響で、生活が一変してしまった方や価値観が変わった方も多いと思います。特に人口の多い都市部では顕著ではないかと…。いとしまシェアハウスではコロナの影響はありましたか?
暮らし面ではほとんど変わっていません。もともと暮らしを自分たちでつくっており、ある程度の食べ物も手元にあるのでそれほど大きな影響はなかったです。一方で、僕らの暮らしに興味や共感を持ってくれる人が増えた感覚はあります。昨年から出産のタイミングもあり情報発信をほとんどしていない中でも実際に問い合わせが増えました。
ただ、今まではシェアハウスをベースにワークショップなどいろいろやっていましたが、お客さんにシェアハウスへ来てもらうことはできなくなってしまいました。なので今は、逆にこちらから“暮らしを届ける”ことを考えています。実際に田舎に暮らすほどではないけれども、僕たちの想いに共感してくれる人に届けたいなと。
--暮らしを届ける!具体的にどんなことを考えているのでしょうか?
家での「野菜づくりキット」や「味噌造りのキット」、「納豆づくりキット」などをお届けして、僕らの暮らしの一部を簡単に体験できるサービスを考えています。土がなくても野菜ができる「スプラウトの水耕栽培キット」とか。実は野菜を育てるのは思ったよりも簡単ですし、毎日の成長が目に見えて楽しい。それに水に浸けて育つスプラウトの方が、冷蔵庫で保存する野菜よりも長持ちするし、切ってもまた生えてくる。コロナで買い物に行くのが大変でもスプラウト栽培である程度暮らしていけるかも…そんな感覚をもってもらいたいと思っています。
--楽しそう!やってみたいです。「農のある暮らし」はこれから考え出す方も増えてくると感じていますが、実践者として実際はどうですか?
僕にとっては良いことばかりです。元々、僕をはじめシェアハウスのメンバーは、自分でつくることがすごく好きなんです。それに、暮らしを自分でつくれると、やっぱり安心感があります。震災やコロナがあっても、食べ物をつくれる、自分の暮らしを自分でつくれるという安心があると、心の余裕ができますし、色んなことに気付くことができる気がします。
もちろん大変なこともいっぱいありますよ。僕たちは農業のほかに狩猟もするのですが、どちらも本当に「労働っぽい労働」。力仕事だし、汚れるし、肉体的にも大変。これを楽しいと思えるかは好みもあると思います。
それから、田舎暮らしを考えているなら気になってるであろう「地域の付き合い」とか。実際に僕も移住者と地域の人とがうまくいかない事例をいろいろな場所で見てきました。
--そうですね。「地域との付き合い」は気になっている人も多いと思います。
基本的には相手を尊重するのが大事だと思っています。僕たちは外から来た人間だし年代も若い方です。ただ、言いたいことは我慢せずにハッキリ言うようにはしています。今は多様性の時代と言われているけれど、すべてに共感したり全員と同じ思いを共有するのは無理ですよね。そうではなく、お互い共感している部分と違う部分がちゃんとあるということを理解し、尊重するこが大事かなと思います。
--地域の人とうまくやっていく、信頼されるコツはあるのでしょうか?
やっぱり続けることかと思います。シェアハウスの暮らしも今年で8年目。春になると、僕らも地域の人もみんな畑に行って仕事をする。言葉を交わさなくても「やってるやってる」とお互いのことが見えている。地域の人たちと同じ季節のリズムで暮らす、それを続けることで信頼してもらえてるかなと思います。