2015年4月、福岡市西区今宿に誕生した海辺のシェアオフィス『SALT』。このシェアオフィスは、私たち「福岡移住計画」が運営しています。オープンしてから4年が経過し、『SALT』にはどのような方々が入居し、日々空間を共有しているのか。シリーズ「SALTな人」では、利用者の視点から『SALT』という場のリアルについてお話を伺います。
今回のインタビューは、公共文化施設や保育・教育施設などの空間デザインとワークショップを多数手がけている建築家の遠藤幹子さんです。
男性色の強い建築業界で子育てをしながら新しい領域を開拓されてきた遠藤さんにSALTとの出会いや地域づくりへのアイデアなどをおうかがいしました。
ーー前回の小野里寛子さんに引き続き、SALTを土日祝日利用できる「ホリデー会員」の遠藤にお話を伺います。まずは簡単な自己紹介と、お仕事内容について教えていただけますか?
生まれ育ったのは神奈川県の横浜市です。大学で東京藝術大学の建築学科に進学しました。
父が文学に携わる仕事、母がピアノ講師をしていた影響から、“ファンタジーあふれるものづくりがしたい”という思いを抱きながら育ちました。
例えば絵本の中の夢のある世界を表現したいと思ったときに、建築の知識があれば、自分の頭で描いたものを実際に形にしてつくりあげていくことができる。そこで建築に可能性を感じてこの道に進みました。
「建築とおかん」の原点
ーー「ファンタジーあふれるものづくり」はまさに遠藤さんの手がける作品のイメージとぴったりです。遠藤さんのご活躍をメディアなどで拝見させていただくと、建築家であり、アーティストという印象が強いなと感じます。
そうですね。最近の活動では、美術系作家や子どもの空間のエキスパートのような一面も多いですが、建築家として駆け出しの頃は違いました。
建築業界は男性色が濃く、当初は彼らと渡り歩くようにガツガツと仕事をしていました。けれど出産・子育てをきっかけに自分らしい建築のスタイルというのを少しずつ模索するようになりましたね。
実は妊娠6ヶ月のときにオランダの大学院大学に留学したんですよ。その最中に、オランダで出産・子育てを経験しました。
帰国してからは、徹夜が当たり前のような日本の建築の世界で、当時は乳飲み子を抱えながら大きな作品を手がけるなんて、とてもじゃないけれど時間が追いつかないし、コンペに勝つのも絶望的…。やり方を変えるしかないと痛感しました。
そんなときに留学先の大学院大学の先生からよく言われていたことを思い出して。「幹子はテクニカルな従来の建築ではなく、子宮の中で何かを培養していくような建築がいいから、それで行きなさい」とわたしのこと認め、背中を押してくれたんですよ。
メンターでもある先生の言葉に励まされて、無理に周りに合わせて建築業界で同じキャリアを積むより、子どもがいる母親独自の視点を取り入れた建築をしていこうと決めたんです。
最初は、子どもがいるからこんな仕事しかできない…という葛藤があったんですが、少しずつ自分にしかできない建築にフォーカスしていきました。
▲オランダ時代
今となっては自分のやり方は「一石三鳥」くらいだって思えますよ。子どもを連れて週末に出かけた先で見たことが建築家としては全てが知見になる。
場所をデザインするときに建築家の専門的な言葉と母親としての言葉、どちらも根拠を持って提示することができるので、企業への提案の場面でも「間違ってるわけないでしょ」って、ドヤ顔で言えますし(笑)。
もちろん一級建築士資格やこれまでの経歴などの基盤があってのことですけどね。
十数年かけて公共文化施設や教育施設などの建築を無我夢中で手がけてきて、ようやく自分のブランディングが確立してきたと感じています。
ーー充実のキャリアを歩まれているように見える遠藤さんにも葛藤の時期があったんですね。当時は遠藤さんのように母親の視点を取り入れた建築をする人は少なかったんじゃないですか?
そうですね。当時は「建築とおかん」みたいに、子育てと建築を切り離さずに取り入れている人は日本にはほぼいなかったですね。
最近では後輩の女性たちから「よくぞ新しい道を切り開いてくれました」「救われました」という声をいただきますね。
ここまで自分の建築を確立できたのも、オランダに留学して現地のライフスタイルに触れられたことが大きかったです。