【ぼくらが連れて行きたい店vol.47】優しい食と木の道具たち。大切な気持ちが手渡されるカフェ(jingoro)

―ふき子さんのその時の喜びが、グングン伝わってきます。この新たな空間でランチ・喫茶をスタートされましたが、これから更にどんなことに取り組んで行きたいと思われますか?

イベントも開催していきたいと思っていて、まず11月に写真家の野川かさねさんの写真展を『MINOU BOOKS AND CAFE』さんと一緒に開催します。山や自然をテーマに撮影している方で、ここでは山小屋にまつわる写真をご覧いただく予定です。他にも、コンサートや朝食会もしていきたくて。出来ることから少しずつ、形にしていきたいです。
“食”に関しては、ビーガン(植物性)のものもご提供できるようにしたいと思っています。私自身がアレルギー体質で、食については両親にすごく心くばりしてもらっていたんです。今度は自分が母親になって、ビーガンでも特別じゃなく、普通の人が普通に食べておいしいと感じられるものを提供できるようになりたいです。それと、今も始めている事では、四季折々のうきはの美味しいものを、瓶にギュッと閉じ込めた保存食を続けていきたい。この時季は、梨のタタン風ジャムと杏のジャム。もうすぐカリンも出ますね。楽しみです。

▲料理のテーマは「毎日でも食べられる、リッチすぎない普通のおいしさ」。

―娘さんは、こうしてお店を始めたことをどう捉えているようですか?

日曜日に一緒にいてあげられなくなって、今は母にみてもらっています。ごめんねと思う気持ちもあります。でも、母に連れられてお店に来ると、“お母さんにかまわれたい”気持ちをおさえて、私の様子をじっと見ています。それで覚えるのでしょうか、保育所ではおままごとをしながら“お店屋さんになる”と言っているようです。何だかうれしいです。

―娘さんなりに受け取っているものがあるのでしょうね。ふき子さんがご両親から日々の暮らしを通して何かを受け取ってきたように、今度は娘さんに渡していく番ですね。

実は、父とは性格が似ているので、何かと衝突しています(笑)。2人とも一直線になるので、周りが見えなくなっちゃうんです。そこを母がおおらかに見守ってくれているという感じです。私の場合は、母と一緒にいると安心、落ち着きます。私たち夫婦の関係も、父と母のそれに似ているかもしれません。娘は、今はお客さんとしてしか来れませんが、もう少し大きくなったらお手伝いをしてもらおうかな。お客様が大好きなので、気分があがりすぎちゃうんですよ。だから、もう少し落ち着いてから。

―お父様に似ていらっしゃる、ですか。では、ふき子さんの中にも、強いこだわりというか、譲れない部分があるのかもしれませんね。木工の仕事を切り拓いてきた山口さんの娘さんですから

あるかもしれませんね。例えばスープカップは、陶芸をしている大学時代の友人に作ってもらいました。父を頼れば、知り合いの作陶をしている方の作品を使わせていただいたり、早く物事は進むと思うんです。けれど、ハードルを下げたくないというか。自分で、きちんとハードルをクリアしていきたい。そういうところはこだわりなのかもしれません。
そして、出来たら同年代の“これからの作り手”と一緒に頑張っていきたくて。他の分野の方にも“一緒に仕事をしたい、共に成長したい”と思ってもらえるようなお店にしていきたいです。私は、料理を専門に学んできた人間ではないので、いわゆる“美味”を追求する料理を提供しようとは思っていないんです。そういう料理は本当にプロとしての修行をされてきた方々がおられるので。ここでは、空間・人もあわせて、毎日でも“おいしい”と感じてもらえるような、そんな機会を提供できたらと思っています。世の波に流されず、個性を出しすぎず、馴染めるようなお店・人になっていきたいです。
お話しているうちに、自分の中でぼんやりと考えていたことが形作られる感じですけど・・・何だかすごく高い目標です!うわぁ、大丈夫かなぁ。また何か変えていくかもしれないけれど・・・でも今はそう思っています。頑張ります。

▲料理には、地元の生産者のものが数多く登場。『DONI FARM』のカボチャを使ったスープ、『松野牛乳』で手作りしたベシャメルソース、『リバーワイルド』のハム。友人である大和田友香さんに作ってもらったスープカップ(右上)。そして料理を楽しみながら“使用感”を実際に味わうことが出来る木の器。


▲メインカット撮影の時、ふき子さんが大事そうに抱えたのは、実家から持ってきたチャーチチェア。彼女が小さな頃に、父・和宏さんが作ってくれたもの。今も現役としてお客様を出迎える。

大きな窓から見える緑、木の道具たちがもたらす安心感、そして四季折々の食材たち。心地良さがただよう『jingoro』。ご両親への思い、娘さんへの思い・・・色々なお話をうかがいました。これからも一城さんと共に、大切に育てられてきたものをまた誰かへ手渡す、そんな気持ちが伝わるお店を作っていくのだろうと感じさせてくれたひとときでした。

【jingoro】
http://jingoro.jp/
福岡県うきは市吉井町鷹取1557-3
TEL:0943-73-7773
営業時間:11:00〜17:00
定休日:火曜日〜木曜日

1 2

Pick up!

keyboard_arrow_up