本屋で街を活性化。ブックスキューブリック店主・大井さんが考える「本屋の在り方」。

90年代後半から始まったといわれる「出版不況」の真っ只中、2001年4月に『ブックスキューブリック けやき通り店』はオープンしました。まわりから「なぜ今本屋を?」といわれる中、敢えて荒波の中に飛び込んでいった大井実さん。書店業界の現状や、いま街の本屋が果たす役割などについて伺いました。

15坪のちいさな空間

ーまずはじめに、ブックスキューブリックはどういった経緯で、誕生したのでしょうか?

私は大学を卒業して、東京のイベント企画会社に就職しました。時はまさにバブル時代絶頂期。海外のデザイナーやアーティストなどを招いて、さまざまなイベントの企画・運営を担当していました。そのど派手さが面白くもあったんですけど、“有名人の◯◯さんとつながっている”だとか“これだけ稼いでいる”だとか…そういう価値観で成り立つ世界に違和感を感じ始めて。もっとのんびりと競争の激しくない世界で暮らしたいと思って、28歳の時にイタリアに渡ったんですよ。そのイタリアでの経験がブックスキューブリックには反映されています。

ーいきなりイタリアですか! また、それはすごい行動力ですね。

海外から訪れるデザイナーやアーティストとの出会いもそうですが、後輩に帰国子女がいたので「海外で暮らしてみたい」と思うようになったんです。そして行動に移すなら、結婚前の今しかないと決意したんです。

個人商店が街のインフラに

ー実際イタリアに住んでみてどうでしたか?

人と人との距離感がちょうどいいんです。アンチ・グローバリズムの国なので、大型スーパーやチェーン店などもほとんどなく、バールのような個人商店がたくさん並んでいるんです。その個人商店が街のハブのような存在になっていて、街を歩くと必ず知った顔と遭遇し、会話を交わす。そんな風景を見て、自分もいつか街の人がつながるような店をつくりたいと思うようになったんです。

※イタリア時代は、彫刻家の野外展を手伝っていたそう。

ーどうしてそれが本屋だったのでしょうか?

どうしても東京に目がいってしまいがちですが、豊かな風土に育まれた日本には、その土地々々においしい食べ物や伝統文化などが根付いています。ただ、地方には本屋やレコード屋といった文化的な商店が少ない。だから文化的でいいお店をつくったら、スローライフがより楽しくなるんじゃないかって思ったんです。

ー店頭に並べる本はどのように選んでいるのでしょうか?

“その地域に住んでいる人の生活を楽しくする”というのをテーマに選んでいます。例えば、衣食住、そして人生哲学や文学…大切な要素をここで習得してもらえるような選び方をしています。

ーターゲットはどのように考えているんでしょうか?

実は、ターゲットは自分自身なんです。興味関心の幅が広いので、狭い空間ながらもさまざまなジャンルの本をそろえているのですが、それを同じように“良い”と思ってくれる人が一定数いるという前提で考えている。かといって、表面的なものばかりを置いていてもつまらないので、“深さの程度”には配慮しています。まずはこちらが入り口を用意して、その先の展開はご自身でどうぞ、といったような、水先案内人になれるような本を置いています。

ー並べられている本は全て大井さんご自身のフィルターがしっかり通されているんですね。

出版社と本屋の間には「取次」という業者が存在していて、各書店に本が配本されるのですが、一定期間内でしたら、売れ残った本を返品することができるんです。新刊ばかりを並べているのがいい本屋だとは思わないので、自分のフィルターを通して、長く売れると感じたものは丹念にチェックして置いておく。そのことによってお客さまからは「大手書店チェーンでも出会えなかった本が、ここでは出会える」というお声をいただけるようになりました。

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「出版不況の中での2号店、カフェ併設は時代の流れ?

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