【ぼくらが連れて行きたい店vol.38】二人で歩んだ時間と空間が生んだ福岡の名店。(珈琲美美)

魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。

風が吹き抜けると、生い茂った葉が音を鳴らして揺れる、けやき通り。通りに面した一画に、自家焙煎のネルドリップコーヒー専門店『珈琲美美(こーひーびみ)』はあります。1階は焙煎室と豆の販売、2階は喫茶スペース。福岡だけでなく、全国各地、海外からも足繁く通うファンが多いのだとか。
「取材に慣れないもので、お話ができるか…」。控えめに笑いながら、出してくださった名刺には「森光 宗男・充子」と、ふたつ並んだ活版文字。『珈琲美美』店主・森光充子さんにお話を伺いました。

−創業から40年になるそうですね。

はい。1977年に福岡市中央区今泉にお店を開いたのが始まりですから、40年になります。主人でマスターの宗男は30歳、私は25歳の頃でした。オープンしたばかりの頃、お客さまはとても少なくて、暇な時間が過ぎる毎日でした。そして店の特徴である、自家焙煎、深煎り、ネルドリップの抽出法で珈琲を出している店はほとんどなかったです。周りの人からは「3年間は我慢しないとだめだよ」と言われていましたが、内心、3年も持つのかしら…と思って過ごしていましたね。福岡の土地で受け入れられるには時間がかかりましたね。

−今泉から、現在の場所・赤坂に店舗を移したのが2009年ですね。

そうですね。お客さまが徐々に増えてきたのと、備品や焙煎機を置くスペースがほしくて。このあたりは自宅が近いのもあって、買い物や散歩でよく通っていたんです。けやき通り沿いは、緑も多くて気持ちが良いし、近くに神社や美術館、大濠公園も城跡もある。雰囲気がいいから、マスターと二人で「この辺りで、お店を借りられたらいいね」と話していました。タイミングよく、ここの設計士さんに「物件が空いたよ」とお声掛けいただいたんです。

−2階の喫茶スペースは特に、緑が目にやさしく、心地よいですね。テーブルや椅子、店内の什器はどれも味わい深さがあります。

ありがとうございます。テーブル、椅子、ショーケースなど一部の備品と、焙煎機は、マスターが20代の頃に修業していた店、『もか』(東京・吉祥寺、2008年閉店)から譲り受けたものです。長く使っているうちに馴染んで艶も出てきました。
うちの店名『珈琲美美』という名前を付けてくださった秦秀雄さんも、美術や骨董に精通した方だったから、マスターも影響を受けて、よく勉強をしていました。美術、骨董、焼き物や民芸、書…美しいものが好きで、店内に置くものひとつずつ、こだわりを持って選んでいましたよ。あと店に立つとき、無地のシャツだと首元がさびしいからと、琥珀に革紐を通した首飾りもつけていました。私も今は紅珊瑚をつけているんです。少し色が入って、ポイントになるでしょう。こういったところもマスターのこだわりからくるものです。

−この、伝票の裏にある手書きの文章も…

そうそう、これもマスターが書いたもの。何度転んでも、めげずに起き上がるダルマは、『珈琲美美』のロゴマークにも使っています。シュガーポットやお盆も、実は至る所にダルマのモチーフが潜んでいるんですよ。

−2016年12月。ご主人の宗男さんは他界されたとお聞きしました。

いつも皆に等しく優しく、穏やかな人でした。焙煎も、自分がしてみせながら、私に教えてくれたんです。なにか教科書があるわけではないので、マスターのそばについて、見て、真似て、なんども繰り返しやってみながら覚えました。週に3回、焙煎の日は朝4時に起きます。いまではもうすっかり慣れて、スッと起きられますよ。

−宗男さんと二人でお店を営まれてきて、なにか思い出に残っていることはありますか。

そうだな…。焙煎を教わり、しばらくしたとき。マスターがふと、「これだったら自分がいつ居なくなっても、お店を任せられるね」と言ってくれたんです。珈琲をずっと追究してきた彼に言われたからこそ、本当に嬉しかった。私にも、お店を続けていけるかなあと思えたんですね。

−宗男さんが亡くなられたあとの美美にも、変わらず毎日たくさんの方が訪れていますね。

ありがたいですね。マスターが追求した味を楽しみに、足を運んでくださる方がいらっしゃる。私たちは続けられる限り、一杯一杯心をこめて、珈琲をお出しするだけです。これから、夏の暑い日には特に、深煎りの珈琲がぴったりですよ。朝一番の淹れたてはまた、特別美味しいですよ。

そう言って、深煎りの珈琲を出してくださいました。キリッとした苦味の後に、まろやかな奥深さ。豆の油分がなめらかに抽出された、香り高さがとても印象的でした。充子さんが立つカウンターの後ろには、優しく笑う宗男さんの写真。宗男さんと充子さん、“二人”並んで営んでいる福岡の名店です。

【珈琲美美】
https://cafebimi.com/
福岡県福岡市中央区赤坂 2−6−27
TEL:092-713-6024
営業時間:12:00〜18:00(L.O.)
豆売り:11:00〜19:00
定休日:月曜日と第1火曜日
(但し、祝日の場合は翌日)

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