まちの人を想う地域愛とベンチャー魂からタクシー業界に変革を。(パンダタクシー)

まちの人を想う地域愛

福岡にはパンダマークのタクシーが走っています。初乗り料金は300円と格安。東京で初乗り410円への値下げがニュースになりましたが、なぜこの価格設定なのか、社長の青柳さんにお話を伺いました。
すると、安さをつくりだすためのしかけと、まちの人を想う地域愛が見えてきました。

−パンダタクシーは今年が創業10周だそうですね。タクシー会社をはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

「将来は社会の役に立つようなビジネスを起こそう、と考えていたんです。若いころはバックパッカーで、いろんな大陸や国を放浪していました。たくさんのまちを歩きながら、日本にまだないものを探して。

それで目をつけたのがタクシーだったんです。海外の多くのまちでは、バスや電車と近い感覚で、手軽な移動手段として利用されています。一方で日本では、ちょっと特別な乗り物というイメージが強い。まちの人の身近な乗り物になれば、地域の役にたてると思いました。

たとえば、まちには高齢化や少子化の課題がありますよね。そして高齢の方や妊婦さん、子連れのパパママには、移動が大変だと感じる人も多い。そうした方たちに、廉価な料金で、優しい乗務員が、清潔な車両で、近距離でも関係なくしっかりお送りするようなサービスをしたいと思ったんです。

そして海外から日本を訪れる旅行客たち。彼らも日本語圏での移動で困る人もいます。そこを私たちが丁寧に案内して、福岡をリピートしてもらおう。観光でも地域の役に立ちたいな、と思ったのです」

−そんな背景があったのですね。バックパッカーのお話は意外でした。タクシーを身近にするための格安料金300円なんですね。でも、こんなに安くて大丈夫なんでしょうか?

「消費税率引き上げ前は290円でした。最初は無謀だと言われたんですよ。でも、私には事業として成り立たせられる確信があったんです。

予約を中心にした配車システムを整備して、お客さんが乗車していない時間をとことん減らしています。無駄がないので安くできています。初乗りだけでなく、長距離乗っていただいても廉価なので安心してください。今は予約がパンパンで、お客さんにお待ちいただくような状況なのですが、それでも私たちを選んでいただいていて、うれしいですね。

お客さんはほとんどがリピーターです。予約乗車が9割で、手を上げて乗車いただくのは1割。予約がスムーズになる無料会員数は、今は20万人以上いらっしゃいます」

−ドライバーさんは料金が安いと不満じゃないんですか?

「歩合給だとそうなりがちですよね。でも私たちは固定月給制で、いいサービスをして業績が上がるほど賞与が出る仕組みにしています。だからこそ、乗車料金が安くても、ワンメーター乗車でも、丁寧な接客ができるんですよ。

私たちも、最初は歩合給だったんです。するとやはり遠距離の予約を優先しがちになってしまいました。でもそれはよくない。そして段々と評価方法を変えてみて、最後は“完全固定給にしよう”と決断したんです。評価期間も半年間、長期的に評価するようにしました。お客様へのサービスに対して賞与として評価するように変えたんです。

パンダタクシーは、成熟したタクシー事業に挑戦するベンチャー企業です。日本にはまだないようなサービスを作るためには、思い切ってしくみを変革する必要がありました。

私自身も、起業して3年目くらいまでは乗務員としてタクシー運転をしていました。そして感じたのは“安心安全の大切さ”です。お客様が急いでいらっしゃる時にも安全に走りながら合理的なルートを選んで、“思ったより早かった”と喜んでいただいたのが印象に残っています」

−安さの背景にはそんな仕組みがあったんですね。挑戦者としてのエネルギーを感じます。

「まだまだこれからです。今年からは“ドライブアテンダント”という新しい職種をつくって、新卒採用も始めました。

“ドライブアテンダント”というのは、キャビンアテンダントのようなタクシー乗務員。多言語の外国語を話せて、九州全体の観光案内をできて、ホスピタリティあふれる接客サービスができる人材です。これからは“ドライブアテンダント”をたくさん育成していこうと考えています」

ホテルマンみたいなタクシードライバー

接客のサービス品質が大事だというパンダタクシーさん。どんな人が、どんな運転をしているのでしょうか?中途入社の染矢さんにお話を伺いました。

「前職は介護職をしていました。パンダタクシーを選んだのは、ホスピタリティの仕事だということと、運転が大好きだからです。運転していて好きな景色はいろいろありますが、私は特に長浜あたりの都市高から見た海の景色が大好きです。通るたびに“いいなあ”と思っています。

運転が大好きなので、車をうまくコントロールして居心地をよくすることは楽しいです。カーブの時には遠心力も気にしたり、常に後ろの人の気持ちになりながら運転しています。技術の高めがいがあります。子ども連れのお客様に“いつもは車酔いするのに、今日は酔いませんでした”と言われた時にはすごくうれしかったですね。

パンダタクシーの乗務員はホテルマンみたいな感じなので、基本的には自分からお客さんに不要に話しかけたりしないんですよ。話しかけていただけたら、お話をしますけれども。なので本当に、心地よく移動する手段として、気軽に利用いただけたらと思います。ご乗車時には“どのルートで行きますか?”といったん聞きますが“おまかせで”と言われたら最短ルートで行きます」

-優しい走りの技術、奥が深そうですね。よく子どもを酔わせてしまうようなタイプのアマチュアドライバーさんはどうしたらいいんでしょうか?役立つアドバイスをいただけますか?(笑)

「酔いやすいのは特に発着時なんですね。そこを、やわらかく。あとはカーブを、やわらかく。常に後ろの人の気持ちになることですかね。そうすると自然に安全運転になると思います」


※ジェットパンダ号

この創業10周年を記念してつくられたジェットパンダ号は、1年間福岡の街を走り、その売上の半分を福岡市動物園に寄付されるそうです。タクシー業界に挑戦するパンダタクシーさん、これからの展開にもなんだかワクワクしますね。

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