【県外飛び出し企画】新たな歩みを見せる椎葉村のこれから。(連載3/3)

この春(2018年)から宮崎県椎葉村ではじまるプロジェクトに、私たち福岡移住計画としても一部お手伝いさせていただきます。そのことに伴い椎葉村にお招きいただいたので、椎葉村の魅力を3本連載でお伝えしていきたいと思います。

椎葉村では、古くからの伝統を大切に受け継ぐ一方で、村を活性化するための新しい取り組みも次々と行われている。村役場の椎葉豊さんによると、数年前、村の総合計画を立てるにあたって人口ビジョンを計算したところ、2060年には500人という衝撃的な数字が出たのだという。このままでは立ちゆかない。村の文化や精神性を継承していくためには、若い世代の力が必要だ。しかし、村内には高校がなく、村の子どもたちは進学のために一度村を出て、そのまま外で就職してしまう人も少なくない。ならば、地元の出身者にこだわらず、椎葉村に興味を持ってくれる若者に来てもらおう。そんな想いから「地域おこし協力隊」の募集を始めた。すると全国から予想以上の応募があり、今は8人の協力隊がそれぞれのミッションのもと、役場や地域の人たちと共に活動している。
「秘境に住んでみたくて」「来てみたら村の人たちがステキで」「ミッションがはっきりしているのがいい」、そんなふうに応募の動機を語る協力隊の皆さん。年齢もキャリアもバラバラだが、地元の若手と集まってもらうと、皆さんとにかく明るくケラケラとよく笑う。集合写真を撮るときも「笑顔でお願いします」なんて声かけはいらない。自然にこの笑顔なのだから。

宮崎市で生まれ、沖縄の大学を出て埼玉のホームセンターで働いていた東野舞湖さん。秘境という言葉に魅かれて初めて村に来たとき、「山の奥深くで夜は真っ暗…あまりの秘境ぶりに、私ここで生きていけるやろかと不安になった」と打ち明ける。しかし、村の人と話すうちに「ぜひこの人たちと働きたい」と思い、今は観光コーディネーターとして村の魅力を発信している。

同じく宮崎市出身で東京の金融機関に勤めていた上野諒さんは、農業がしたくて椎葉村へ。トマト農家で研修しながら、前職の経験を生かして村の農業の事業化や法人化を目指している。

愛媛出身・村上健太さんの肩書は、移住コーディネーター。国内外でいろいろな仕事をしてきたが、「ここは自然の恵みを実感できて、人のあたたかさに触れられる」と話す。

元システムエンジニアの天野朋美さんは、夫の育磨さんと協力隊に応募して、2歳の息子さんと家族3人で広島からやって来た。育磨さんはもともとトラック運転手で、休みが不定期。「家族の時間を増やしたい」と転職先を探す中で目に留まったのが、この協力隊だった。試しに来てみたところ、村の人たちのおおらかさや優しさに感動し、子どもをここで育てたい、自分たちもこんなふうに年を取っていきたいと移住を決意。育磨さんは木工担当、朋美さんは空き家や遊休施設を活用した地域活性化に取り組んでいる。

連載の第1回目でふれた、春に始まるユニークな企画のリーダーを務めるのも朋美さんだ。それは、村内で使われなくなった老人ホームを改装して、テレワークの拠点『椎葉テレワークセンター』(仮称)を立ち上げるというもの。テレワークとは、パソコンやインターネットを利用した、場所や時間にとらわれない仕事のスタイルのこと。「この秘境でテレワーク!?」と驚いたが、説明を聞いて納得した。椎葉村は農林業に従事する人が多く、閑散期がある。そもそも仕事自体が潤沢にあるわけでもない。「空いた時間にちょっと稼げればいいのに」「結婚や移住で村に来た人でも子育て中の女性でも、誰でも無理なく取り組める仕事があれば」。そんな声に、どこでも仕事ができるテレワークはまさにピッタリなのだ。


※取材時のテレワーク拠点はまだ改装中。

村ではテレワーク仲介会社とタッグを組み、村内の希望者がライティングなどの仕事を請け負えるようにセミナーを始めた。これまでセミナーを受けた人は、30~50代まで15人を超えるという。例えば、村の中心部にある商店の高島清行さんは今、観光協会でホームページの更新やガイドなどを担当している。

地元新聞社の特派員として、1年間寄稿した経験をもとに、テレワークにチャレンジし始めた。地元出身の椎葉奈木沙さんは、村のいろいろな人たちが集まる場『シェア椎葉』をセンター内に作ろうと奔走している。テレワーカーは自宅で仕事をできるが、村ではセンターという拠点を作ることで、人と人とが交流し、つながり、新しいアイデアが生まれることも期待しているのだ。

移住者の皆さんはこう語る。「これまで人と人が競い奪い合う社会に生きていたけど、ここはみんなが譲り与え助け合う社会」「日常の営みが、そして生きていることそのものが楽しくなった」「都会では大勢の中のひとりだったけど、ここに来ると大歓迎されて、一人ひとりがとても重要な存在に。自分の存在価値が高まった気がする」。脈々と受け継がれる大切なものを守りながら、未来に向かって新たな一歩を踏み出す椎葉村の人たち。仲間に加わってくれる人を心待ちにしている。気になる人は、ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。

椎葉村を訪れた1泊2日。初日は美しい雪に彩られ、しんと静まり返った村には木々の深呼吸と川のせせらぎが聞こえていた。晴天に恵まれた2日目にはすべてがきらきらと輝き、のどかな風景に心身がほどけていった。そんな風景と共に今も鮮明に思い出されるのは、村を愛する人たちののびやかな笑顔。村の人の顔や息づかいがわかると、それまで遠かった椎葉村がグッと身近で懐かしいものとなり、特別な存在に思えてくる。そんな幸せを感じつつ、これからも関係性を続けていきたい。

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