先端素材Tシャツで日常に革新を。福岡での新たな挑戦。代表・西田誠さんインタビュー
大手繊維メーカーの東レで、新規事業を2度立ち上げて大成功をおさめたシリアルイントラプレナー(連続社内起業家)・西田誠さん。3度目の新規事業となる「MOONRAKERS(ムーンレイカーズ)」では、JAXAと東レが共同開発した宇宙技術も含む先端素材を使用した服づくりで、現在大きな反響を呼んでいる。2024年5月には「日本新規事業大賞 by Startup JAPAN」で大賞に輝き、2024年12月には福岡市西区今宿のSALTにて、作り手と使い手を繋ぐユニークなショールーム併設のモノづくり現場「MOONRAKERS福岡今宿リンクラボ」を開設するなど、活動の幅を広げている。
今回の記事では、福岡で一緒に楽しくチャレンジする仲間を募集するため、2回にわたって同社の魅力に迫る。第1回目は社長の西田誠さんにじっくり話を聞いた。
―まずは「MOONRAKERS」とは何か教えてください。
MOONRAKERSは、大手化学メーカーである東レ発のスピンオフベンチャーです。2023年11月に東レからも出資を受け、「出向起業」という今までにない新しい働き方で独立起業して、事業を開始しています。
MOONRAKERSのコンセプトは、「先端素材による未来の生活」です。日本が世界に誇る先端技術と日常生活をダイレクトにつなぎ、ユーザーとともに快適で便利で美しい「未来の生活」の創造を目指しています。
具体的には、クラウドファンディングの受注販売システムを活用して、先端素材を生かした商品を販売し、ユーザーの声をもとに商品開発をしていることが大きな特徴です。
唯一無二の先端素材を使用した商品はユーザーの熱狂的支持を得て、現在では毎月のようにプロジェクトを実施し、数千万円の売上が上がることも珍しくない状況となりました。また、有名ブランドからもコラボレーションの依頼が殺到し、BtoBの事業も拡大しています。加えて日本のみならず台湾でのプロジェクトも異例の大成功をおさめ、現在もインバウンドや越境ECで台湾から多くの皆さまが継続的に商品を購入いただいています。
こうした状況から、MOONRAKERSは初年度から売上は2億円を超え、黒字化を達成しています。また、現在では1000枚単位の商品が1日で売り切れるなど人気が沸騰しており、2年目以降の大幅な事業拡大が確実な状況です。
―西田さんはなぜMOONRAKERSのプロジェクトを始めたのですか。
僕は四国は愛媛県の山間の町で生まれ、屏風のような山に囲まれて育ちました。そうした環境から、子どもの頃より、「世の中がどうやってできているのか知りたい」「(山の向こうにある)見たことのない景色を見たい」という思いを持っていました。
大学を卒業して東レに入社すると、その思いを基に20代から新規事業に挑戦。開発したフリース素材をユニクロに飛び込み営業し、大型契約を獲得。東レとユニクロの取り組みのきっかけをつくるなど大きな成果をおさめました。次に、純然たる素材メーカーであった東レで、素材から縫製までサプライチェーンを延伸する新規事業にも取り組み、こちらも7年で50億円まで売上を伸ばすなど、大成功しました。
しかし次第に、日本のファッション産業に危機感を持つようになったんです。
というのも、長く続いたデフレでファッション業界は疲弊。日本が誇る先端素材も、アパレルや小売りから「高くて買えない」と言われてしまう…。それは、このままでは先端素材がすたれ埋もれていくという危機感でした。
そこで、「それならば自分自身が先端素材の素晴らしさをユーザーに直接伝える事業をしよう」と決意。最新の先端技術を搭載した未来の服、原料から販売までサプライチェーンを完結する事業という、まだ見ぬ景色を見たくて、未知の可能性にかけることにしました。
―プロジェクトから会社の設立まで、どのように進めたのですか。
東レの社内ベンチャーとしてファーストプロダクトをローンチしたのが2020年9月です。お恥ずかしながら当時しっかりした事業構想があったわけではなく(苦笑)、日本が誇る先端素材をどうにかしなければという思いに突き動かされたものでした。
ちょうど当時、クラウドファンディングサービスが出てきて、これなら受注販売システムなので在庫を持つ必要がなく、消費者にダイレクトに思いを伝えられて、テストモデルとして最高だと。やっているうちに人気のプロジェクトになり、ユーザーから「実物を見たい」という声が多数あったので、2021年7月には日本橋に小さなショールームを作りました。
その後もクラウドファンディングでプロジェクトを重ね、ショールームにプロジェクトの商品を並べていると、今度はユーザーの皆さんから一般販売してほしいという声をいただくように。でも、在庫を抱えることになるし、ECサイトを作るのは大きなお金がかかるから迷っていたところ、ショッピファイというECサイトの構築と運用を低価格で簡易にできるサービスが生まれたのを知り、ユーザーの声に押される形で2022年からECサイトでの販売も始めました。
―動きがスピーディですね。
新規事業で最も重要なのはスピード感です。そして97%が失敗すると言われる新規事業では、失敗しても大丈夫な環境をつくり、その中で高速で事業検証を重ねていくことが求められます。MOONRAKERSの事例では、最初は失敗しても在庫を抱えることのないクラウドファンディングでとりあえず始めて、そこで稼いだお金でショールームを作り、最後に低価格で開設と運用ができるショッピファイでECサイトを開設しました。そして、お客さんからのオーダーが増えたので2022年4月に子会社を作り、さらにスピード感を上げるために2023年11年にスピンオフしました。独立によって、事業のスピードが格段にアップし、初年度から黒字化し、現在ではさらに大きな成長が確実な状況となっています。
―会社や製造の体制はどのようになっているのでしょうか。
MOONRAKERSはそもそも東レ発のスピンオフベンチャーでもあり、また、「共創による新たなファッションビジネスの創造」を目指すプロジェクトでもあるので、業務のほとんどは東レも含め外部企業との連携で実行しています。よって、社内に置いているのはコア業務だけです。例えば、素材の生産は東レや福井県のミツカワ、石川県の小松マテーレといった日本が誇る繊維製造企業に。縫製の生産は長崎県のアパレルオオタや熊本県のサトウ繊維など、こちらも日本が誇る技術を持つ協力縫製工場にお願いをしています。
MOONRAKERSのコア業務は、開発です。高速で商品開発を行い、ユーザーにダイレクトに販売することでその声を聞き、さらにそれを反映した開発で「服の進化」を進めるスタイルです。そういう意味ではファブレス(工場をもたない)メーカーであるAPPLEに近いと言えるかもしれません。販売手法も店舗をどんどん拡大する形ではなく、APPLE STOREのようにショールームで商品を見ていただき、購入はネットで行っていただくスタイルです。
このような体制ですので、現在スタッフは自分も入れて5名の少数精鋭です。ただ、現在急速に事業が拡大していますので、今年は倍増の10名程度としていく予定です。
なお、事業活動で得た収益やナレッジは、生産現場やユーザーも含め関わる全ての人たちに透明に誠実に広く共有し、適切にシェアするのがMOONRAKERSのスタイルです。一般的にファッションビジネスはショーや有名人の着用など華やかな部分にフォーカスをあて、素材や縫製など生産現場を見せず、そこに無理を押し付けてきた側面があります。しかし、私達のやり方は真逆で、協力してくれる人たちに全てを公開し、生産者の名前も表に出し、適切に収益をシェアする体制です。例えば、量産効果によりコストが下がれば、その収益はユーザーには値下げの形で、製造メーカー達には収益アップの形で還元されます。作り手と使い手の間でどちらかに偏らず、関わる全ての皆さまと「透明に誠実にひたすらに」向き合い、適切なバランスを取っていくのが私達の役割です。
このようにMOONRAKERSの発展が関わる全ての方々にメリットを生む状態を作ることで、現在では私達の活動を多くの方々が応援してくれるようになりました。
―今回、九州・福岡に拠点を開設された背景を聞かせてください。
私は今回のMOONRAKERS事業を始めるにあたって、繊維・ファッションビジネスの問題を解決したいという思いがありました。
ファッションビジネスは無駄が多く、世界第2位の環境汚染産業といわれています。日本には実際に使われる倍以上の服が海外から入ってきているとされ、たたき売りのようにセールされ、それでも売れなければ廃棄されたりしています。
私達は、無駄なものを作らず、必要とされる分だけ作るシステムにチャレンジしたかった。そのためには、日本で製造して、少しでも早くお届けするのがベストだと考えました。
素材や生地については、まだまだ日本に技術が残っています。一方で、縫製産業は1990年代前半には日本に流通している衣料品の50%が日本で縫製されていて、日本の津々浦々に縫製工場と膨大な仕事があったにも関わらず、現時点では1.5%を切って限りなく1%に近づいている状況です。日本の縫製産業は、わずか30年で壊滅に近い状態に追い込まれました。まさしく失われた30年を象徴する産業です。
それは人件費が安い海外に仕事を奪われたからですが、今は賃金格差も縮まり、極端な円高も是正されました。Tシャツなどシンプルな商品であれば縫うところも少なく、物流コストを加味するとコストにはほぼ差もありません。つまり、簡単な商品ほど日本で縫えばいいわけです。この仮説を基に日本中の縫製産地を探し回った結果、九州にたどり着いたのです。
―縫製工場を探して、九州に目が向いたのですね。
そうです。東レなどが頑張っていることもあり、日本の素材産業はまだ世界でも存在感を残しています。しかし、サプライチェーンの最後にある縫製産業が壊滅すれば、いつかは素材産業も廃れていきます。モノづくりのサプライチェーン全体をしっかり日本国内に残すことが重要です。
一般の方はもちろん、業界の方でもあまりご存じありませんが、九州にはいくつかの強い縫製工場がまだ残っており、それらの工場をコアとしたモノづくり/縫製産業の基盤が残っています。
また、大きな目で見た際に、九州は世界最大の消費地の一つでもある東アジアの中心にあります。
私達は今一度、縫製という産業を日本に取り戻し、再度地方に多くの仕事を作っていきたいと考えました。そして、九州こそ、日本最強の縫製産地を構築できる可能性があると感じたのです。
―九州の中でも福岡のSALTに拠点を置くことにしたのはなぜでしょうか?
私達は日本に縫製産業を取り戻すにあたり、「理想の工場」のモデルケースを作る必要があると考えました。それは「若者がこぞって働きたいと考える工場」です。
実際にはモノづくりに興味を持つ若者は多いのです。ただ、周囲に何もない場所で、単純作業ばかりで、キャリアアップがあまり望めない環境では、やはり若者は集まりません。SALTは、九州/福岡県最大の繁華街である天神から電車で20分の今宿駅から徒歩3~4分。しかも博多湾を望む海の真ん前という、都市近郊でありながら自然環境に恵まれた立地です。私達は、ここで縫製の単純作業だけでなく、クリエイティブな企画開発などモノづくりの全般に携わり、またユーザーとも触れ合えるショールームを併設した拠点を作りたいと考えました。それは、若者に魅力ある工場のモデルケースを目指したものです。
また、一方でユーザーの皆さまからも、私達のプロダクトだけでなく、モノづくりについて知りたいとの声も多く寄せられていました。ただ、東京や大阪から天草や南島原、平戸など公共交通機関のない場所にある縫製工場に連れて行くのは、難易度が高く、縫製工場の皆さんとどうしようかと悩んでいました。今回、福岡にこの「リンクラボ(作り手と使い手を繋ぐ実験工場)」を置くことで、ユーザーの皆さまにいつでもモノづくりの現場に触れていただくことが可能となります。
今宿という場所の素晴らしさに触れ、SALTを初めて見て、一目見て気に入りました。東京や大阪などのユーザーの皆さまであれば、飛行機で福岡まで来ていただければ、そこからは電車で30分強程度。南島原や平戸、天草の工場にも2時間程度でアクセスが可能で、協力工場との連携も密になります。ここを訪れた東京のスタッフも九州各地の縫製工場の人たちも、みんな「ここはほんと最高ですね!」と喜んでいます。ここは、私達の商品を使ってくれるユーザーと作り手をつなぐ場所です。そして透明に、誠実に、ひたすらにあろうとするMOONRAKERSの「理想」を象徴するラボなのです。
―西田さんは福岡で家を探し、ご家族で引っ越して来られたそうですね。
はい。MOONRAKERSの仕事は、作り手(モノづくりの現場)と使い手(ユーザーの生活)をダイレクトに繋ぐことです。そのコンセプトを自分自身が体現するために、金土日月はモノづくりの現場(九州の縫製工場)に近く、火水木は販売の現場(東京)に近くいたいと考え、どちらにもアクセスしやすい福岡に自宅を探していました。その過程で福岡の知人に紹介されたのが、圧倒的に海に近い今宿。天神まで20分、空港まで30分で、東京や大阪なら都心なのに自然が豊かで、観光地として華やかになった糸島もすぐそこ。ここにすごく住みたいと思い、家族と引っ越してきました。そしてここなら、若者や多くの方々が働きたいと考えてくれる工場が出来るのではないかと考えたのです。
―SALTはリンクラボ(作り手と使い手を繋ぐ実験工場)として、どんなことをされるのでしょうか。
私達には縫製産業を日本に取り戻し、日本の繊維作業を復興するという夢があります。まずそのためには何より、若者に興味を持ってもらわねばなりません。私達はここに拠点を置くことで、場所と働き方の2つについて実験とチャレンジをします。場所というのは、天神から20分でこの環境なら、若手をはじめ働き手が来てくれるのではないかという実験です。働き方というのは、ここでは製造7割で、残り3割はクリエイティブで新しいものを生み出して発信していくスタンスでやっていくこと。また、自然あふれる環境で仕事以上にプライベートを充実させ、人生を豊かに過ごしてほしいと思っています。
うちの商品は、モノづくりの現場に適切な収益を落としていくので、価格絶対値として決して安い訳ではありません。ただ、「先端技術で生活が変わる」と理解したユーザーからは「安すぎる!」と言われていて、現在飛ぶように商品が売れています。それは、作る人も買う人もハッピーな状態だと感じています。私達は、今後もそうした今までにないファッションビジネスのモデルケースを作りたいと考えています。そうしたら日本各地にもう一度縫製工場ができて、適切な収益を上げることで働いている人たちもハッピーになるかもしれない。ここで縫製工場の人たちと一緒にチャレンジしていきます。
―MOONRAKERSのファンは熱いという印象があります。
そうなんです。ファンは、「私達も夢を追いかけるMOONRAKERSの一員ですから!」とさえ言ってくれていて、メルマガの開封率は8割を超えることも珍しくはありません。
また、商品の機能性に感動してどんどん拡散してくれたりして、あちこちで自然にコミュニティができています。商品企画をファンの声を基にやっていることもあり、もはやファンというよりもまさしく「MOONRAKERSの一員」と言えるかもしれませんね。
―最後に、今回はSALTの拠点で人を募集されるとのことで、内容について教えてください。
このラボにはまずミシン4台とデジタルプリントのマシンを入れています。東レで長く有名ブランド向けの商品の縫製指導をしていた方が技術指導をしますので、経験のない方でも全く問題ありません。
あくまで最も重視するのは、僕らの理想に共感して、MOONRAKERSの一員として新しい働き方を一緒に作ろうという意欲があるかどうかですね。もちろん、もし加えて縫製の技術があれば大歓迎です。技術の部分はしっかり給与に反映させていただきたいと考えています。
―会社の雰囲気はどんな感じでしょうか。
私達は楽しい仕事しかやらないと決めています。東レ時代は、やはり大きな会社でしたので、大規模なビジネス/大ロットで量をやらないと意味がないという価値観で仕事をしていましたが、独立してからは自分たちのものさしを貫き、私達のことを理解してくれる人たちと楽しく仕事をやることを最優先にしたいと考えています。
―最後に求職者へのメッセージをお願いします。
私達はここから日本を変えたいと考えています。そして、それはいつか世界を変えると本気で信じています。
「MOONRAKERS福岡今宿リンクラボ」で現在明確に決まっているのは、「作り手と使い手を繋ぐ理想の工場のモデルケースを創る」ということだけです。何をやるか?働き方はどうするか?は、来てくれた皆さんと一緒に考えて決めていくことになると思います。
MOONRAKERSは「届かぬかもしれぬ夢を追い続ける馬鹿者たち」という意味です。昨年、独立する前は私も少し不安だったけど、今は本当にやって良かったな、人生ってこんなに楽しいんだなと感じています。挑戦の一歩を踏み出すのはとても勇気がいることですが、自分自身で人生を切り開くためにはとても重要なことです。もし私達の考えに共感してもらえるなら、ぜひ気軽にアクセスしていただければうれしいです。
興味のある方はぜひお問合せください!
募集要項
会社名 | |
募集期間 | 定員になり次第終了 |
募集職種 | 縫製スタッフ他 |
採用人数 | 3名 |
雇用形態 | 正社員・契約社員・アルバイト・業務委託など応相談 |
勤務地 | 福岡市西区今宿 |
勤務時間 | 応相談 |
給与 | 時給1500円以上 |
手当 | 応相談 |
福利厚生 | 応相談 |
休日休暇 | 応相談 |
仕事内容 | 縫製、プリント、商品企画、ユーザー対応など |
応募資格 | 特になし |
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