奥八女で暮らす。5つのライフシフト・ストーリー(前編)

〈黒木エリア〉人の再会って幸せ!場づくりで田舎に出会いをつくりだす

牛島和也さん

牛島和也さん。コーヒーとカレーの店「GOOD SEE YOU!」を経営。八女市出身、母校の福岡県立福島高校で1年間教員として勤務後、岩手県陸前高田市で東日本大震災の復興支援活動を約2年間行う。被災地で憩いの場「ハイカラご飯 職人工房」(現在は「カレーとてづくりおやつフライパン」)の開業に関わり、Uターン後に久留米市の珈琲店で2年半経験を積んで2019年9月に「GOOD SEE YOU!」をオープン。

『GOOD SEE YOU!』

GOOD SEE YOU!

「ハイカラご飯 職人工房」で提供していた「ハイカラチキンカレー(パキスタン風チキンカレー)」をベースに改良した「GOODチキンカリー」が人気。店名は「ひさしぶり!」という再会の挨拶が由来で、観光客のほかにも地元の子どもからお年寄りまでが集う。地元の人が「カレー屋さん」と呼んで親しむ、おしゃれかつアットホームな憩いの場所。スタッフのせなやんさんは兵庫県からの移住者。

復興支援活動で、カフェ開業を思い立つ

瓦Re:KEYHOLDER

牛島さん:2012年4月に陸前高田に入って「瓦Re:KEYHOLDER(ガレキーホルダー)」という復興支援プロジェクトに関わりました。このプロジェクトは中田源さんが発起人で、仕事を失ったおばあちゃんや、ママさん、障がい者の方たちのために、瓦礫からキーホルダーを製作して収入源をつくろうというものです。市から許可をもらって、瓦礫からカラフルな破片を集めて、磨いて、重ねていて。

その販売で貯まったお金と助成金を活用して、仮設商店街にカフェ「ハイカラごはん職人工房」をオープンすることになって、その開業にも参加しました。キーホルダー製作はいつまでも続く仕事ではないし、地元の方が働ける次の仕事も必要だったんです。生活再建が長引く被災地では気を休める場所もなくって「リラックスできる憩いの場がほしい」という声もたくさんあって。それで仲間たちと仮設のプレハブ店舗を2か月くらいかけて改築しました。

人が集まるそのお店がとてもよくて「八女にもこういう場所があったらいいな」と思いました。八女はもともと好きな場所なんですけど、岩手に来て八女のことを説明するために調べたりもして、あらためて八女の良さにも気づいたんですね。そろそろ戻ろうという頃には、八女の自然豊かな場所でカフェをやるのもいいなと考えていました。一方でまだ教員を続けたい気持ちもあって、八女に戻ってからも2年間ほど近隣の高校で教師をしたんです。

自分の好きなことに向き合い、コンセプトに

GOOD SEE YOU!

牛島さん:高校生の課題で、ある時「少年よ大志を抱け」というテーマの小論文があったんです。その中で「大人も大志を抱け」と書いた子がいて、ハッとしました。なんだか自分に言われているような気がしたんですね。それがきっかけのひとつになって、教員を辞めて久留米市の珈琲店で修行をはじめました。

お店をつくる場所は、八女の田舎感をゆっくりのんびり感じられるところがいいなと思っていて。なかなかイメージに合う物件が見つからなかったのですが、ネットでこの物件をたまたま見つけて、内覧の時に大家さんにもたまたま出会えて話もできて。

この黒木という場所のイメージは、八女市で育った私にとっても「遠い田舎」という感じでした。自然が多くて、川がきれいで、ほたるが有名、くらいの印象で。でも実際来てみると、意外と八女の中心街からも近くて、かつ求めていた田舎感があって。すぐに気に入って、元はラーメン屋だった空き店舗を借りて改築をしました。山に陽が落ちる夕方の景色が特に好きで、おすすめです。

お店のコンセプトは「また会うために、生きている。」で、再会がテーマです。東北でいろいろな経験を積む中で、人と再会する瞬間に幸せを感じる自分に気がついて、再会を積み重ねる場所になればいいなという思いを込めました。自分にとっても、みんなにとっても。実際、まちの中に自分の場所を持てたからこそできた再会もあって、たとえば教員時代の教え子が来てくれて、その子どもを抱っこしたこともあります。お客さん同士がたまたま再会する場面もありました。

GOODチキンカリー

GOOD SEE YOU!

自分らしい場を作り、育てていく

GOOD SEE YOU!

牛島さん:復興支援ではいろいろな経験があって「カフェを開きたい」と思うきっかけになったのですが、今もよく自分を見つめ直すようにしています。「自分が何に幸せを感じるのか?」「自分にできることは何なのか?」「自分がしたくないことは何なのか?」「自分がすべきことは何なのか?」「自分が大切にしたいものは何なのか?」とかって。

「GOOD SEE YOU!」では、子どもからお年寄りまで、友だちの家に遊びに来た感覚でくつろげるようなお店作りをしたいと思っています。だから子どもが作った折り紙や、地元の人が作ったベンチもあったりして。開業した後も「小さな本屋があればいいのにな」と思って無料無期限の図書館機能を作ってみたり、書籍販売もはじめてみたりしています。

GOOD SEE YOU!

牛島さん:そして陸前高田には八女と同じような過疎化や高齢化に立ち向かう同世代の人たちがいます。自分も「GOOD SEE YOU!」で、地元のために何かできればと思っていて。たとえば防災や命を守る行動について考えるきっかけにしてもらえたらなと、陸前高田の復興写真を置いたり、現地の人気ブドウ園「神田葡萄園」の地サイダーを取り扱ったりしています。

黒木にはいろんな方が暮らしていて、チャレンジを応援してくれる印象があります。移住者も多いし、ますます増えているとも感じます。一方で黒木には飲食店がそんなに多くないので「もっとお店が増えたらいいな」という声をよく聞きますよ。黒木で何かはじめるならきっと歓迎されると思います。

 

いかがでしたでしょうか。物件を改装して自分のお店を立ち上げ、奥八女の地域のなかで求心力になってきている。そんな様子からは奥八女のあたたかさやポテンシャルが感じられたのではないでしょうか。後編では、さらに地域との連携にスポットをあてて、3つのストーリーをご紹介していきます。

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