デジタルトランスフォーメーションとは? 街にもたらす変化や可能性について。

技術先行ではなく市民発で

――DXは私たちの幸せにつながる、意外と身近な話なんですね。続いて、鈴木さんにお伺いします。LINEは国内で約8,400万人が使う、大人気のサービスとなりました。LINE Fukuokaさんは福岡に拠点を構えて、どんなことをされているのでしょうか?

鈴木さん:LINE Fukuokaは2013年に福岡で創業して、カスタマーサポートを中心としたサービス運営業務からスタートしました。現在は技術、デザイン、企画・マーケティング部門などもあり、社員数は1,000名を超えています。

LINE Fukuoka株式会社 取締役COO 鈴木優輔さん
福岡県生まれ。九州大学を卒業後、日本電気(NEC)、リクルートメディアコミュニケーションズを経て、2014年にLINE株式会社からLINE Fukuoka株式会社に入社。2017年取締役に就任し、2019年2月より現職。

――なぜ福岡に拠点を出されたのでしょうか?

鈴木さん:LINEの国内第2拠点として成長させる狙いがあり、一つは福岡がアジアのリーダー都市で、アジアで展開しているLINEにとって地の利があったから。もう一つは、どれだけ優秀な人が働いてくれる見込みがあるかというのが大事で、福岡には若くて優秀な人が多いというのが決め手になりました。

――福岡に拠点を構えられた御社が福岡市で進めている「Smart City」も注目を集めていますが、改めて「Smart City」ついて教えてください。

鈴木さん:LINEというオンラインを活用したテクノロジーを使って、みんなの生活を便利に豊かにすることがLINEの存在意義だと思っています。我々が考えるスマートシティのキーワードは「市民参加型」です。LINEという技術が先行するのではなく、あくまでもオフラインで楽しく豊かに過ごすためにオンラインをどう活用するかという考え方がベースにあります。そこに市民の方が参加してくれて、オンラインとオフラインを融合して、まちの生活を豊かにしようというのが出発点なんです。

――その一つが福岡市との取り組みですね。

鈴木さん:はい。2017年に福岡市と連携して立ち上げた福岡市のLINE公式アカウントは、現在170万人が友だち登録してくれています。福岡市に住んでいる人がどんなことに困っていて、どうすればもっと便利になるかな、というのがシンプルであり大事な出発点。そこはぶれないようにしています。
主な機能、予め選択した内容だけを受け取れる「情報発信」、発災時には避難行動もサポートする「防災関連」機能、道路や公園等の損傷を報告できる「通報」など。最近の話題としては、特別定額給付金の質問にチャットポットで回答できるようにしたところ、10万回以上の利用(質問)がありました。
「防災関連」機能では、選択した地区ごとの防災情報が届き、気象庁が発令する警戒レベルが3を超えるなどすると、「災害モード」切り替わります。「災害モード」では、災害の種類やその時にいる場所に合わせ、チャットボットで避難行動の支援や、位置情報から、最寄りの避難所を調べ、そのままLINEで自身の避難開始を家族や友人につたえることもできます。

――LINEを自分たちで利用する自治体はいくつもありますが、福岡市とは包括連携協定を結んでいますね。

鈴木さん:そうです。我々としては、自分たちの拠点である福岡に貢献したいという気持ちが強かったんです。
でも、やっぱり前例のないことなので、最初は難しかったですよ。自治体がやることは老若男女全ての人に恩恵がなければいけないとか、お金はどのくらいかかるのかとか、本当に意味があるのかとか…。でも、我々が貢献したいという気持ちと、市の職員さんがより暮らしを便利にしたいという気持ちが重なり、小さく始めることができました。最初は情報発信からで、忘れがちなごみ出し日やPM2.5、大雨の通知、子育てやイベント情報などがあり、自分で選んだ情報だけが届くようにしました。ステークホルダーには議員さんとか役所内の方とかいろんな方がいるけれど、一番大事なのは市民の皆さん。我々は市民の皆さんに「便利だね」と使ってもらえるように集中しました。

――情報発信が市民に受け入れられて、少しずつ増やしていったと。

鈴木さん:はい、それから粗大ごみの受付を始めました。粗大ごみについては、それまでホームページで料金を調べたり、電話で予約したり、コンビニで粗大ごみ処理券を買って貼ったりと、かなり面倒でした。だから専用のLINE公式アカウントを開設して、何を捨てたいか入力すれば料金が分かり、お金はLINE Payで払えて、名前や住所、捨てる日を入力して全てLINEで完結できるようにしました。今では粗大ごみを捨てる人の4人に1人がLINEを使ってくれています。

――「道路や公園等の損傷報告」の機能も、メディアなどで話題になりましたね。

鈴木さん:ありがとうございます。道路や公園などまちの不具合を見つけたら、写真を撮って送ると、市が対応してくれるという仕組みです。これは市の職員さんにすごく喜ばれているんですよ。今までは「うちの近くの道路に穴があいとっちゃけど」と電話がかかってきて、場所を教えてもらい、状況を把握するのに時間がかかっていた。そして行ってみたら違う場所だったとか、電話で聞いたのと損傷具合が違い、持参した道具では直せなかったとか、ロスが多かったようで。でも、LINEを使えば画像と位置情報によって簡単に正しい情報が伝わるから、私もやってみましたが、2,3日後には直しに来てくれました(笑)。

――これは画期的ですね。始めて3年で自治体側の反応も変わってきましたか?

鈴木さん:便利さを実感されて、市民の評判もいいので、うちの部署でもLINEでできそうなことをやってみたいという声が増えてきました。

――自治体との取り組みは、これから増えていく見通しでしょうか?

鈴木さん:昨年、大分県の別府市さんと市民サービスや観光客満足度の向上、事務負担の軽減を目指し合意書を締結しました。福岡市での取り組み事例をモデルにしたものです。ありがたいことに、他にもたくさんお問い合わせをいただいていることから、7月には福岡市LINE公式アカウントをモデルに全国自治体向けに 「LINE SMART CITY GovTechプログラム」を開発、9月より一部機能のソースコードを無償提供することになりました。一方で、福岡モデルをアップデートしていくことも大事だと思っています。

――やみくもにLINEを技術として広めるというのではなく、あくまでも地域に寄り添って進められる姿勢にとても好感が持てます。他に企業とはどのような取り組みをされていますか?

鈴木さん:福岡地所グループの株式会社エフ・ジェイ エンターテインメントワークスさんが運営する大型ショッピングモール「木の葉モール橋本」のフードコートで、密を避けるために注文から支払いまでLINEで完結できるサービスを始めました。他には西日本鉄道株式会社の電車・バスの混雑情報を配信する機能を企画から1週間でリリースしたり、福岡銀行の各店舗の混雑状況を発信したりしています。

――コロナによって取り組みが加速しましたか?

鈴木さん:もともと市民の困りごとから出発しているものでしたが、今はコロナによって日本中が同じ課題を持つようになったので、各方面からの相談が増えています。それに、これまでお客さんとの会議は対面が当たり前だと思っていましたが、こうやってオンラインでできるようになり、物事がスピーディに動くようになったと実感しています。

――みんなが一気にオンラインを活用するようになりましたね。森戸さんと鈴木さんは初対面とのことですが、森戸さん、今のお話を聞かれて、感想などがあれば聞かせてください。

森戸さん:鈴木さんのお話を聞きながら、まさにDXだなと思いました。LINEさんが何かを仕掛けたというより、例えば自治体や企業は、住民やお客さんが不便だと感じていることを、日常的に自分たちが使っているツールで解決ができると気付いたんですよ。
よく東日本大震災とコロナを比較されるのですが、コロナは世界一斉に動けなくなって、ものすごく不便になっている。それを解決するためには、「こうなったらいいな」と妄想して、そこに道具をぶつけることが必要です。LINEは有効な道具の一つです。正解がない中で、問題解決ではなく、課題の設定力が問われています。今はみんなが日常的にスマホを使うようになり、いろんなアイデアが湧いていると思うんですよ。これは歓迎すべきことだと思います。

――生活の困りごとは誰にでもあって、普段使っているLINEを通じて解決できるのはいいですね。

鈴木さん:そうなんですよ、さっきの損傷報告機能のように、誰でも気軽に行政やまちづくりに参加できるようになったのは面白いと思っています。最大で月400件も報告がありました。これまで選挙で投票しても自分の意見が反映されているかよく分からなかったけど、スマホで写真を撮って送ることで、自分のまちがより良く安全になるって、いいですよね。今後、高齢化によって働く人も自治体のお金も減っていく中で、行政職員の負担が軽くなり、市民も主体的に社会参画できる仕組みを作ることが、新しいまちづくりの形になると思います。我々もどんどん挑戦していきたいです。

森戸さん:DXによって、みんなでより良い社会をつくっていきましょう。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉だけ聞くと、一見難しく考えてしまいがちですが、お話を伺っていると身近なものであるということがわかりました。特に高齢化や過疎化の進む地方にDXが浸透していくことで、課題となっているものの解決になり、新たな生活様式にもつながっていくものになるのかもしれません。

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