一度は廃業した小さな老舗醤油屋が、データベースマーケティングで万能調味料を世界へ!

知る人ぞ知る万能調味料

地方のおいしいモノ・コトに興味がある人は多いけれど、実際にそれらを発掘するのは至難の業。特に小さな企業やお店で扱うものは、流通数も限られているうえに予算の関係から大きな宣伝をすることもなく、まさに「知る人ぞ知る」商品となりがちです。福岡の老舗醤油屋から生まれた万能調味料「ニワカそうす」もその一つでした。そんな醤油屋とタッグを組んだのが、九州エリアで蔦屋書店やTSUTAYAなどを展開する「九州TSUTAYA」とビッグデータを扱うマーケティング会社「CCCマーケティング」です。“お客さまに新しいライフスタイルを提案したい”そんな想いからはじまり、データを使って消費者層を分析。出来上がったのが、1冊のレシピ本です。現在は各地の蔦屋書店やTSUTAYAの料理本売場などで、ニワカそうすと並んで販売されています。タケシゲ醤油代表の住田友香子さん、夫の良幸さん、九州TSUTAYAの戸田貴之さんに、その取り組みの舞台裏を聞きました。

ーータケシゲ醤油は、老舗のお醤油屋さんと伺っています。創業から現在に至るまでの歴史を教えてください。

良幸さん:タケシゲ醤油の前身は「五福醤油」といって、その歴史は江戸時代にまで遡ります。確認できる書物によると、1752年(宝暦2年)にはルーツとなる「石堂醤油」があり、事業を拡大して、1879年(明治12年)に「五福醤油」が博多区呉服町で創業しました。国内で初めてびん詰めの醤油を販売し、その販路は海外にまで及んだそうです。しかし、昭和から平成にかけて何度も工場の立ち退きに遭い、また後継者難も重なって一度は廃業。しかし平成4年に新たに屋号を「タケシゲ醤油」としてその歴史を受け継いでいます。そのためタケシゲ醤油は知らなくても、五福醤油と聞くと「懐かしい!」と喜ぶお客さまも多くいらっしゃいます。


ーー五福醤油の味を受け継いだお醤油は、昔からのファンも多くいるのですね。では、「ニワカそうす」はいつ、どのように生まれたのですか。

良幸さん:「ニワカそうす」は、もともと焼き鳥やみりん干しの「元ダレ」として、戦後すぐの約70年前から製造・販売していました。当時は長浜をはじめ姪浜や佐賀の唐津など多くの水産加工業者があり、新鮮な魚を簡単に、手早く加工するために使う業務用の商品で名前もシンプルに「たれ」でした。「ニワカそうす」として今の形で販売するようになったのは、お客さまの一言がきっかけです。加工業者に勤める社員の方々がご自宅用にタレを持ち帰って、家庭料理に使っていたそうなんです。工場が廃業してタレが手に入らなくなってから、わざわざうちを探して尋ねてきてくれて、家庭料理に使えることを教えてくれ、今の形で販売することを決めました。


友香子さん:商品名に「ニワカ」と付けたのは、夫のアイデアです。彼は愛知県から福岡に移住したのですが、福岡では馴染みがある伝統芸能博多にわかの「ニワカ」という語源を面白いと感じたみたいで。福岡育ちの私は「なんで“ニワカ”!?」なんて思ったりしたんですが(笑)。和風だけにとどまらず、料理を「あっという間(にわか)に」作ることができるうえ、和風だけにとどまらずさまざまな料理が作れるから世界に広まってほしいと、あえてタレではなく「そうす」として商品化しました。

ーー和洋中、どんな料理でも使えるうえ、あっという間に味が決まる。主婦にとってはまさに夢のような調味料ですが、ニワカそうすが愛される理由はどこにあると感じていますか。

友香子さん:ニワカそうすは、業務用としても家庭用としても、多くの方に使っていただいています。そのまま舐めると、「とろみがあって、みたらしだんごのタレのよう」と表現する方が多いですね。醤油などが持つうま味にコク、日本酒やワイン、紹興酒といった酒類、さらにみりんのような甘さをプラスしたものは和洋中にかかわらず、多くの料理のベースとなります。ニワカそうすはこの味付けの基礎が1本にまとまっているのが特徴です。さらにとろみがあるため、食材にしっかり絡み味が染み込む時間も時短できます。そのため、じっくり時間と手間暇をかけないと作れない濃厚なまろやかさがあり、しかもしっかり味付けしながらも、素材や料理の味を引き立ててくれるのです。

またニワカそうすはそのまま使うだけでなく、さまざまな食材や調味料を組み合わせて使うことができます。組み合わせ方や分量を調整し、それぞれの地域の食材と合わせることで、「店の味」「家庭の味」が料理初心者でも簡単に作れるのが魅力だと感じています。


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