【Mekurutoな人vol.6】ここで出会う多様な考え方を、僧侶の仕事にも活かしてゆく。

2018年1月、福岡県久留米市に民間初のシェアオフィスとして誕生した『Mekuruto』。このシェアオフィスは、私たち「福岡移住計画」と「久留米移住計画」が連携運営しています。
オープンしてから1年7ヵ月、『Mekuruto』ではどのような方々が、日々空間を共有しているのでしょうか。「Mekurutoな人」シリーズでは、入居者や運営者など、多様なメンバーから見た『Mekuruto』についてご紹介していきます。

今回のインタビューは、寺の僧侶――いわゆる“お坊さん”であり、理学療法士でもある佐々木信行さん。『Mekuruto』には週に一度、ディレクターとして関わりつつ、『仏滅坊主バー』の開催やイベントの動画制作担当など、驚くほどの幅広さで活動されています。そんな佐々木さんに、“兼業僧侶”のライフスタイル、また『Mekuruto』や寺での活動についてお話を伺いました。

“兼業僧侶”という生き方

――前回の大石さんに引き続き、今回もシェアワーカーとして週に一度『Mekuruto』ディレクターを担当されている、佐々木さんにお話を伺います。まずはご出身と、ご経歴についてお聞かせいただけますか?

出身は久留米で、宮の陣にあるお寺で生まれました。大学から広島に出て、リハビリの勉強をして理学療法士の資格をとったんです。卒業後は、名古屋で僧侶の学校に1年通いました。それから福岡市内で理学療法士として病院で働き、結婚を機に久留米へ帰ってきて。久留米に住みつつ八女市の病院で働いていたのですが、2年前に退職してお寺に戻り、久留米で活動するようになりました。

――けっこう、各地を点々とされているのですね! まず、理学療法士になろうと思ったのはどうしてですか?

高校までバレーボールをしていたので、スポーツ関係の仕事がしたくてリハビリの大学に入ったんです。ただ、通っているうちにスポーツに限定しなくてもいいなと思い、病院に就職する形を選びました。寺の長男なので、いずれは地元に戻って寺を継ごうと思っていて。病院で働く職業であれば、全国どこでもやっていけるのではないかと考えたんです。

――それで理学療法士の資格をとって、次は名古屋で僧侶の学校へ。ちなみに、すぐに僧侶にならずに別の職種の経験をはさむ、というのは一般的なことなのでしょうか?

いえ、そういうわけではないと思いますね。うちのお寺では、父も兼業で生活してきたという背景もあり、僕もその形を選びました。周りにも、一般企業で働いた後にお坊さんになった方と、僧侶の学校を卒業してすぐにお坊さんになった方、両方います。
ただ僕個人としては、やっぱり1つの社会の考え方しか知らないよりも、いろいろな経験をして、さまざまな価値観や考え方を知ったうえで、お寺での活動もしたいと思っているので。その意味でも、兼業という形はよかったと思います。

――いろいろな経験をされたお坊さんの法話、たしかに聞いてみたいです……。ちなみに兼業スタイルとして、具体的にはどんなお仕事をされているんでしょう?

自分のお寺での活動と、近くのお寺の手伝い、あとは訪問でリハビリの仕事を少しと、『Mekuruto』での活動、という感じです。日によっては、何度も着替えたりします(笑)。たとえばお寺の朝行で作務衣を着て、次にリハビリ用の制服に着替えて、その後は普段着になり、夜にはまた僧侶の黒い服に着替えるという……。

――おもしろい! 現代のお坊さんはそういうライフスタイルの方もいらっしゃるのですね。

お寺での活動は基本的に「自分の家」にいるので、すごく閉鎖的かなと感じていて。僕ももし、こうやって外の活動をせずにずっとお寺にいたら、お話するのも同じ世界のひとだけで、1つの考え方に固執するようになっていたかもしれないなと思います。そういった意味でも『Mekuruto』でいろいろな世界に触れることは、僧侶の活動にすごく活かされていると感じていますね。

実験の場、『仏滅坊主BAR』

――お坊さんが週一でシェアオフィスのディレクター、というのもなかなかインパクトがあると感じるのですが、『Mekuruto』に関わるようになったきっかけは何でしょう?

もともとは今年の1月、ある講演会を開くための場所を探していて『Mekuruto』を見つけたのがきっかけです。そこで運営のおきなさんに出会い、同い年ということもあり話が盛り上がって。それからよく出入りするようになりました。
今は、金曜日にディレクターとして入っていて、イベントの動画制作にも関わっていますね。あとは『仏滅坊主BAR』など、イベントの主催もしています。


――『仏滅坊主BAR』はどんなふうに始まったんですか?

「仏滅に坊主がバーをやったらおもしろいんじゃないか?」という話に……僕がいないとき、他のスタッフ同士の会話でなったらしくて(笑)。ただ、それ以外は何も決まっていなかったので、内容は全部自分で考えました。基本的には、僕のやってみたいことを試す実験的な場にしようと思っていて。お寺ではやらないようなことを、ここでやっています。

――お寺ではやらないようなこと。たとえば、どんなことですか?

仏教の話って、どうしても入りにくいですよね。だから入り口として、「仏教」を一般的な話題としておもしろおかしく話しながら、ちょっとでも馴染んでもらえたらいいなと思っていて。座談会のような形で仏教にまつわるおもしろい話をしたりとか、僕の作った仏教ポエムを読んだりとか……。

――そう、ポエム……!を、ラップ調に読み上げていらっしゃるのを、動画で拝見しました。なぜ「ポエム」という発想になったんですか?

いや、お洒落なイメージのある『Mekuruto』で、「お坊さんがポエムをやります」と言ったら、“ええ?”と思いつつも「ちょっと聞いてみようかな……」と思ってもらえるんじゃないかなと(笑)。最近新しく関わるようになった自分としては、『Mekuruto』の良さは保ちつつも、プラスアルファでまた違った雰囲気を作れたら、と思っているんです。敷居を低くしたいというか。

――たしかに、意外性や親しみやすさがすごかったです(笑)。実際に『仏滅坊主BAR』参加された方の反応はどうですか?

すごく楽しみにしてました!と言って来てくださった方が、帰るときにさらにいい笑顔で帰っていかれて。そもそも、仏教の話って聞く機会があまりないんですよね。なんだか難しい気がするし。でも『坊主BAR』では笑いを交えながら仏教の話を聞けて、楽しんでいただけたのかなと。それこそ突然、坊主がラップで歌い始めたりとか。
べつにポエムやラップがいいというわけではなくて、そうやって実験的に、僕が挑戦していく姿を見てもらえたらと思うんです。だから次回はまた全然違う内容を考えたいし、他の方とコラボしたりしていきたくて。どんどん挑戦して、見ているひとに「こんなこともやっていいんだ」「じゃあ自分も何かやろうかな」と思ってもらえたら嬉しいです。

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