これからの世代の人材像
手島さん:今ある仕事の65%は存在しなくなるとされる中で、今の子どもたちに「どんな教育をしたらいいか」、「どういう学びを学校としてさせるか」という問いもこれからAIやテクノロジーが普及していくなかですごく需要があって、マイクロソフトでは小中高校・大学でそういう取り組みをさせていただいています。
石山さん:65%の仕事がなくなるなら、私たちは今、子どもに何を教えたらいいんだろう。これまでは過去の積み重ねだったけど、これからは未来から逆算して教育することが必要なのかなと思いました。一方で私たちは何を残していくべきなのかを考えなきゃいけない過渡期にきていると思います。例えばファミレスの接客は未来から見たら非効率に見えるけど、それに生きがいを感じる人もいて、そこは淘汰するのか、その人たちのために残すのか。私たちが意志を持ち、何を残し何を新しくしていくべきなのかは考えるポイントだと思います。
橋本さん:僕は講師として、福岡市の中学校にアントレプレナー教育に行っていて、AIでなくなる仕事のことを話すと、なくなりそうな職業にその場にいる先生が入っているわけです。今後は教え方のうまい人がブロードキャストして教えればいいので、学校の先生という仕事はなくなるでしょう。でも、子どもたちに何かを教える仕事はなくならない。視座をどれくらい高く持つかで、なくなるものとなくならないものがあると思います。
手島さん:我々が文科省と連携している子どもたちへの取り組みは、6つのCをベースにしています。「COMMUNICATION(議論しあう力)」、「CRITICAL THINKING(疑問を逃さない思考性)」、「CREATIVITY(創造性)」、「COMPUTATIONAL THINKING (計算論的思考)」、「CURIOSITY(好奇心)」、「COLLABORATION(協働しあう力)」。潜在能力を最大限に生かし、いろんな人とつながり、こんなことやってみよう、やった中で学んだことを次に活かしてみようという反復能力を重視しています。子どもたちがテーマを与えられて勉強するという従来の考え方ではなく、真っさらでテーマがない中でいろんな人と話し合い、これやってみようと決めて、やってみて、ダメだったらどうしようという具合ですね。
横石さん:私の小学生のときとは学び方も大きく変化してそうです。
手島さん:今までは計画したものが必ず順当にいく仕組みが成功モデルとして日本の高度成長を支えてきましたが、今は早く見て、理解できて、判断して、やってみるという思考に変わってきている。計画通りにいかないことも前提として、何か起きてもみんなで学び合ってやろうというマインドがますます必要になってくると考えています。
横石さん:ではここでお越しいただいた会場の皆さんとも考えてみたいと思います。皆さんが考える「AI時代に活躍する人材・能力」をお手元の紙に書いてみていただけますか。
石山さん:皆さんが書いている間に独り言なんですけど、「活躍」というのはちょっと違和感があって、今は選択や価値観が多様で、テストの点数や年収が高い人が上というステータスではなくなっている時代において「活躍」って何だろうと。活躍というより「AI時代に幸せに生きている人・幸せに働いている人とは」という問いのほうがわかりやすいかもしれませんね。
横石さん:なるほど。ではその視点で書いていただいて、登壇のお三方は参加者の中で気になるキーワードを書いている方を指名してみてください。
(〜数分後〜)
横石さん:ではいかがでしょう。手島さん、ご指名いただけますか。
手島さん:そうですね…。「バカになれる人材」と書かれた方、ぜひお話を聞かせてください。
参加者:私はどんどん情報が入ってくる時代に感じていることとして「バカになれる人材」と書きました。例えば、ドバイに行きたいと思って検索すると、すごく綺麗な写真や動画やコメントが出てきて興味が湧き、それから物価が高いとか強盗にあったとかネガティブな情報を見て、結局行かなくなってしまう。でもこれってとてももったいなくて、自分の関心があることに対して、情報を集めることをどこかのレベルであえて止めた上で、実際に足を運んだりやってみたりする。そういう意味でバカになって踏み出し、実体験として積み重ねていくことで、バーチャルではないリアルな世界でキラッと輝く人になっていくんじゃないかなと。
手島さん:まさにそうだと思います。私はバカなことばかりやってましたけど、それでも人に助けていただいたり悩んだりして今がある。いろいろ調べると見たくもない情報で疲れちゃうし、何が起こるかわからないけど、自分がやってみたいことをやるのはすごく大事な気がします。特に子どもを見ていても情報量が多くて、うんちくはいっぱいある。でもやってみることが人間の本質のような感じがして、私も大事にしています。テクノロジーとしてはそのやってみたことの打率を上げたり、少し早くラクにできるようになるという部分で役に立てると思います。
横石さん:ありがとうございます。今回はAIにまつわるこれからの能力や人についてお話してきて、皆さんなりの仮説も持てたのかなと思います。
橋本さん:こういう機会がないと普段なかなか考えることはないテーマだったので楽しかったです。
石山さん:テクノロジーによって未来を読める確立が上がっていく時代に、私たちは何にワクワクすればいいのか。私は人に最も可能性があると考えています。テクノロジーが進化するほど、テクノロジーには読めない人の良さや人と人が交わることの良さが表に出てくればいいと思います。活躍ではなくて、人が幸せや豊かさを感じられるためにテクノロジーができること、人だからできることを考えていきたいと思いました。
手島さん:皆さんとお話できて、楽しくいい刺激になりました、ありがとうございます。マイクロソフトの理念でもありますが、私としても、いろんな人がいろんなことを実現することにテクノロジーで勇気を与えて、実現していきたいと考えています。人間には創造力があるので、自分たちはこんなことがしたいという想いをいろんなところで話すことが、実現につながると思っています。テクノロジーは間違いなく打率を上げます。福岡をはじめ、我々が持っているテクノロジーでいろいろな地域で少しでもお役に立てればと思っています。
当日は雨の中100名近くが集まり、トーク後の懇親会も大盛況のイベントとなりました。
AI時代における人間とテクロノロジーの共存を考える上で、大きなヒントを得られる機会になったのではないでしょうか。そして、このようにじっくりと語り合える場が増えていくことが、一人ひとりの「働き方」を見つめ直す上でも重要なことなのだと感じさせるイベントでした。