人とのつながりの先の「信頼」
横石さん:AIが新しくつくる仕事には、どんなものがあるのでしょう?
手島さん:いま車社会で高齢者の事故が大きく取り上げられていますが、AIなどで判断すればこのような人間の誤操作を止めることができる。そう考えるとAIは人を助けてくれて、今までなかった分野で、人間のホスピタリティをもっと生かせる仕事をつくれるんじゃないかな。ただし、機械は完璧ではなく、そこには何かしら人間の判断があって、機械に教えることが重要。例えば自動運転を教えるトレーナー、仮想技術を使うデザイナーとか。いろいろな方と話していると、AIはデジタルリテラシーが必要とか分析できる人を育てるとか言われますが、誰でもデータを使えるようになるので、一番重要なのはデータを使って何をするかという人間の理念であって、そっちの力量がますます試されると思います。
橋本さん:僕はプロジェクト成功率の統計データを調べたことがあります。10年前(2008年)は30%くらいだったけれど、5年前(2014年)は70%という数字が出てくる。ということは、おそらくITの力もあって、みんな仕事が上手になり成功率はずいぶん上がっている。では未来はどうなるかというと、仕事はうまくいくのが当たり前で、そのためにAIを使うし、次に求められるのは「働く人の幸福度をどうやって上げていくか」というのがツール提供者としてポイントになってくるのかなという気はします。
手島さん:テクノロジーによって効率は良くなりスピードが上がり、いわゆる打率が上がるのは間違いないですね。我々が次に考えていることとして、社員一人ひとりの幸福度、創造力、クリエイティビティをどう上げるかというところに行き着いています。単に週5日のうち1日休めと言ってるのではなく、立ち止まって家族や子どもと過ごしたり、自分自身のワークサイクルやライフサイクルを考えてほしいと思っているわけです。
横石さん:新しいテクノロジーと幸福の再定義が進んでいく中で、シェアリングエコノミーへの関心も高まっていると思います。シェアは新しく生まれてくるこういった価値観とどう関わるのでしょうか?
石山さん:シェアはハードで見たらシェアハウスに安く住めるとか、メルカリで買うと安くて便利という側面があります。ただ、本質的にもたらされる価値は「人と人とのつながり」だと思うんです。これまでは企業から買っていたのが、個人間で売買や貸借、共同所有をすることで、人と人のつながりが確実に増えていく。人との温もりに重きを置くような生活感がシェアによって増えると思っています。例えば私はAirbnbで世界に行っていて、これまでホテルに泊まれば消費行動だったけど、Airbnbに変えただけで友達ができたりする。テクノロジーで人とつながり、そのつながりが個人の資産になっていくのがシェアリングエコノミーの価値だなと思います。大量生産大量消費で市場が大きくなり国力が上がって、みんな幸福になったといえるけれど、それで取り残してしまったのがつながりの希薄化。テクノロジーを使うことで全てが一人で完結できる世の中になっていますが、年間3万人の孤独死を生んでいるという事実もあるし。だからこそ、人と人とのつながりが、私たちがこれから幸福感を感じる物差しになると思うし、人と人の関わりをすごく重要視しています。
横石さん:人と人がつながっていくときの通貨みたいなものがあるとしたら「信頼」がカギになりそうですね。
石山さん:私たちが考えなければいけないキーワードは、信頼をどうデザインするのか。人間関係はもちろん、企業としてプロダクトをつくるときにどうやって信頼関係をつくるのか、公共スペースや国のルールもそういった時代になっていくのかなと思います。信頼は3つの変化を遂げてきたといいます。第一は「この人ならば」といったローカルな信頼、第二は「この企業のものであれば」という企業に預ける信頼、そして第三は「このデータならば」というテクノロジーによる信頼です。中国ではデータによる信用スコアがあり、このスコアがマイナスになるとビザが取れないとか。テクノロジーによる信頼がインフラ化したとき、不利益を被る側面もあるかもしれない。だからこそ、テクノロジーを社会インフラにしていく上では、人が「信頼」をどうデザインするかというのが重要になってきていると思います。
橋本さん:「信頼」は僕も興味があります。信頼するのは人それぞれの価値観があるので難しいけど、信頼を失うのを防ぐことはAIでできるのかなと思っています。人と人の仲が悪くなるコミュニケーションはだいたい同じケースで、そこをテクノロジーでカバーできればすごくいいのかなと。