【F-LIFE SHIFT story vol.15】世界を舞台に活動する映画監督が、福岡を拠点に選んだ「価値」とは。

ー海外を含めさまざまな地域で映画をつくられていると思いますが、昨年(2017年)は福岡県北部にある直方市を舞台にした映画『えんえんと、えんえんと』を手掛け、「直方映画祭」で上映もされたそうですね。その経緯についても教えてください。

神保さん:昨年の年明け、定期開催している福岡映画人会で直方商工会議所の河野和家さんとお会いしました。河野さんは直方映画祭の事務局をされていて、そこで「映画祭で上映するために、直方を舞台にした映画を撮ってください」と依頼いただいたんです。

ーここで、直方商工会議所の河野さんにもお話を伺いたいと思います。直方映画祭とはどんなイベントなのでしょう?

河野さん:直方市の商店街の空き店舗や文化施設、歴史的建造物を上映ブースにし、映画を観ながら街を回遊してもらうイベントです。
どうしてもイベントというのは単発・一過性なものになりがちですが、直方映画祭は映画祭を通して “人”が根付いたり、何か形に残る“モノ”を残すことが大きな目的としてあります。
神保さんに直方での撮影をご相談させてもらった際に過去作品を頂戴したのですが、その作品を清水さんに見せて相談したんです、「どう思います?」と。そしたら清水さんは作品を観て「この監督にお願いしよ‼」と夜中に連絡があって(笑)、そこからこの3人が繋がり『えんえんと、えんえんと』が生まれてきたという流れです。


ー直方映画祭と出会ったことで得たものや、受けた影響はありましたか?

神保さん:この(インタビュー場所の)『Bouton』という場所の存在が大きいですね。『えんえんと、えんえんと』を撮影していた時に、『Bouton』はちょうど開店に向けて動き始めていたんです。『Bouton』のオーナーの清水舞子さんには映画制作のお手伝いをしてもらっていて、福岡移住計画さんが運営しているスペース『HOOD天神』でも一緒に上映・トークイベントを開催させていただきました。その際にも改めて、この場所を作る思いや背景をいろいろ伺っていたんです。その話がずっと頭に残っていて…。今年は夏まで、『On the Zero Line』という日本・シンガポール・イラン・トルコ・ケニアを舞台にした長編映画を撮っていたのですが、脚本執筆中にふと「その日本のロケ地は『Bouton』にしよう、むしろ『Bouton』しかない!」と思いました。実際に今年6月、ここで撮影を行いました。この映画は直方と『Bouton』なしではあり得ない映画だと思っています。

ーその『Bouton』についてのお話をオーナーの清水さんにも伺いたいと思います。ここはどういった場所なのですか?

清水さん:今年の4月にオープンしたばかりのレンタルスペース兼バーで、いずれは宿の営業も開始する予定です。私は筑豊・直鞍のガイドブックを作るボランティアに関わっていたのですが、その時にこのエリアには人が留まる場所、「宿」がないことに気がついたんです。せっかく筑豊に来てもらった人が宿がなくて日帰りしてしまうのがもったいなくて。駅がある直方市は筑豊地方の中でも比較的アクセスが良いので、宿を作るならこの土地がいいなと思っていました。そこで見つけたのが『Bouton』の元となる物件です。手芸屋さんだったのですが、ずいぶん昔に廃業して荒れ放題になっていました。それでも外壁やガラス窓、内装の雰囲気を見て「手を入れたら絶対ここは生まれ変わる」と確信し、リノベーションをすることに。物件探しに関しては、河野さんにも協力してもらいました。ちなみに『Bouton』という名前は、元の手芸屋さんにちなんでいるんですよ。


ー神保さんは直方に来られたことで、「縁」をたくさん得ることができたんですね。

神保さん:福岡に来て、直方映画祭事務局の河野さんと出会い、『Bouton』の清水さんと出会い…というように、点と点が結ばれたように縁が繋がりました。求めていたものが合流したという感じ。それってなかなかすごいことで、面白いことだと思っています。
さっき「『Bouton』なしではあり得ない」と言ったのは、僕は作品を作る時に、異物を置いて「ん?どういうこと?」と思ってもらえる作品づくりを心がけていまして、言ってみれば『Bouton』も直方の中では異物な存在ではないかと思ったからです。僕は「才能」というものの一部は「わからないこと=確信・根拠・保証がないこと」を受け入れて、そのまま物事を進められるかどうか、ということではないかと思っています。そこに「価値」も関わってきます。
何に価値があるか分かってくれば、仕事が生まれるサイクルを引き寄せることができるのではないでしょうか。僕は最近、自分の言葉に価値がある、もしくは価値が出てきたことに気がつきました。そのことを意識して映画評や書評を書き続けた結果、こども映画教室の講師や映画祭の司会、トークゲストなど、周りが仕事を運んできてくれたんです。
直方映画祭もそう。僕という映画監督、河野さんという映画祭事務局、清水さんという飲食店兼宿のオーナーの三者の価値が影響し合い、高め合ってきました。文化的な価値というのはこのようにして生まれるのだと知ることができました。
こうした過程が、僕が福岡に移住してきてどんな関係性を築いてきたかを示しているように思います。個性よりも、関係性こそがその人がどんな人かを示すのです。

▲『えんえんと、えんえんと』直方・遠賀川河川敷で撮影中の一コマ、子役さん、日韓合同スタッフと。

今年も11月3日(土)、4日(日)に直方映画祭が開催されます。そこで神保慶政さんの作品「えんえんと、えんえんと」「僕はもうすぐ十一歳になる。」が『Bouton』で上映されます。神保さんが見た直方は、どのような世界に描かれているのか。神保さんが価値を感じた『Bouton』はどんな場所なのか。ぜひ映画祭に足を運んで、その世界観を味わってください。

【直方映画祭2018】
https://twitter.com/nsfilmfestival
開催日:11月3日(土)〜11月4日(日)

【Bouton】
https://www.bouton20180401.com/
福岡県直方市殿町2-8

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