【F-LIFE SHIFT story vol.15】世界を舞台に活動する映画監督が、福岡を拠点に選んだ「価値」とは。

「F-LIFE SHIFT story」は福岡に移住してきて暮らしや働き方、考え方などをシフトした人たち(先輩移住者)のストーリーを追った特集です。福岡に来て何が変わったのか、これから福岡で暮らしていきたい・変えていきたいという人たちの参考になればと思います。

今回ご紹介する神保慶政さんは、日本のみならず韓国、シンガポール、ケニア、イランなど世界各地を舞台に映画監督として活動しています。2017年には福岡県直方市を舞台にした映画『えんえんと、えんえんと』も手掛けられました。10月某日のインタビュー当日、イランで新作長編の編集作業を終えて帰国したばかりの神保さんに、福岡空港から福岡市内のご自宅に戻る前に直方市に足を運んでいただきました。場所は、彼にとても深い関わりのある場所『Bouton(ボタン)』。そこで福岡で仕事をする魅力、直方という土地で築いた「縁」について、お話を伺いました。

▲直方ロケ短編映画『えんえんと、えんえんと』のワンシーン。

ー映画監督として活動される前は、会社にお勤めされていたそうですね。それも映画とは関係のない仕事だとか。

神保さん:そうなんです。秘境専門の旅行会社に勤めていたんですよ。僕は南アジア(インド・パキスタン等)を担当していて特にインド北部やブータンなどのチベット文化圏を得意としていたのですが、旅行ツアーの企画、チケットの手配、添乗などの業務を行っていました。とは言え、この仕事は映画と全く関係がない訳でもなかったと今では思います。僕が作っているようなインディペンデント映画とよばれる映画では自ら制作を行う場合も多いですが、制作の基本はまさに旅行会社の業務そのものです。今では映画を作る上で海外の接点もとても多いので、すこし回り道しましたが旅行会社の経験が生きているなと思っています。

ーそれからどうして映画監督を目指そうと思われたのですか?

神保さん:幼い頃から映画を観ることが好きでした。大学は文学部に進学し、就職活動では映画配給会社の試験を受けたのですが…、結局採用には至りませんでした。しかし、いろいろ考えた末に「僕は映画をつくる側に興味があるんだな」と、妙にしっくり思えたんです。映画をつくることとは全く別のことを考えて大学生活を過ごしていたので、ひとまず反応が良かった旅行業界に就職することにしました。旅行会社の仕事が嫌だった訳では決してないのですが、仕事をするうちに「(その仕事が)本当に好きな人にはかなわないな」ということがよく分かったので、「それじゃあ僕は映画を作る側になろう」と決心して会社を辞めたんです。その後は『ニューシネマワークショップ』という映画学校に入学し、1年間映画制作について学びました。
学校卒業後、2013年からフリーランスとして活動を開始しました。その翌年に、大阪を舞台にした映画を作る機会をいただいたんです。そこで撮った映画が『僕はもうすぐ十一歳になる。」という長編映画です。しかも「大阪アジアン映画祭」という国際映画祭で上映されることになって。ありがたいことに国内の劇場公開でなく海外の映画祭でもたくさん上映していただき、この作品がキッカケで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされました。

▲釜山・ジャガルチ市場にて現地スタッフと、短編『憧れ』撮影風景。

ーその後2016年に福岡に移住されたということ。まさに映画監督としてこれから…という時に、なぜ福岡だったのでしょうか?

神保さん:娘の誕生がキッカケです。なぜ福岡だったのかというと、妻が福岡出身だったので。以前から映画祭や帰省でちょこちょこ福岡には来ていて「いいな」と思っていたことと、出産のタイミングが合ったので移住を決めました。

ー福岡がいいな、というのは具体的にどういうところですか?

神保さん:都市の構造が東京に比べてシンプルで分かりやすいところでしょうか。集まる場所は天神か博多で大体が通用するので便利ですね。東京は中心がたくさんあるので渋谷・新宿で集まる場合もあれば、メンバーによっては品川、池袋、東京などの場合もあります。
それと、福岡で僕がいい意味で“目立つ”存在であること。「映画監督」という職業はまだ福岡では少ないようで、「映画=僕」というようにピンポイントで声を掛けてもらえるように感じています。東京を批判/否定する訳ではありませんが、東京ではレールが既にたくさん敷かれていると思うんですよ。それは簡単という意味ではなく、既に成功事例がいくつもあるということ。福岡ではまだ事例が少ないので、自分でレールを敷けるとも言えるし、敷かなくてはいけないも言えます。そういった面白さも感じますね。

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直方で出会った縁と価値

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