【ぼくらが連れて行きたい店vol.44】時代にあったものを見極め、また歴史を刻む。(岩井屋)

魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。

室見橋を渡り、愛宕山の坂を登ると、額から大粒の汗が噴き出す8月末。西区、鷲尾愛宕神社のお膝元にある老舗の甘味茶屋『岩井屋』に伺いました。創業はなんと元禄2年にまでさかのぼるのだとか。歴史あるお店を切り盛りしている背景にはどういった想いがあるのか、21代目となる篠崎成陽さんにお話を聞きました。

ー創業は1689年とお聞きしました。その頃から『岩井屋』さんの屋号を掲げていたのですか。

はい。創業から『岩井屋』という屋号です。もともとは唐津街道沿いに店を構え、旅籠屋(はたごや)や小料理など、幾つか業態を変えながら商売を営んでいました。定かではないのですが、実はこの建物は愛宕神社の旧社務所だったと言われています。御本殿の横に新しく社務所をつくる時に、旧社務所を利用しこの場所に看板を掲げたのが約100年前。甘味茶屋としての『岩井屋』がはじまり、そこから数えると私は5代目になります。

ー参覲交代にも使用されていたという唐津街道。利用する人も多かったことでしょう。今日は大きなキャリーバックを持ったお客さまも何組かいらっしゃるようですが、岩井屋さんに来られる方はどのような層の方が多いのでしょうか?

愛宕神社は日本3大愛宕のひとつ。また、福岡を一望できる神社からの眺めも絶景です。県外から足を運んで来られる参拝者の方も多く、参拝後に皆さま立ち寄っていかれますよ。ですが、やはり地元の方が多いですね。若い方からお年寄りまで、男性も女性も。月参りで、毎月1日に参拝に訪れる常連さんも多くいらっしゃいます。神様へのご報告と、今後の無事を祈ってお参りをされたあと、帰り際に名物の「いわい餅」を食べていかれます。中には、会社の代表の方が従業員さん全員分のお餅を買っていかれたりもしますよ。その日だけは、お客さまをお迎えするために朝の4時半から店を開けています。


ーお客さんを迎えるために心がけてることはありますか。

神様にお参りするのは、なにか心に想いのある人だと思います。皆さまがお参りを終えたあと、ほっと一息つけて安心できる場所でありたいなと思いますね。

ーテーブルには可愛らしい季節の花が、奥の座敷には大きな窓があり、立派な桜の木が見えますね。

岩井屋の庭には樹齢100年を超えるソメイヨシノがあります。現在の場所にお店を構えた時に、一緒に苗木を植えたと伝え聞いています。通常では60年程度の寿命ですが、毎年丁寧に手入れをしてきたことで、100年超えた今でも満開の花をつけてくれます。
夏の暑い時期は、宇治抹茶の蜜と大納言小豆を添えたふわふわのかき氷がよく出るのですが、窓際に座って、青々と茂る葉が風に揺れる音と、蝉の鳴き声を聞きながら召し上がっていただくと、更に美味しく夏を感じることができますよ。

ー四季折々の楽しみ方ができるのですね。岩井屋さんの名物「いわい餅」。実は季節によって少しずつあんこのお味を変えているとお聞きしました。

はい。基本の配合は代々受け継がれてきたものがあります。その上で、季節や気温、お客さまの口に入る瞬間の状態までを考えながら、微妙に変えています。今日のような暑い日はたくさん汗をかくでしょう。そんな時は少し塩味を際立たせるんです。湿度によって、小豆が水分を吸う量も変わりますし、小豆は生き物ですから、毎日些細な変化を感じて向き合う必要があります。季節の変わり目は気候も安定しないので、特に気をつかっています。訪れる人のことを第一に考えて、美味しい「いわい餅」を作りたいと思いますね。

ー成陽さんが店主となってから、特に印象に残っていることはありますか。

代々歴史を紡いできた『岩井屋』。私は、先代から受け継がれたまま、「変化しないこと」が歴史を繋ぐことだと思っていたんですね。でもそれは違った。いつも同じではなくて、時代にあったものを見極めて、提供しなければと思うようになりました。お客さまがどんなものを求められているか、どんなものが喜ばれるか。常に問い続け、それらを汲みながら、自分たちのしたいことに一工夫アイデアを加えて価値をお届けすることが大事なんだと思いました。変えていくことの難しさ、守っていくことの尊さ。『岩井屋』は歴史が長い分、どちらもあります。ただ、昔からの常連さんに「いわい餅、今日も美味しいね」と言っていただけるのが何より嬉しく、原動力になっています。

ー平成も今年で最後ですね。時代を超えていく岩井屋さんですが、これから実現していきたいことを教えてください。

私の祖父がいつも言っていたんです。「名物はそこにありて名物なり」。『岩井屋』は愛宕山の中腹、坂の上にあります。それでも来てくださる方々のために、「この場所だから」提供できるものを、これからもお届けできればなと思います。

【いわい餅 こしあん 170円】
創業当時から受け継がれてきた岩井屋の名物。
後を引かない、品の良い甘さのあんこが印象的


【かき氷 抹茶大納言小豆かけ 1,000円】
ふんわりとした大きなかき氷。宇治抹茶の蜜ととろけるような小豆が添えてある。
テーブルに運ばれてきた際、パチパチとはじける花火も夏を感じられて嬉しい。

【岩井屋】
http://www.atago-iwaiya.com/index2.html
福岡県福岡市西区愛宕2-6-33
TEL:092-881-0304
営業時間: 9:00~18:00

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