【ぼくらが連れて行きたい店vol.42】肩肘張らずふらっと遊びに行きたい“庭”のようなカレー屋(floatan)

魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。

福岡市中央区平尾にある通称「平尾村」と呼ばれるエリアの一角。スパイスの匂いに誘われるように歩くこと、奥のまた奥。森の中にひっそりと佇む古民家のようなインドカレー屋『floatan(フロータン)』が現れます。扉を開けて迎え入れてくれたのは、キュートな笑顔がトレードマークの店主・“あーたん”こと平野敦子さん。floatanの誕生秘話や、メニューへのこだわりなどを伺いました。

趣味で始めたインド料理

―オープンされたのが2017年7月ということですが、それまでは何をされていたのでしょう?

東京でフリーのグラフィック&WEBデザイナーとして活動していました。趣味としてインド料理教室に通いだしたのが2013年。インド料理が好物だったとかそういうことではなく…種子や木の皮などの原始的な食材(=スパイス)を調合することによって、どうやったらインドカレーになるんだろう? という“作り方”や“成り立ち”の方にすごく興味があったんです。

―趣味ですか…!

そうなんです。グラフィックデザイナーという職業柄、パソコンさえあればどこでも仕事ができるということもあって、根無し草のような生活をしていたんです。だから、自分のお店を持つなんていう考えは毛頭なかったですね。ただ、料理教室に通いだしてすぐに、インドカレーにどハマりしてしまって。仕事を終えた後は、当時暮らしていた小さなアパートの小さなキッチンで、夜な夜なインドカレーを作っていました。今思えば、毎晩スパイスの匂いを漂わせていたので、ご近所の方は大変だったでしょうね…(笑)。

―インドカレーのどこに惹かれたんですか?

スパイスの奥深さですね。実は私自身、すごく飽きっぽい性格なんですが、スパイスはゴールがないので飽きることがないんです。調合はもちろんのこと、ちょっとした加減などで味が大きく変わってしまうので、学校で学んだことを反復練習して、さらに深く知るために特訓していました。

―当時はまだお店を出す予定はなかったのに、その意気込みはすごいですね…!

趣味で通い始めたとはいえ、中途半端にしたくないという思いがありました。どの分野においてもそうなんですが、「この人が先生だ!」と心に決めたら、あれもこれもと浮気せずにその人のやり方を徹底的に追求する性分です(笑)。 とはいえやはりあくまでも趣味でしかなかったので、1年半ほど続けるとすっかり気が済んで、それ以降カレー作りのことは完全に忘れ去って過ごしていました。

―そんな平野さんがお店を出すことになったのはどうしてですか?

地元の福岡に戻って来て、平尾に住み始めたことが大きかったですね。すっかりこの平尾を気に入ってしまって。一生住んでもいいかもしれない…という土地に出会ったのは初めてでした。その後「住まい以外に空間を借りるならいくらくらいなんだろう?」と、ふらっと不動産屋に立ち寄った時にこの場所を紹介されて、ひと目ぼれしてしまったんです。ひと目ぼれなんて人生で始めてですよ!(笑)。

―場所にひと目ぼれ…ですか!

内見した当時は、修復不可能にも見えるほどのぼろぼろの木造住宅だったんです。でもなぜか「絶対ほかの人にとられてはいけない!」と直感的に感じて、契約しちゃったんですよね。お金も用意してなかったし、何をするかも決まっていないのに(笑)。そこから「何をしよう?」って考えた時に、そうだ、私にはカレーがある!って(笑)。

―こんなにお客さんが来てくれるお店になることは想像していましたか?

正直想像していませんでした。インスタグラムなどのSNSの力ももちろん大きいのですが、誰にも相談しなかったのがよかったのかな、と思います。これまでの成功例や、流行しているものを意識した時点で、それはもう過去のものでしかないんですよね。だから私はいい意味で自分のことしか考えなかったんです。

“ちょっと離れたところから”

―確かに、内装も貫かれていますよね(笑)。

内装はデザインスタジオ『Spumoni』の有吉祐人さんにお願いしました。私の性格上、美しく完璧な内装だといつか飽きてしまうと思ったので、「途中でやめたような感じの内装に」とオーダーしたんです。いろんな面で手こずる物件だったにも関わらず、面白がり上手な有吉さんはさすがのセンスとアイデアで応えてくれて…(笑)。ところどころ、竹小舞が剥き出しになっていたり、ツッコミどころ満載の内装に仕上げられています。
それから、カウンターとテーブルの距離感もこだわっています。私はこのお店の店主には違いないんですが、どこか遠巻きに店内を眺めているのが好きなんですよ。例えるなら、カウンターが縁側。お客さんたちは庭に遊びに来てくれるうつくしい生き物という感じ。だから今でも毎日「今日はどんな人が遊びに来てくれるのかな〜」ってワクワクするんです。

―カレーのメニューがひとつだけというのはどうしてですか?

手羽元肉を使ったチキンカレーとひよこ豆を使ったカレーにターメリックライス、パパド(豆粉のおせんべい)という組み合わせで提供させていただいているのですが、見た目や味、すべてがベストなんです。これ以上の組み合わせのものがないという自信と、お客さんが食べるものに迷わないように、メニューはひとつにしています。

カレー愛をも超えるビール愛

―志賀高原ビールの種類もすごく豊富ですよね。

実はカレーよりも、ビールの方が好きなんです。さまざまなビールを今までに飲み歩きましたが、私の1番のお気に入りの志賀高原ビールをほぼ全種類置いています。注文していただいたら好みのビールを自分で冷蔵庫からとっていただく“駄菓子屋さんスタイル”です。もちろん、聞いていただけたらいくらでも説明しますよ(笑)。

―これからどんなお店にしていきたいですか?

この場所を借りるまでは「お店なんて…」って思っていたけれど、私は、そっと開かれた場所を持ちたいと思っていたんだなってことに始めてみてから気づきました。カウンターという縁側で私が腰掛けて待っているので、おばあちゃんちの庭に遊びに行くような感覚で気軽に遊びに来ていただける、開かれた場所にしたいですね。うつくしい生き物だけではなく珍獣も大歓迎ですよ(笑)。


とっても気さくで素敵な笑顔が印象的な平野さん。カレーを食べに来るのはもちろん、平野さんとのおしゃべりを楽しみに通われる常連さんも多いというのもうなずけます。併設されているギャラリースペースでは、平野さんご自身が愛用しているものを中心に展示・販売されているので、カレーでお腹を満たした後は、ゆっくりとアートやお買い物を楽しむのもオススメですよ。

【floatan】
福岡県福岡市中央区平尾2-14-21
TEL:なし
営業時間:12:00~18:00(L.O)
木曜日のみ21:00まで(20:30L.O)
定休日:月・火・金曜日、12/30〜1/3

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