まちの写真館「ALBUS」がはじめた「いふくまち保育園」が考える保育のかたちとは。

都市部を中心に、社会的に大きな問題になっている待機児童。待機児童とは、認可保育園に申し込んだにも関わらず、入所できずに順番待ちをしている子どもたちのことです。もちろん福岡市の一部でも例外ではありません。そんな中、福岡市中央区薬院伊福町に今年4月に開園した『いふくまち保育園』。なんと開業されたのは、警固にてまちの写真館として『ALBUS』を運営する代表の酒井咲帆さんでした。なぜ、保育園なのか? 開園させるに至った経緯や、保育に対する思いなどをうかがいました。

成長する姿を見守る、共有する

−保育園を開園することは、いつごろから考えていたんですか?

結構前から考えていました。どういう手順を踏んだらいいかもわからない状態で、「いつか保育園をつくりたい」と知らず知らずのうちに口にしていたみたいなんですよ(笑)。これまでも、写真家として子どもを主体に撮影することが多く、それも無意識というか…データを見返したら子どもたちがいっぱい!という感じでした。だから、子どもの発達に興味をもったり、子どもが成長する姿を記録することなど、何かしら「子ども」に意識が向いていたのでしょうね。

−それが保育園という形になったのはどうしてでしょうか?

唐突なことのように受け取られてしまうかもしれませんが、自分の中では自然な流れだったので、決め手になった出来事があったわけではないんです。ALBUSと同様、保育園とはいえ子どもだけに限らずもっといろんな人が(できる限り)自由に出入りして、交流できるような場所をつくりたいなと思っていたことと同時に、商いとは違う方法で家族に関わりたいと思ったからですかね。


※使用している食器は、大学時代に子どもの器について研究していた調理師の古賀明子さんが陶磁器作家の城 雅典さんと話し合い、オリジナルで作ってもらったもの。幼い子どもでもスプーンですくいやすいよう淵に凹み加工を加えるなど工夫されている。

−酒井さんご自身も子育て中というのもきっかけとしては大きいでしょうか?

私の場合、両親は近くにいないけれど、夫は私以上に家事や育児を率先してやってくれます。そのうえ、住んでいるマンションにも「夜ご飯食べにおいで〜」といってくれるような友人がいます。私のように環境に恵まれていても子育てって大変なわけですから、夫婦共働きで夫の帰りも遅く、同じマンションに声をかけられる友人もいない、そういう家族が子育てをしようと思ったらどうしようもないじゃないですか。さらに、女性が法人代表の場合、雇用保険に入れないので産休・育休も取りづらい、すなわち代表自らも働き手として活動している小さな会社の場合、経営を考えると報酬をもらいながら易々と休めないんです。女性がまだ社会の中で男性と同等に扱われてないんだな、と痛感しました。

特に初めて親になる頃(=子どもが幼い頃の育児)は、親という経験もなく不安です。でもそういう不安や大変さを感じることは日々更新されていくので、子どもが成長していくと忘れてしまいます。私の子どもは今2歳ですが、今は今で必死。0歳の時にどんなことが大変だったかって聞かれてもパッと思い出せなくて。大変だったその瞬間に感じたことや、その時どんなふうに助けてもらいたかったかなど、自分事として感じている今の気持ちを忘れる前に、実感したまま行動しなければと思いました。そして、それは一人の意見ではなく、これからの家族や地域の有り方を考える上でも、できるだけ多くの人と共有し、考える場をつくりたい。それが保育園という形になったのかもしれません。子どもたちはこの街に生きる1人の市民だと捉えているので、同じように地域の方々にも子どもたちの存在を感じてもらい、見守り、育ててもらえるような場所になるのが理想。それが子育てのあり方の一つの方法だと思うんです。

−そういった思いは、「いふくまち保育園」を運営していく上でどのように反映しようとされていますか?

保育園横の公園を、「古小烏公園愛護会」を作って管理させてもらっています。愛護会では、毎日の清掃活動や剪定、植え替え、遊具の安全確認等を行ったりしています。先日ある時には公園を活用して、豚汁やおにぎりの振る舞い、ヨーヨー釣りや手作りの輪投げ、自作の公園クイズなどを楽しんだり、地域の方々が紙芝居を読んでくださったりと、小さなお祭り「公園day」を開催しました。もちろん、保育園関係者だけではなく地域の方々も自由に参加できるイベントです。少しずつですが『いふくまち保育園』からこの街に向けて、プレゼントのような活動を続けていけたらと思っています。

−実際反響はありましたか?

公園を活用することで、園以外の子どもたちや保護者の方と知り合える機会も増えています。そこでの会話がお互いに勇気付けられたり、顔見知りになることで守られることもあると思います。また、公園自体も様子が変わってきています。私たちが管理し始めたころは、少々鬱蒼としていましたが、みんなで草を抜いたり、木も整えて名札をつけたり、役所の方にもお願いして公園の遊具のサビ落として、錆止めまで塗ってもらいました。今後は、遊具のペイントや、公園の遊具を作っていくことなども地域の方々と行いたいと考えています。

隣で寄り添う保育

−どういう保育を目指しているんでしょうか?

子どもが主体であることは忘れないでいたいと思います。その大きな理念を目標に置き換えたとき、保育者それぞれで考えることが違ってくるかもしれません。
例えば、具体的に心配なことが起こった場合においても、保護者の支援が先か、子どもの支援が先か、というのはその時になってみないと、何が一番子どもにとって大切なことなのかがわからない。ただ一つ言えることは、それは本当に子どものためなのか、ということを保育者全員で真剣に考え続けることだと思っています。そしてその答えは対応する家族によっても異なる場合があるということ。その家族に合った寄り添う形を見つけていけたらいいなと思います。また、子どもたちが保育園で過ごす生活は「生きること」に伴う成長そのもの。 その成長を発達と捉えるとき、私たちはどこかに目標を置き、その階段を昇っていくように刺激を与え、次の段階までひっぱりあげることを指導であると考えることがありますが、ドイツ語や英語から読み取る場合、発達のイメージは直線的に目標に向かっていくことではなく、子ども自身が探し求め、子ども自身の中から何かが生まれ変化していくようなことと捉えられるのではないか、と伝えている教育学者もいます。このように捉えると、子どもに対する大人の立場も変化してくるのではないかと思うのです。子どもたちへ信頼ある未来を作っていくことを、私たちの責務としてがんばっていきたいと思います。

−これからの夢はありますか?

いふくまち保育園では、元気に駆け回りたい5歳児にとってここは広さが不十分なので、5歳まで保育ができる場所として、できればもう1園つくりたいと思っています。園児が小学校に入学するまで見届けることができたら、子どもたちにとっても帰ってこれる場所になるし、家族とももっと密なお付き合いができると思います。また、小学校との連携も取りながら、保育と教育についてもっと深く考えることができるのではないかと想像しています。いつか叶うといいですね。

取材に伺った時は、5月生まれの園児の誕生日会の真っ最中。みんなで誕生日の歌を歌ったり、豆乳ケーキを食べたり、なごやかな時間が流れまていました。そんな中目にとまったのが、園児の保護者も保育園に招かれ、一緒に誕生日会を楽しんでいる様子。これはまさに今回お話いただいたことを体現されている一面でした。まだ動き出したばかりの『いふくまち保育園』がこれからどのように地域とともに歩みを進めていくのか楽しみです。
(提供写真:公園day、保育園外観)

【いふくまち保育園】
www.ifukumachi.com
https://www.facebook.com/ifukumachi/
福岡県福岡市中央区薬院伊福町11-3
TEL:092-406-8329
FAX:092-406-8335
MAIL:info@ifukumachi.com

〈トップ写真について〉
左に立つ調理師の古賀明子さんは、保育の視点で給食を作ってくれている。「ウッフスタンプ」でも活躍している、消しゴムハンコの作家でもある。

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