うどん発祥の地、福岡。うどんが地元に愛される続ける理由と特徴とは。

「あぁ、たまりませんねー」と言いながら、実においしそうにうどんを食べる山田祐一郎さん。「ヌードルライター」という肩書で活動し、2015年には『うどんのはなし 福岡』を出版されました。うどんは福岡で発祥したと言われています。本当なのでしょうか? 福岡のうどん事情に詳しい山田さんに、うどんのルーツや福岡うどんの特徴、愛される理由などについて聞いてみました。

―本日はよろしくお願いいたします。そもそもなのですが、山田さんはなぜ「ヌードルライター」という肩書なのでしょうか?

僕の実家は福岡県宗像市にある製麺所で、うどんやラーメン、焼きそばなどの麺を作っています。僕は子どもの頃から麺に親しんできて、いつか自分で店を開きたいと思い、見聞を広げるためにライターになったんです。ライターなら取材でいろんなお店に行って、深い話まで聞くことができて、勉強できるから。そのうち、実家が製麺所ということもあり、麺好きが高じて麺の食べ歩きブログを始めました。気が付くと麺料理の原稿を書く機会が増えまして。それでヌードルライターと名乗り、仕事でもプライベートでも九州を中心に各地の麺を食べ歩いています。

―いろいろな麺がある中で、2015年にうどんの本まで出されましたね。

個人的に麺は何でも好きで、ゆくゆくは麺に関する本をシリーズで出していきたいと思っていました。それで何から始めようかなと考えたとき、当時ラーメンの本はあったけど、福岡発でうどんの本はなかったんです。なので、まずは福岡の人にとって身近なうどんをテーマにすることにしました。

―では、福岡のうどんに詳しい山田さんにズバリお聞きします。うどんといえば香川の讃岐うどんや秋田の稲庭うどんが有名ですが、「うどんの発祥は福岡」って本当でしょうか?

はい、一説はあると思います。福岡市博多区の承天寺には「饂飩(うどん)蕎麦発祥の地」という石碑があり、何度か取材に伺ったことがあります。承天寺に聖一国師という僧侶がいて、宋時代の中国にわたって大陸の文化を学び1241年に帰国した際、うどんの製粉技術を持ち帰ったと伝えられています。聖一国師は水力で動く製粉機械の図面「水磨の図」を持ち帰り、それを福岡で再現したことで小麦を大量に粉にすることができるようになり、麺を食べる文化が福岡から全国へ広まったと考えられています。

―うどんはもともと中国にあって、日本で初めて伝来したのが福岡の地だったということですね。

いや実は、時期としてもっと早いのは讃岐という話もあります。平安時代に、空海が唐からうどんを持ち帰って讃岐で広めたなど、諸説あるのが実情です。その諸説を比較すると讃岐のほうが圧倒的に早いのですが…あ、これを福岡で言ったらダメかな(笑)。ただ、市民のために挽いた粉で小麦粉が生まれて、それが今のようなうどんになって、大衆に向けて広がったというのは福岡のほうが早いのだと、うどん界隈の方々はおっしゃっていて、僕もそうだと思います。

―福岡はうどん発祥の地なのに、讃岐うどんのほうが全国的に知られているのはどうしてでしょう?

うーん、讃岐のほうがインパクトが強いからじゃないですかね。食べた人が驚く、これはすごいと言わしめているのは、まずはコシの強さ。そして1杯100円くらいの圧倒的な安さ。あとは、テレビやメディアによって讃岐うどんブームが来たのに対して、福岡にはうどんブームが来なかったからでしょうね。

―福岡は豚骨ラーメンが有名だったけど、最近はうどんの注目度も上がっていると感じます。いつ頃から注目されるようになったのでしょう。

ここ最近のような気がします。僕が本を出したのは3年前で、その頃にはじわじわと波が来ているのを感じていて、僕が本を出そうと決める追い風にもなりました。

―なぜうどんが注目されるようになったと思いますか?

福岡のうどん文化が多様になったからだと思います。今までいわゆる普通の、ゆで置きのふわふわした麺という福岡のうどんが根づいていて、特にトレンドもブームもなかった状態がずーっと続いてきました。「うどんっていいね」とか「これがキテる」とか言わないけど、みんな大好きで自然に食べているみたいな、とても地味な在り方が続いてきたような気がします。
そんな中、讃岐のコシのある麺を出すお店ができたり、ちょっと飲めるようなかっこいいお店が出てきて、これまでは比べるものがなかったけど対比できるようになったことで、「僕たちの食べていたうどんって、実は全国的に見たら面白いんじゃない?」と思うようになったのかなと。
あとは博多華丸さんが「うどんが好きだ」と主張したり、タモリさんも昔から博多うどんに対する愛を語っていたり、そういったことも追い風になって、にわかにうどんにスポットライトが当たり出したんじゃないかな。

―山田さんがうどんの本を出されたことも、福岡のうどんが注目される一因になったと思います。今までなかったうどん本の反響はいかがでしたか?

実はみんな、うどんにめちゃくちゃ熱かった、引くぐらい(笑)。それまではラーメンの話は熱くなりやすくて、「あの店のあれがおいしい」とか「オレはあそこ派だ」とか「あれはいっちょんつまらん」とかよく議論されてた。それに対して、うどんは近所でよりよいお店を求めている感じ。おいしいけど撮ってインスタでアップするとか、食べたよ自慢をする必要もない、お母さんの手料理みたいな日常の食べ物だったから、語ってこられなかったのかもしれません。
だけど本を出すために取材しているときから、噂を聞きつけた人から「山田くん、本を出すならあの店を載せなきゃ」「あそこは行った?」などと言われて。みんな意外と好きだったんだなと驚きました。おかげさまで初版は完売しました。

―福岡のうどんの特徴は、麺が柔らかいことですよね。ほかにも何か特徴がありますか?

それがないんですよね。福岡は雑煮にあご(トビウオ)ダシを使うので、うどんにも入っていると書いているサイトがありましたが、そうとも限らない。ダシはカツオや昆布、アジ、ウルメ、サバ節など幅広く、どのお店もそれぞれ趣向を凝らしています。ただ、強いて言えば、醤油は薄口を使っていて、つゆの色が薄くて澄んでいるというのは共通していますね。ただ、澄んだつゆというと香川でもあたたかいうどんはつゆが澄んでいますから、特徴だと言い切るのも難しいかなと思っています。
あと、麺が柔らかいというのも2種類あって、ひとつは本来の福岡の文化として、すぐ提供できるように麺をゆでて置いているから柔らかい。もうひとつ、今はゆでたての麺を提供している店もあって、例えば今回、取材に協力してくださっている『牧のうどん』は釜揚げスタイルで、ゆでたての麺だけど柔らかい。同じ柔らかいでも違うんですよ。

―麺が柔らかいのは、作り方が違うのですか?

寝かせ方や熟成加減、なにより使っている小麦にもよるようです。福岡のうどん店の多くで使われている九州産の小麦は、柔らかく、それでいてもっちりした食感のうどんを打つのに向いているんですよ。讃岐にもあまりコシのない麺があるし、福岡のうどんも冷水で締めてざるうどんのようにして食べるとそこそこコシを感じます。そこはイメージが大きいのだと思いますね。

―福岡ではなぜうどんが愛され続けているのでしょうか?

食べやすいし、安くておいしい。赤ちゃんの離乳食にも使えますし。それに、いい年になってくると、ラーメンは脂っこいからうどんがいいという人も多いようですね。

―山田さんがライターになられた15年前から、うどんを取り巻く環境は変わってきましたか?

うーん、変わっていないかな。雑誌だと「今年はこれだ」と流行を記事にしたいところですが、あんまりなくて、ずっと地味なんです。もしうどんでパスタ風とか流行ったとしても、やっぱり普通のうどんがいいかなとすぐに終わると思うんです。うどんってそういうもので、それがいいのかなと。ひとつ思い浮かぶのは、業態として飲んだ後にうどんでしめるような「うどん居酒屋」は増えていますね。

―うどん居酒屋は福岡の文化ですか?

これも、そうですよと言いたいところですが、全国にあるんですよ(笑)。例えば、大阪でうどんを出す居酒屋にもいい店が多くて。ただ、「うどん居酒屋」と言葉にしたのは、福岡が最初かもしれません。これは『二〇加屋長介』が言い出したのかな。もっと前からやっていた店もいろいろあるけど、おいしい居酒屋でうどん屋でもあるというのは、長介が打ち出したんじゃないかな。

―今後、福岡のうどん業界がどんなふうになってほしいと思いますか?

今、福岡ではうどんが人気と言われるけど、たまたま最近、注目されただけで、皆うどんは前から好きだったと思うんです。それに、急にうどんばかり食べるようになったわけでもない。僕は、福岡の人の日常にあるのがうどんらしくていいなという気がしています。東京や海外に進出し、福岡のうどん文化を発信したいというお店が出てきて、実際に進出しているところもあります。そうやって注目が高まる中だからこそ、福岡におけるうどんは、これからも何かに振り回されることなく、日常の味であり続けてほしいと思っています。
(取材場所協力:牧のうどん 新宮店)

【ヌードルライター山田祐一郎】
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