【朝倉・東峰のいま(2/5)】徐々に自分のできることからやる。

2017年7月5日、九州北部豪雨。わずか数時間の間に記録的な豪雨が襲った朝倉市及び東峰村。大切な住民の方々の命が失われ、また、各所に甚大な被害がもたらされました。今回私たちはあれから1年が経過しようするこのタイミングで、朝倉市・東峰村の人々の“いま”をお伝えしようと取材を行ってきました。この地で再び立ち上がり、日々の暮らしや生業を再生しようと前へ進み始めた方々のいまをご覧ください。
(注)この記事は「平成30年7月豪雨」以前に取材したものです。

福岡県朝倉市の高木地区。「梨と言えば高木の梨」と言うほど、たくさんの美味しい梨が出荷されてきた梨の名産地として知られるエリアです。また、初夏になると何百匹というホタルが飛び交う自然豊かな地でもありました。
その高木地区が昨年7月5日の九州北部豪雨では甚大な被害を受けました。のどかな田園風景は一夜にしてすさまじい風景に変わり、今も大きな傷跡が所々に残っています。今回はそんな高木地区を舞台に、再び走り始めた蕎麦処『蛍雪の里・黒川山荘』店主・笹栗さんからお話をうかがいました。

約20年、海外の様々な国でシェフとして活動をされてきた店主・笹栗浩明さん。帰国後は大手航空会社の機内食メニューの開発などに携わった後お母さまが1人で暮らす朝倉市へ帰郷しました。それからここ『黒川山荘』を立ち上げ、本格的に始動しようとしていたまさにその時に、あの豪雨が襲ったそうです。

あの時は、週末のご予約のために尋常ではない…と感じる豪雨の中を出勤して来ました。一夜明けたら風景が一変していましたね。ここも酷かったですし黒川一帯が被災しました。豪雨後は仮設住宅へ避難された方も大勢いらっしゃるので、現在の住民は以前の半数近くに減ったんじゃないでしょうか・・・。

−そうですか・・・。実は、高木地区には以前うかがったことがあったのですが、道中の風景があまりに違うので、胸がつまるというか、やるせないというか・・・そんな気持ちになりました。被災後にはお店の前にある手動式のポンプがライフラインの担保に役立ったとも伺いました。

そうです。停電し井戸も土砂で駄目になったところが大半でしたので、このポンプがしばらくの間地域の方々の役に立つことが出来よかったです。小さな頃からずっと山の水で育ってきた方々ですから仮設住宅での水道の水には違和感があるんだそうです…。
お店ではこの美味しい水と地域の豊富な食材で安全で美味しいものを提供したいと思っていました。でもあるお世話になっている果実農家さんに「こだわりすぎておいしいものだけを作ろうと思ってはだめ」と言われたことがあるんです。確かに高価な食材ばかりを使いコストオーバーしており、お客様にはこの空間や環境含め全体で満足していただけるように試行錯誤していた時期でした。オープン後1年も経たないいうちに、まさかこんな災難に遭おうとは・・・。

−被災後はどうでしたか? 直ぐに再スタートをきるぞというお気持ちになったのでしょうか?

床上まで浸水し膨大な土砂をどうやって除去しようか… 道も落ちているし・・・心が折れていました。収入は途絶えているのにお店の諸経費は出ていく一方でしたから。本当に大勢のボランティアの方々に助けていただき、何とお礼を申し上げたらよいか・・・言葉が見つかりません。当時はせめてもという感謝の気持ちでカレーやかき氷などを提供していました。落ち着いてきてからはお任せコースのみで営業しています。今出来る事をして、一歩ずつ次へのチャレンジをして行きたいと考えています。

※ボランティアの中には、人気バンド「MAN WITH A MISSION」の支援チームも。彼らが展開する「九州豪雨災害ボランティア支援大作戦」で、ここ高木地区にも重機が入ったそうです。

−当時の絵が飾られていたりと、ボランティアの皆さんの支援をこうした形で伝えていることも含め、外から戻ってこられた笹栗さんだからこそ、地区の皆さんと、外の方々との接点を生み出すこともこの『黒川山荘』の出来る役割かもしれませんね。今までのお話をうかがいましたが、これからどのような展開を目指していらっしゃいますか?

十割蕎麦を出そうと考えたのは健康志向のお客様向けだと思ったからです。かなり山奥に店があることから、通りすがりで来るお客様はまずあり得ません。「わざわざ足を運びたくなる店」を目指し、共感してくださる方々とつながっていけたらと思っています。それと、スパイスから焙煎するカレーもやりたいです。あとは地元の素材を使った加工品を『三連水車の里あさくら』などの直売所などで展開出来るようになったら・・・と考えています。(三連水車の里がある)山田からのメインアクセスが復活した時に高木地区へお客様が来て下さるように動いていきたいですね。


インタビューの間、ふと日本語での表現を探す笹栗さんの様子が印象的でした。20年に渡る海外生活です。考え方なども、海外の方に近しい部分があるのかもしれません。
この高木地区が本格的に復興し、蛍が戻ってきた時、インバウンドのお客様をも惹きつけるような、「高木地区を代表する美味しいお店」になっている事を心から願っています。だって身体が喜ぶ美味しさが待っていますから。そして、被災して地区を離れた方にとっても「戻れる場所」としてここに黒川山荘があり続けることはとても大きなことだから。また、今度は家族で食べに来ます。
(取材協力:あさくら観光協会

=参考情報=
今回の九州北部豪雨については、関係機関各所で情報が色々と発信されています。
福岡県の被災者支援ポータルページで、リンク集がUPされています。
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/hisaisyasien0.html

【蛍雪の里・黒川山荘】
http://kurogawasansou.com/
福岡県朝倉市黒川1731
TEL:090-8767-9650
営業時間:完全予約制

→連載コンテンツ「朝倉・東峰のいま」1本目記事はこちら

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