【特別連載】博多に唯一残る酒蔵「博多百年蔵」の歴史的建造物と地域との関わり方。(2/2)

博多のまちに唯一残る造り酒屋として、140年以上にわたって人びとに愛され続けてきた『博多百年蔵』。2本連載の1回目は、2016年に入社された前田さんの案内で、酒造りのこだわりを中心にご紹介しました。後編の今回は、酒蔵の建物や地域とのつながりについてお話を伺います。

ー博多百年蔵の建物を拝見していると、長いときの流れを感じます。外の白壁や煙突は風情たっぷりで、中に入るとどっしりとした趣がありますね。

この建物は石蔵酒造の2番目の酒造場として、明治3年に建てられました。ちなみに、最初の酒蔵は博多区神屋町界隈にありましたが、昭和20年の福岡大空襲で焼失してしまったそうです…。幸い戦火を逃れたこちらの酒蔵は、昔ながらの白壁土蔵にレンガの煙突、そして軒先に造り酒屋の象徴である酒林を掲げた佇まいで、代々、博多っ子の心に刻まれてきたと言われています。

ー国の文化財にもなっているとか。

はい、国の登録有形文化財になったのは平成23年のこと。実は、県や市からは文化庁に推薦をしたいとのお話を何度かいただいていたものの、登録すると建物を改変できないのではないかと、しばらく見送っていました。規制は外観を変更する場合などに限られ、歴史的建造物としての価値が高まることから7年前に登録したそうです。平成8年には「福岡市都市景観賞」もいただきました。歴史あるこの建物を、博多のまちの大切な景観として守ることも、当社の大切な使命であると考えています。


ーこの歴史ある酒蔵を舞台として、さまざまなイベントもされているとも聞きました。

博多百年蔵には3大イベントがあります。
まずは2月の「蔵開き」。新しくできたお酒を地元のお客様に楽しんでいただく古くから続くイベントで、外部の飲食店と連携したり、ちんどん屋さんに来てもらったりして、にぎやかなお祭りのような雰囲気です。毎年大盛況で、昨年は2日間の来場者が3,000人にのぼりました。

12月29・30・31日の「年の瀬市」は、平成25年にスタートしました。お正月のお酒をお求めに来られる方が多く、限定の生酒を出したり、温かい甘酒をふるまったりしています。ここでお正月のおせちのお渡しも行っているので、おせちとお酒を一緒に買えることも喜ばれています。

そして、もうすぐ7月24日(火)~26日(木)には今年で4回目となる「酒蔵de冷ガーデン」を開催します。若い方たちにもっと日本酒の魅力を知ってほしいと、10種類ほどの冷酒のほかに、日本酒を使ったカクテルやデザートもご用意しています。また、大人の夏祭りをコンセプトに、敷地内をライトアップし、飲食店のおつまみやヨーヨー釣りなども楽しめるようになっています。昨年は2日で1,500人が来られて大好評だったため、今年は3日間に拡大しました。浴衣で来られた方には特典もありますし、ぜひ遊びにお越しいただければと思います。

ーこのようなイベントが地域とのつながりをもたらすのでしょうね。

来場者の数が年々増えていて、「毎年楽しみにしています」というお声をたくさんいただくようになりました。気軽にお越しいただき、百年蔵を知っていただくきっかけになっているようで、私たちもお客さまと直接お話できる機会として、とても楽しみにしています。
最近はイベントに限らず、普段から県外や海外のお客さまもたくさんお越しいただくようになりました。地域のにぎわいに貢献できていると思うと、光栄ですね。

ー現在は披露宴や周年行事、金婚式などもされています。なぜ酒蔵でお祝いごとを始めたのでしょうか?

お客さまから「ここで披露宴をやりたい」というご要望があり、平成13年に始めたそうです。最初は年に数件でしたが、年を追うごとに件数が増えて、今では年間100組以上の披露宴を行っています。予約が取りづらく心苦しいほどで…お早めに問い合わせいただければと思います。
私自身も5年前にこちらで披露宴をしたのですが、おいしい和食と蔵自慢のお酒をはじめ、文化財になっている建物の重厚な雰囲気やスタッフの方々のおもてなしも素晴らしかったので、親戚や友人からは「もう1回披露宴をしてほしい」と言われますよ(笑)。
さらには、石川さゆりさんの博多座公演の記者会見や、クラムボンさんをはじめ一青窈さんや斉藤和義さんのコンサートまで、歴史を重ねた他にはない空間として幅広くご利用いただいています。とにかくリピーターの方が多いのは、ご満足いただけた証としてうれしく思っています。


ーこのような場所で働いてみて、いかがですか?

いろいろなスタッフがいるのですが、皆さん柔らかい雰囲気で、すごく働きやすい職場だなと思います。私は特に杜氏の小島さんに教わることが多く、酒造りのことはもちろん、接客もプロフェッショナルな方で尊敬しています。例えば、お客さまに「コンビニはどこにありますか?」と聞かれたら、普通ならコンビニの場所をお答えすると思うのですが、小島さんはその方が何を必要としているのかを察知して、「おタバコですか?」などと声をかけています。
それに、私に指導されるときも、まずはやらせてくれて、さりげなくサポートやアドバイスをしていただけるので、私も自分で考えながらのびのびとチャレンジすることができます。私も小島さんのように、あとに続く人をしっかりあたたかくサポートできる人になりたいなと思います。

ー今後、博多百年蔵はどのように進化していくのでしょう?

当社は、歴史を繋いでいくために、とにかく変わり続けることが大切だと考えています。建物・空間としての博多百年蔵については、地域の皆さまに一層親しまれ、必要とされる場所であり続けられるよう、常にお客様の声・街の声に耳を傾けながら、可能な限りの手入れを続けていきます。また、お酒造りについては、3年前から新しい醸造場も稼働しました。現在はこの醸造場をフル稼働させながら、我が街の酒として地域の皆さまに親しんでいただけるよう、日々研究と工夫を積み重ねています。それから、これからの50年・100年も博多の街とともに歩みたいという想いが溢れた、新しいプロジェクトも立ち上がりつつあります。

ー新しいプロジェクトとは!?

現段階では詳細はお伝えすることはできませんが、これからも地域に根ざした会社として、地域のために、地域の方々と共に歩みたいという想いが溢れたプロジェクトです。新しい事業を展開するために、少しずつスタッフを増やしていこうという計画もあります。私たちの仕事が増えていくことで、喜んでくださるお客さまが増えると思うと、大変やりがいがあります。100年後も続く蔵であるために、進化していく博多百年蔵をこれからもどうか応援していただけると幸いです。

新プロジェクトのお話も飛び出すなど、ますます気になる博多百年蔵さんですが、次の展開にあわせた求人は年明け以降に公開されるようです。またこちらでもご紹介したいと思いますが、この期間に是非博多百年蔵さんの中身を知っていただければと思います。

【石蔵酒造株式会社】
https://www.ishikura-shuzou.co.jp
福岡県福岡市博多区堅粕1-30-1
〈直売所〉
営業時間:11:00〜19:00
定休日:年始(1月1・2・3日)、お盆

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