前編に引き続き、博多祇園山笠振興会の正木さんと福岡市役所まつり振興課の田畑さんにお話を伺っています。
後編では、山笠の担ってきた役割や安心・安全な体制づくり、今後の課題や展望などを語っていただきました。
伝統を守りつつ、時代に合わせて変化
ーおふたりはずっと山笠にかかわってこられたのでしょうか。
正木さん:うちは現在洋服屋ですが、もともとは博多人形師の家でした。先祖の正木宗七は、福岡藩を治めた黒田家とともに国入りした城瓦職人で、博多人形の祖とも言われています。そういったわけで、子どもの頃から山笠は身近にありましたね。
田畑さん:私は熊本の出身でしたので、福岡市役所に就職してからです。25歳のとき、役所の先輩から「市職員なら地域コミュニティのことを知っとった方がよかばい」と、あるお店の大将(親元=保証人)を紹介していただき、それから26年ほど山笠に関わらせていただいています。
しかし、そもそも山笠は地元に生まれ育った子供が経験を積み、舁き手となってゆくわけですが、その段階を踏まずに参加するわけですから、直会の際の皿洗いや掃除などをしっかりやって、町内で行われる寄合などにも積極的に参加することで、少しずつ認められるようになったような気がします。
それから,「赤手拭」(あかてのごい:取締の補佐や若手育成を行う役職を表す手拭)以上の役員手拭をされた方々は、上に行けばいくほど山笠に関わる時間が長い分、達成感も大きくなると思いますが、気苦労も多くなるようです。
ー田畑さんのように外からの方でも参加することができるんですね。
正木さん:もともとそこに住んでいる人間がやってきた祭りですから、基本は山笠にかかわるのは代々そこに住んでいる人です。ただし、旧博多部も住む人や働いている人が少なくなってきていますので、流にもよりますが、もとからの住人などは現在では1割ほどになっています。残りの9割は外の人なのですが、そういった人は各町に親元と言われる、その人の人柄や身元を保証してくれる人がいることが条件になっています。
1962(昭和37)年から福岡市の要請で始まった「集団山見せ」の日には、地域の名士や協賛していただいている企業のトップの方などに台上がりしていただくのですが、県知事や市長、警察署長なども上がられたり、ソフトバンクの孫会長も上がられたことがあります。一度台上がりをされた方は、だいたい翌年はどこかの流に所属されていますね(笑)。
ー山笠期間中にはさまざまなルールもあるそうですね。
正木さん:有名なところではキュウリを食べない「キュウリ断ち」ですね。これは、櫛田神社の祇園の紋がキュウリ(瓜)の切り口に似ているからと言われています。ほかにも期間中は女性に触れない、茶髪・ピアス・タトゥー(刺青)の禁止、時間厳守、あいさつの徹底などもあります。厳しい面もありますが、以前はもっと縦社会ががっちりしていましたから、ずいぶんと昔に比べて参加しやすくなってきたと思います。私たちが若い頃などは上の方に対して口がきけるような状態ではなかったですよ。昔は夜中まで締め込みをしたまま掛け声の練習などをさせられていましたし。伝統を大切にしながらも時流に合わせてやっています。
300万人の集客力・日本一客を呼べる祭り
ー福岡にとって「山笠」の役割とはなんでしょうか。
正木さん:福岡の街は「博多部」という町人の町と、「福岡部」という武士の町の2つにちょうど分かれています。もともと武士の町だった天神などは、現在ではどんどん経済を担っていく場所となり、逆に博多部では、空港などの外への玄関口でありながら、人も少なくなってきています。ただ、それでも人が留まって少しずつ発展し続けているのは、祭りもその一因ではないでしょうか。山笠とどんたくがあるからこそ、この町に留まってこの町を発展させていこうという人たちがいる。それだけの魅力と求心力がありますから。私も一度東京で就職しましたが、帰ってくるきっかけにはなりましたね。
福岡は大陸への玄関口として発展してきたという歴史的背景と、文化的な深みがあります。その一翼を山笠という祭りがになってきたことは間違いありません。
ー今後も山笠を存続・発展させるためにはどういったことが必要でしょうか。
田畑さん:博多祇園山笠は、15日間の祭り期間中の見物客は延べ300万人と言われています。それだけに、お客様だけではなく舁き手など関わるすべての方にとって安心・安全な祭りになるように警備や案内をしっかりやっていくことが大切になってきます。そして、伝統が続いていくために役所で何ができるのか、山笠にかかわる方々と一緒に考え、支援していくことが重要だと考えています。
正木さん:現在、一般企業の方にも協賛金をいただいているのですが、近年では地元の企業さんの他に福岡にはまったく縁のない東京の企業さんなどからも協賛のお申し出をいただくことがあります。
世界遺産に登録されたことで知名度もさらに上がり、社会貢献といった部分だけではなく、実質的なメリットを企業側に感じてもらっているのではないでしょうか。それには、残していきたい魅力的な祭りであり続けなければなりません。
振興会としては、まだまだやれていないことがたくさんあります。他言語対応なども進めていますが、外国からのお客様へのフォローアップがまだまだ不十分です。われわれだけではできないことで、街全体でお世話できるかたちを今後つくっていく必要がありますね。
見物の方がどんどん増えてきているので、きちんとご案内ができる、安心・安全な祭りであることも大切です。安心・安全に関しては年々進んできてはいますが、それをさらに進めていきます。
また、振興会のみではなく、振興会以外の人とも、もっと福岡の街自体が発展できるようなことをやっていければと思います。IT系のスキルが高い人が多い移住の方たちとも一緒にやれると、さらに面白い動きができるかもしれませんね。
【博多祇園山笠】
https://www.hakatayamakasa.com