【ぼくらが連れて行きたい店vol.41】とんこつラーメン発祥の店が抱く時代の流れと“使命感”。(南京千両)

魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。

福岡を代表する食のひとつ、とんこつラーメン。今ではもうすっかりお馴染ですが、そのルーツはどこにあるのでしょうか。情報をたどると、福岡県久留米市にある一軒のラーメン屋に辿り着きました。天神から西鉄電車とバスを乗り継いで小1時間。地元でとんこつラーメン発祥の店として知られる『南京千両』では、宮本憲司さん・千恵子さんご夫妻が開店準備をしていました。とても78歳には見えない元気なお二人。店内で流れる美空ひばりの歌声をBGMに、二代目店主の憲司さんにお話を伺いました。

−とんこつラーメン発祥の店として知られていますが、そもそもとんこつラーメンが生まれたきっかけは何だったのでしょうか?

とんこつラーメンが生まれたのは昭和12年の春ごろ、創始者は私の父である宮本時男です。当時、久留米でうどん屋を営んでいたんだけど、父の弟が横浜にいまして。「支那竹の入った支那そばというのが、南京街(現在の横浜中華街)で流行ってる」と教えてくれたんです。話を聞いた父は横浜へ行き、支那そばの味と作り方を覚えて久留米へ帰ってきました。長崎県島原市の生まれなので、幼い頃から慣れ親しんだ長崎ちゃんぽんのスープからもヒントを得て試行錯誤を重ね、原型となるとんこつラーメンを作ったそうです。

−屋号の由来もそこからきているのですね。

南京街の「南京」と、多くの人に食べ親しんでもらえるように縁起を担いだ「千両」、この二つをくっつけて『南京千両』と名付けました。いまは店舗だけですが、昔は明治通りや文化街あたりで、毎日屋台を引いてお客を呼んでいましたよ。その頃から白濁したとんこつスープでしたが、味はあっさりした薄味。学生や商店街の人たち、医者の先生方に好んで食べていただいたので「学生ラーメン」とも呼ばれていました。

−とんこつラーメンには濃厚でこってりしたスープの印象を持っていたので意外です。ラーメンを作るにあたって、特にこだわっているものはなんですか。

一番は水ですね。人間のからだで特に重要なのは水ですから、スープを作る時も、麺をこねる時も、調理にはすべて還元カルシウムイオン水を使っています。蛇口にホースをつないで、直接鍋にピューッと水道水を入れるような事はしません。水もからだに優しいものでないとね。それから塩も。モンゴル産の岩塩を使っています。
私たちは、どんぶりの底に粉骨が溜まるようなスープの炊き方はしない。じっくり丁寧に。だからこれ、固まったスープを見てごらんなさい。牛乳のように真っ白で沈殿しているものもないでしょう。コラーゲンたっぷり。ラーメンはスープを残すのが普通だと思われているけど、うちのは最後の一滴まで味わっても大丈夫ですよ。

−とんこつラーメンが福岡を代表する食となっていますが、発祥のお店として率直にどう思いますか?

嬉しいです。感謝。感謝しかないですよ。ただ昨年ね、南京千両80周年を迎えた時に、創始者としてどうあるべきかと使命を考えたんです。
久留米のラーメンはどこに食べに行っても美味いです。だけれど、スープを見た時にすこしがっかりすることもあるんです。それは昭和20〜30年代のラーメンのままということ。当時は終戦後ですから、汗水垂らして働く重労働者の方が大勢いて、塩の効いた脂っこい食事が好まれました。でも現代はどうでしょう。夏場でも冬場でもエアコンが効いていて、快適な環境が増えた。それなら、時代に合わせてラーメンも変わっていいんじゃないかと思ったんです。作り方を丁寧に研究すれば、もっとからだにいいラーメンができるんじゃないか。首相の安倍さんも言っていたでしょう。「人生100年時代構想」。人生で一番大切なのは健康ですよ。塩っ辛くて脂たっぷりのラーメンを何年も何年も食べ続けていたら、体を壊してしまします。
うちは創業からあっさりしたスープだけど、発祥の店であっても時代の変化に対応していくことも必要だと思うんです。だからいろいろと挑戦をしています。
私たちはお客さんにラーメンを「売っている」んじゃないんです。創業してからいままで、80年間うちを支えてくれた。そのお返しに、美味しくて、からだにやさしい味を提供する「お礼」なんです。うちに通ってくれるんだから、みなさん健康に、長生きしてほしいですよ。

−80周年を迎えても尚挑戦していく、素敵ですね。これからやっていきたい、実現したいことはありますか?

ずっと貧乏でやってきたから、これからもこのまま貧乏でしょうね。(笑) 贅沢はしないから、傲慢になることもない。貧乏だけど、心まで貧しくなったらおしまいです。失敗しても笑ってポジティブでいること、挑戦するのをやめないこと。挑戦し続けていたら失敗の理由がわかるでしょう。これが成功の哲学ですよ。
今日こうしてあなた方に喋ったことで、言ったことは実行しなきゃとまた気合が入ったから、私が一番得しましたよ。(笑) うちを支えてくれるお客さんに、これからも美味しくて健康なラーメンでしっかり恩返ししていかないとね。

「はい、お待ちどう」と千恵子さんが運んできてくれたラーメン。取材に訪れる前までは、午前中にとんこつラーメン…!と、少し覚悟を決めてきたけれど、味わった感覚は違いました。まずはスープを一口。おや?っとまた一口。そして自然ともう一口。あっさりまろやか、だけれどコクがあるとんこつスープでした。短冊切りにしたチャーシューと、とんこつラーメンには意外な組み合わせの支那竹は、時男さんが南京街から持ち帰ったアイデアのまま。深ネギと風味づけに海苔。中太のちぢれ麺にはコシがあり、スープとよく絡みます。

過度な盛り付けや味付けはしない、食べてほっとするとんこつラーメン。自分が培ってきたものと時代のニーズを組み合わせて、新しいものを作る。既成概念にとらわれない柔軟な姿勢と、お客さんを想う深いやさしさが発祥の地にはありました。

【南京千両】
http://www.nankinsenryou.jp/
福岡県久留米市野中町1357-15
TEL:0942-22-6568
FAX:0942-22-6567
営業時間:11:00~22:00
定休日:不定休

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