アートマーケットにおける福岡が持つ可能性。人や社会を変えるアートの力とは。

日本のアート市場は、海外と比べると驚くほど規模が小さい。
例えば、森記念財団が出している書籍「文化・クリエイティブ産業の育て方」(一般財団法人森記念財団 都市整備研究所)を見てみると、2014年は世界のアート市場が約7兆600億円。その60%ほどをアメリカと中国が占めており、日本は全体の0.7%とその差は歴然だ。逆を言えば日本においてはまだまだポテンシャルを秘めた市場なのではないかということで、日本のアート市場の可能性や福岡からできることとはないのか、についてけやき通り沿いにある『Gallery MORYTA』オーナーの森田俊一郎さんにお話をお伺いしました。

日本のアートマーケットの今

−数字を見ても、日本のアート市場規模の小ささがうかがえますが、日本と海外の違いは何なのでしょうか?

日本では、多くの人たちにとって絵は買うものではなく美術館などで鑑賞するものだという認識です。一方海外では、絵を買うこと、コレクションすることを楽しんでいる人たちがとても多いってことでしょう。

※世界とのアート市場比較

−日本と海外では、アートの捉え方が違うということなのでしょうか?

アート作品を(美術館やギャラリーで)見るということと、それを自分のものにするということは全く異なった意味があります。「パリについて書かれた本を百冊、二百冊と読んだ人がどれだけ雄弁にその街の魅力を語ろうとも、一度でもパリを訪れたことがある人の言葉には敵わない」。これはギャラリーに来られた方々に私がよく言う例え話です。
絵を買うことで、作品を生み出すアーティストとの関わりが生まれます。作家の成長を楽しむ“新しい自分”に出会えます。アーティストの才能次第では、ともに歴史を築く、そんな気持ちになったりもする。作品を自分のものにしようと決めた時、ある種の高揚感を覚える人も多いです。それはきっと無意識に“新しい自分”を感じ取っているのかもしれませんね。
アートと暮らすことで新しい価値観が生まれ、意識がガラッと変わることがあります。そんな人々をギャラリーでこれまでいっぱい見てきました。
海外のアートフェアなどに行くと、アートが持つ楽しさや深さ、さらに国際的な広がり、そんな素晴らしさを心から楽しんでいる人たちを良く目にします。
そんなアートの本質を少しでも伝えることができたら良いなと思いますね。

アートの価値を次世代に届ける

−『Gallery MORYTA』をオープンされて今年で28年ですが、アートを取り巻く環境は変化してきていると感じますか?

少しずつですが、アートが話題になる機会が増えたかな、と思います。確かに海外と比べてアート作品の購入者は極端に少ない、でも私自身そこに大きな可能性を感じています。これだけの経済成長を遂げた日本なのに、これほどまでに小さいアートマーケットであるはずがないと。
多くの家庭では、家中を見渡しても、文化(アート)と呼べるようなものはほとんどない。逆に5年10年経ったら捨ててしまうようなもので溢れています。みんなの意識の中に、“次世代に受け渡していくようなものの価値感”が芽生えていってほしいなと思っています。
また、アートに触れることで、私たちが本当に「心から好きだ」というものを見つけるきっかけになったら良いと思います。そんな気持ちで文化とかアートを当たり前のように日常に感じてもらいたい。それって素敵な話じゃないですか?

−素敵ですね! 実際ギャラリーに足を運ぶ習慣のない方がまだ少ないのが現状だと思いますが、森田さんはどのような動きをされていますか?

イベントの開催は有効な手段のひとつだと思います。2016年の6月、私の知人から紹介されたという男性がギャラリーに来られました。その人は会うなり、「ギャラリーにはとても興味があるけど敷居が高くて入りづらい。そこで、私を含めて、誰でも気軽にギャラリーに来られるようなイベントを企画できませんか?」と単刀直入に聞いてこられました。私は直感的に「面白いアイデアだ!」と思いました。そこから生まれたのが『ギャラリー梯子酒』というイベントです。
これはけやき通りのアートスペース6軒をワイングラス片手に巡りながら、洋酒とアート、そして出会いを楽しんでいただくイベントで、参加費は3杯分のドリンクチケットがついて1,500円。高校生以下は参加費無料でソフトドリンクをサービスしており、ファミリーでも参加しやすいようにしています。

アートが生み出す“文化を感じる環境”の効力

−『ギャラリー梯子酒』の反響はいかがでしたか?

これまで7回開催し、毎回200人くらいの方が参加してくださっているんですが、皆さんとても喜んでくれています。
飲み会や交流会は巷でよくありますが、背中にアートの存在を感じながらというのは意外と少ないのではないでしょうか。他の場所であれば、日常的で当たり前に思えるような会話でも、本物のアートに囲まれたなかでは上滑りして、虚しく響きます。そして、いつのまにか本音で語り合う自分に気づかされるのです。人間って繊細です。森の中で会話する自分と、雑踏の中で会話する自分。誰でもその違いは分かりますよね。
各ギャラリーがセレクトした絵画は、参加したもの同士に価値観の共有をもたらします。共有する思いがあるから、心の中にあるお互いの夢を感じ会える場となるんです。
『ギャラリー梯子酒』にとどまらず、市内にもっともっとそんな文化を感じさせる「場」があれば良いですね。

※2018ギャラリー梯子酒でのSeason Lao トークショー

アートは人を変える、社会を変える

−今後も、さまざまなイベントを行っていく予定ですか?

やっていきたいですね。ただ、イベントを数多くやるっていうわけじゃなくて、文化をもっと身近に感じてもらえるような質の高いイベントをやっていきたいですね。よく「環境が人を育てる」といいますが、それは間違いなくあります。雑然とした場で育つ子供と、例えば静謐な絵画に囲まれた子とでは、絶対に人生に違いが表れるはずです。だからこそ、文化を感じるカフェやホテル、レストランが増えてほしいと思います。

−人が変われば社会も変わりそうですね

絶対変わりますよね。ただ新しいとかかっこ良いという空間はいっぱいあります。でも、文化があるということで私たちは本物の豊かさを享受できるのだと思います。そんな本物が何かを感じ合える人々がいっぱいいる、そんな世の中でありたいですね。

※三津木晶 「tablecross」oil on canvas 1621x1303mm 2017

−福岡からアートを盛り上げるにはどうすればいいと思いますか?

福岡は経済の伸びが国内トップと言われていますが、関東・関西圏のスケールにはまだまだ及びません。ですから福岡から…っていう大それたことは考えてないのですが、やっぱりアジアに近いというのは最大の強みだと思います。
例えば、私が関わっている福岡初のアートフェア「ART FAIR ASIA FUKUOKA」もそうですが、福岡はアジアのアート愛好者が集まってくる、プラットフォームになる可能性があるのかな、と。本物のアート好きは良いものがあったら飛行機を使ってでも来てくれますからね。富裕層なんかは自家用ジェットで飛び回ります。
世界はアートに繋がる人脈が、経済や政治に大きく影響するということをよく知っています。そうしたコネクションを取り入れることで、ビッグホテルが増え、様々な施設がオープンし、より都市が魅力的になっていく。アートフェアは、経済を活性化させるために開催しているといっても過言でないくらい、他の国では行政などを中心に力を注いでいることがよく分かります。
だったら福岡は、日本の窓口になったら面白い。実は台湾や香港、さらにはフランスのアート関係者さえ口にしているんですよ。

−アートの捉え方が他とは違う私たちは日頃どういうことに心がければいいのでしょうか?

世界中から毎日多くの人々が訪れる美術館を間近で見て育つ欧米の人々は、当然幼少期からアートは価値があるものだと認識できます。一方私たち日本人は、アートが買えるのだという文化さえ根付いていません。ですから、まず1枚でもいいから絵を購入してみたらいかがでしょうか。良いものを見続けることで直感力は鍛えられ、さらに高めていくことができます。
“絵を持つことで心が豊かになる” “文化を共有する人との和が広がる” そんな行為がいかに自分の人生をドラマチックに、そして豊かにするかを体感してほしいと思います。

【Gallery MORYTA】
http://www.g-morita.com
福岡県福岡市中央区赤坂3-9-28 ロフティ赤坂2F
TEL:092-716-1032
営業時間:13:00〜19:00
定休日:月曜日

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