「福岡ってどうしてこんなにコーヒー屋さんが多いの?」
特に最近の移住者や観光客は口をそろえてそういいます。実際に福岡に住んでいても「年々盛り上がりを見せているな」と感じるこの状況。この盛り上がりの理由はなんなのか、福岡のコーヒー業界に限りなく近く俯瞰した立場にいらっしゃる、『Click Coffee Works』主催の古賀さんに福岡のコーヒー業界についてお話を伺ってみました。
コーヒーの力で魅力的な街に
—まず、古賀さんご自身のことを教えてください。古賀さんが掲げる『Click Coffee Works』はどのような活動をされているのでしょうか?
“福岡を美味しいコーヒーとそれを楽しむ人で溢れる魅力的な街にする”というコンセプトのもと、2015年から『Click Coffee Works』を掲げました。私の使命は「振り向かせること」。コーヒーの豊かさをまだ知らない人には振り向いてもらう、もうすでに振り向いている人にはもっと近づいてもらうということ。活動内容としては、コーヒー関連のイベント企画が多いです。
—すごく漠然としているようで、すごく具体的なんですね。
それ、よくいわれます(笑)。コーヒーを飲んでいる時間っていうのは本当に豊かなものなんですよ。ここで私がいうコーヒーっていうのは、コーヒーそのものだけではなく、店員さんの雰囲気やBGM、そこに集う人々など、コーヒーを中心としたその空間すべてのことを指しています。どんなにおいしいコーヒーでも、居心地の悪い場所で飲むとまったく違った味に感じてしまいます。だから、コーヒーを取り巻く複合的要素すべてを愛する“コーヒーラバー”で溢れる街にしたいと思っています。
—どういう経緯でその活動を始められたんですか?
20代後半からずっと大手コーヒーチェーン店で働いていたんですが、2013年に40歳を迎えたのを機に組織に縛られず能動的に仕事をしたいと思って独立しました。その時にはまだコーヒーに携わる仕事をするということが考えられなくて。13年間コーヒー業界のプレイヤーとして仕事をしてきたからこそ、逆にこれからコーヒーとどう関わっていくかを自分なりに模索したかったんです。独立して1年間はコーヒーに関わる仕事はしないと決めて、ワークショップデザイナー・ファシリテーターとして活動していました。一年が過ぎたころ、「今やっている仕事ならコーヒーとうまく融合できるはず!」と直感的に感じて『Click Coffee Works』を立ち上げました。
—いちプレイヤーとしてまた復帰したいという願望はなかったんですか?
なかったです。今は自分がコーヒーを淹れたいというよりも、コーヒーとほどよい距離感を保つことで、福岡のコーヒー業界を俯瞰しながら活動している感じです。
※イベントの様子
飽くなき向上心と探究心
—続々と新しいお店がオープンするなど、福岡のコーヒー業界が盛り上がっているように感じますが、この盛り上がりの要因は何だと思われますか?
少し話しは遡りますが、2007年に福岡でコーヒーに熱意を持った人たちが集まって勉強会グループをつくったんです。当時はまだ日本のスペシャリティコーヒー業界は狭く、なかなか知識をインプットする機会がなかったんです。だから福岡でコーヒーを一生の生業としようという人たち同士が自然とつながって、情報を補い合おうと結束。集まる機会はほぼなくなってきてしまいましたが、それぞれが、お店を持ったり、事業を拡大したり、世界大会でタイトルをとったりと10年でさまざまな成長をしています。
※勉強会
—昔からコーヒーに対して熱意を持った人が多かったんですね。
地方だからこそ、より団結力が高まったのかもしれません。勉強会グループを発足するまでは、各々知識を深めたりはしていたけれど、みんなで集まって共有することで、自分の居場所を再確認している感じだったのかも。
—実際に福岡のコーヒー業界が盛り上がってきたな、ということを実感した出来事はありましたか?
それでいうと、やっぱり世界大会に出場する人が出てきた時ですかね。盛り上がってきたなっていうよりはこれから盛り上がっていくだろうなと胸が高まりました。2013年頃からそういう人が福岡から出てきたんですが、2014年には、日本スペシャルティコーヒー協会が主催する各競技会で、カッピング技術を競う「ジャパンカップテイスターズチャンピオンシップ2014」、焙煎の技術を競う「ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ2014」、さらにバリスタの技術を競う「ジャパンバリスタチャンピオンシップ2014」の3部門において福岡のコーヒーマンたちが優勝しています。これは本当に身震いするほど幸せな出来事でしたね。
福岡らしい横のつながり
—どうしてそんなに一度にたくさんの優勝者を輩出できたのでしょうか?
先程も話した通り、勉強会など同業者の横のつながりが強いので、刺激し合ったり情報を共有し合ったりしやすい環境だったというのもあると思います。よく福岡に遊びに来た人に驚かれるのが、コーヒー屋さんにいくと「あそこのコーヒー屋さんはもう行きましたか?」って、本来はライバル同士である同業のお店をすすめてきたりするんですよね。そういうふうに横のつながりを自然とつくることができるのが福岡の文化なんですよね。
—福岡の文化が関係しているんですね。
そうだと思います。それでいうともうひとつ。飲み屋さんが多いうえに、2〜3軒はしごするのが普通というのが福岡。屋台や立ち飲み屋も多く、飲み物にお金を使うということに抵抗がないというのも福岡でコーヒー屋さんが盛り上がっている要因のひとつなんじゃないかなって思うんですよね。
—なるほど!その理論は面白いですね。これから古賀さんご自身は、コーヒーとどういうふうに関わっていく予定ですか?
そうですね。でもこの福岡文化が背景にあるというのはあながち間違っていないんじゃないかと思います。
今後の関わりとしては、コーヒー屋さんは「おいしいコーヒーを提供する」ことが1番の仕事ですが、今はそれにプラスして豆の産地や生産者のことなど、コーヒーのストーリーを“伝える”ことも大切な役割になっています。私は2015年に『Click Coffee Works』を立ち上げて以来、そこに重きを置いて活動してきたんですが、最近は“伝える”というプロセスを大事にするコーヒー屋さんが増えてきました。だから私自身がそれを行う必要はもうないな、と思っています。これからは情報発信のお手伝いや、場所や企画のコーディネートに力を入れていきたいと思っています。
—福岡のコーヒー業界はよりよい方向にむいてきているということなんでしょうか?
そう思います!ただ、圧倒的に足りないものがあるんです。コーヒー業界をより良くしていきたい、福岡の中で大きなマーケットにしていきたいと思っていた時に必要なのが“資本”と“人材”。資本はすぐに確保できるものではないですし、福岡という場所柄、難しいのもわかります。だから『Click Coffee Works』の活動を通じて、“コーヒーラバー”を増やしコーヒーにかける経済循環を活発にし、福岡のコーヒー界を牽引していってくれるような人材がどんどん出てきてくれたらなと思っています。
—これから福岡にはどういうコーヒー屋さんが増えていってほしいですか?
やっぱり東京と比べると人口が少ない分、ニッチなことや尖ったことをしてしまうと、採算をとるのが難しくなってしまうところがあると思うんです。お店づくりも、メニューも大衆性を意識せざるを得ないというか…。そうではなく、お店に一歩足を踏み入れると「わお!」というサプライズがあるようなお店がもっと増えると、多様性が増してコーヒー業界だけではなく街全体がおもしろくなるんじゃないかなって思うんですよね。もちろん、なかなか難しいのは承知です。だからこそ、人口が少ない分『Click Coffee Works』の活動の中で“コーヒーラバー”の人口をウンと増やせるように頑張りたいですね。そうすれば、コーヒー屋さん自身がいいと思うことにもっとチャレンジしやすくなるんじゃないかなって。
—これから福岡のコーヒー業界はどうなっていくと思いますか?
ん〜正直わからないですが(笑)、私的には明確な目標はあります。2020年までにコーヒーを目的に人が集まるような街にしたいと思っています。…というか、絶対にします!そのために必要な資本や人材も、福岡のコーヒー業界と結び付けられるような動きをもっとやっていきたいと思っています。「コーヒーが持つ底力を見とれよ〜!」っていう感じですね(笑)。
(取材協力:manu coffee クジラ店)