【F-LIFE SHIFT story vol.08】糸島移住したIT社長が自治会の組長を経験。そこで感じたこととは。

「F-LIFE SHIFT story」は福岡に移住してきて暮らしや働き方、考え方などをシフトした人たち(先輩移住者)のストーリーを追った特集です。福岡に来て何が変わったのか、これから福岡で暮らしていきたい・変えていきたいという人たちの参考になればと思います。

福岡市に拠点を置きながら、SONYやキリンといった大手企業のCMや「ももいろクローバーZ」などアーティストのMVのCGを手がけている株式会社ランハンシャ。西日本エリアでいち早くプロジェクションマッピングを始めた会社としても注目されています。そんな同社を率いる社長の下田栄一さんは、4年前に福岡市から糸島市へ移住。今年度は、なんと移住4年目にして自治会の「組長」を務めたということで、地域のアレコレについて、本音で語ってもらいました。

−まずは下田さんの出身地とキャリアについて教えてください。

僕は福岡市中央区の平尾で生まれ育ちました。福岡大学の工学部で土木工学を学びつつ、アナログカメラにハマって。で、「アナログ感覚でCGを作ったら面白いかも」とひらめき、卒業後は東京の専門学校でCGを学びました。それから福岡に戻って、映像制作会社のVSQに入社したのが2003年。5年経験を積んだあと、上司と株式会社風車を立ち上げ、さらに2013年に株式会社ランハンシャを設立しました。

※同社がCGを手がけた作品(ももいろクローバーZ マホロバケーション MV)

−会社設立と同じ頃、糸島に移住されたそうですね。何がきっかけだったのでしょう?

もともと田舎暮らしをしたいと思ってました。結婚後も中央区に住んでいたけど、子どもができてから、自然豊かな地で暮らしたいという思いが強くなり、移住先を探し始めました。糸島は人気だから、ミーハーすぎかなと避けるつもりでしたが…移住者など面白い人が集まっていて、いいお店もいっぱいあって、オシャレで、山も海もあって、というバランスを考えて各地と検討した中で、結局はミーハー糸島に決めました(笑)。
でも、ずっと糸島に住むという重い覚悟とかは特に考えずに移住しました。今も賃貸に住んでいます。

−今は移住して4年目で、今年度は自治会の組長をされたとか。

はい。糸島市には163の行政区があります。組合は28世帯で、組長が順番に回ってくるわけです。僕は移住から4年目にたまたま組長が回ってきて、組長が何するのか全く知らなかったけど、僕は積極的で面白そうだなと思うクセがあって流れで引き受けました。でもこの感覚は移住者には必要なことかもしれないですね。

−組ではどんな活動があるのでしょう?

まず月1回の集金日があって、誰かの家で組長がお金を集めて、顔を合わせて情報を伝える。月1,560円で、内訳は組費、区費、育成会費です。そのお金で地域の行事などをするのですが、代表的なのは運動会と花見、草刈、神社の清掃、総会かな。行事によっては参加しなかったら出不足金を払わないといけません。
ベースとして、僕の組合では情報伝達は回覧板と全28世帯へ自宅電話です。年配の方が多く、携帯やメールを導入しようという発想はフィットしないんですよね。だから、28世帯の自宅電話につながるまでかけます。あと、組長の仕事として、月2回発行の市政だよりを全世帯に配る。1時間くらいかかりますね。

−なるほど、結構ハードそうですね。世帯数によっても組長の負担が違いそうですね。

そうですね。うちの28世帯は行政区の中でかなり大きい方です。しかも僕はちょうど、4年に1度の神社担当が当たったんです。しめ縄を作り、そのときに炊き出しもすると聞いて、分からないことだらけ。ただ、しめ縄もやらされていると考えるか、しめ縄ワークショップと考えるか。実はとても良い行事なんじゃないかと考えるようにしました。考え方だと思います。

−えっ、しめ縄を作るのですか!?

作りましたね。そこでもエピソードがあって、僕ともう一人で隣の組の組長が担当になったんですが、しめ繩は稲を刈るところからなんです。
まず、「どこどこおじちゃんの田んぼに行って」みたいな話から、それは誰?どこ?からはじまります。
それで場所がわかったら28軒に慌てて電話で伝達して、当日田んぼに行ったら「刈っとったけん」ってもう終わってるみたいな(笑)。
次は、公民館に藁を運んで、乾燥させるために朝と晩にシャッターを開け閉めしないといけないと。でも僕は仕事で家にいないけど…と心の中で叫んでいたら、前の組長が「しとくよ!」と言ってくれて助かったんですが、僕の理解力が乏しいせいか、こんな感じにミッションは突然やってくるんです(笑)。

−このお話だけ聞いていると本当大変そうですね。組長をやってよかったこととかありますか?

最高なことももちろんありますよ。炊き出しでは、自宅でとれた無農薬の野菜なんかを持ち寄ってきてくれて、公民館でおばちゃんたちがバーッと炊き出しして、鶏の内臓もうまく料理してくれて、みんなで飲みながら食うと、めっちゃうまいんですよ。地域の人たちと公民館で料理して飯食って飲むという行為は、まさにプライスレス。これが田舎に住む付加価値だなと思いましたね。
もっと根本のところでは、組長をしたことで地域の成り立ちがわかった感じがします。上から下にどのように情報を伝達して統率してきたのかとか。あと、神社はおそらく地域をまとめるシンボルで、地域からお金を出し合い、清掃して、集まりごとがあって、地域のことは自分たちでやる習慣がついている。ストレスはかかるけど、そのおかげで結びつきが強くなる。組長をしたことで、それが自分ごとになったのはよかったと思います。

−ご家族は糸島移住後どうですか?

子どもは神社やポストインについて来ますよ。子どもの記憶には何となく残っていくのかな。家族で地域に関わるので、近所の皆さんもみんな顔見知り。夫婦はどちらかが社交的で出て行ければ、それでいいと思います。夫婦ともそういうのが苦手な人は、住む地域を選んだ方が良いかもしれません。地域によって関わる頻度が違うので、うまく選べると良いですが、一度賃貸などで住んで見て自分の地域や他の地域がわかった上で腰を据えるのも良いのかもですね。

−下田さんが組長になって変えたことはありますか?

変えたというより、みんなの総会で集金が月1回だったのが3ヶ月に1回になりました。あと、提案はしてないけど、今は持ち回りの組長を立候補制にするのも良いのじゃないかと思っています。
組合からの給与も作業内容考えて現在より高く設定するなど、組長のストレスを軽減できたら立候補なども出てくるのかなあと思いました。

僕が新たにチャレンジしたことと言えば、最後の3月の総会。例年はバスで温泉とかに行くのに、今年は公民館にシェフを呼んで洋食の会にしました。「普段パスタとか食べんけど、食べてみよー」と言ってくれたり、入れ歯で頑張って肉を噛んでいたり(笑)。
僕の独りよがりかもしれないけど、組合の中では一番若かったので、若者らしく、一つぐらいは新しい新鮮なことをやってみたかったんですよ。自分が楽しめるかというところで考えると、僕は総合的に楽しかった。大変なことも多いけど、すごく面白かったですよ。
地域のことはそうそう変えられない。変えないと成り立たない部分はあるけど、ある程度自然の流れで。代々やってるのに「こうでなければならない」とか提案するのは違うのかなあと。「自分はこうしたら楽しいし、みんなにも楽しんでもらえるではないかと思うことを、自分でやります」ならチャレンジしてみてもよいのかも。やって怒られたら素直に謝れば、溝はできるかもだけど、ちょっとずつ仲間に入れてもらえるのかなあと感じます。

糸島に住む九州大学の坂口教授が「新参者の使命はジモト・リテラシーを磨いていって、地域に少しずつ新しい空気を呼び込むこと。おっちゃんやおばちゃんたちの表情や息づかいに触れながら、さっと全体像をつかみ、場と空気を読みながら、あくまでボケの役割を演じていく。これが隣組社会での新参者の作法」と言われてた。まさにその通りだと思います。

−糸島には移住者が多いと聞きます。皆さんとの関わりはどうでしょう?

移住者は多いですよ。東京から移住した福島さんという方が前原で月1回『いと会』という飲み会をしていて、それに行き出して知り合いがすごく増えました。クリエイターをはじめいろいろな人がいますが、共通しているのはエネルギッシュなこと。そして、自然や子育て、自分のペースで働きたいみたいな方向性が同じで、なんか安心感がある。

そこで出会った人たちと飲みながら“映画館っていいよね”という話になり、糸島には映画館がないから野外映画祭をやろうと盛り上がり、2017年5月に第1回目が実現。今年3月に第3回目を開催しました。移住者でバリバリやってた優秀な人がそれぞれのスキルを持ち寄り、音響は地元の音響マニアのおじいちゃんにお願いしています。ここで育つ子どもたちが、自分のまちで映画祭があって、糸島の星空の中でみんなで観たよね、って大人になっても記憶に残っていたらいいなと思っています。

−これからやっていきたいことはありますか?

文化的な活動をやってみたい。自分は全く文化的でないけど(笑)。いとシネマはまさにその核になるのかなあ。
その他には、まだ具体的には言えないのですが、前原商店街でちょっとあることを考えてます。前原商店街はかつてすごく賑わいのある商店街だったらしいけど、昼間の人口が少なく、シャッターが降りている店ばかり。
でもよく見てみると、駅から近く糸島の中の一等地であるのにも関わらず、家賃が安い。福岡市内から来るにしても電車は逆方向なので混んでない。駅周辺の食のバラエティと豊かさは圧倒的だと思います。古くからある宿場町なので、街の匂い、歴史を感じますよね。風土がきちんと息づいている街というか。
海山ばかりに目が行きがちな糸島ですが、個人的に次に面白くなるのはまち部だと思っています。人がクロスするのはやっぱりまちで、何か起こるのはコミュニケーションのある飲みなどの席だから、まち部を盛り上げて、いろんな人がつながり合い、その中で新たな文化的活動を生み出していきたい。
これから育つ次世代の子供たちが成長とともに糸島を離れる子もいるかもしれないけど、また戻ってきたいと思った時の糸島は世界的に見ても注目が集まる街になってるのじゃないかなとぼんやり想像してます。そのためには戻ってきたいと思えるまちにしなきゃいけないし、今とはまた違う選択肢がある働ける場所があると良いのかなと思う。自然と融合した生活をしながらまち部働けて飲めて人が結びつくバランスが取れた美しい街になることを期待してます。その何かの一つを作ることに関われたらおもろいだろうなあというのが今考えていることです。

−なるほど。最後に、移住を検討している人にメッセージをお願いします。

興味があるなら、とりあえず来てみたらいいと思います。糸島市の中でも地域によってカラーがあるから、お試しで住んでみて地域の特性をつかんでいけばいいんじゃないかなと思います。今の地域が合わないと思ったら、よくないことかもですが、気軽に引越せるのが移住者の強みかもですね。(笑)とりあえずは入って経験してみるだけのことかなと思います。

【株式会社ランハンシャ】
http://run-hun.co.jp
福岡県福岡市中央区港3-4-25 九産西ビル3F

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