【移住ドラフト会議レポート】ドラフト会議にみる、これからの地方との関わり方。

移住に対する違和感

「移住って何なんだ?」

地方創生の名の下に移住ブームに拍車がかかった昨今。それ以前から私たちも「◯◯移住計画」として活動していますが、いまの「移住ブーム」には若干の違和感を覚えている。

東京ではこの手のイベントが乱発、すでに飽和状態にある。
“自然が豊かで” “食べ物が美味しくて” “人が優しくて” “物価が安くて” といった決まり文句のような、どの地域も代わり映えしないPR。

これらは事実メリットであると同時に、東京と比べるとどの地域も大体同じことが言える。さらに、どこか表面的でこれから移住したい人の真を捉えていない気もする。

また、背景に見えるのは“人口の奪い合い要素”と、変に “地元住民<移住者という構図” が生まれていること。
これらの部分にずっと違和感があった。

そんな中、全国に広がっていった「◯◯移住計画」のメンバーが福岡県糸島市の『RISE UP KEYA(運営:福岡移住計画)』に集まり合宿を行ったのは今年1月のこと。
移住計画は各地で運営母体が異なることから、その取り組みも様々でそれぞれの特色を出しながら活動している。この合宿では移住計画の価値観や在り方についてディスカッションが行われた。

そのレポートは『greenz.jp』さんに取材いただいているので、こちらをご覧いただきたい。

この合宿で確認された「生きたい場所で生きる人の旗印へ」というコンセプト。

私たち「◯◯移住計画」は、このネーミングから絶対に移住させる団体、県外に流出させない、定住させる団体と思われることが多い。

しかし実際は、移住を含め、個々人が主体的に自分ごと化して、好きに選択できて生きたい場所で暮らしていける、その一歩を踏み出すきっかけづくりや応援をする組織です。
私たちが“地域を変える”とか偉そうなことは言いません。個々人が活き活きと暮らしていくことが結果で地域にとっても良いことだと考えています。

移住しなくてもいい

この糸島での合宿がきっかけで、私たちの価値観を表現すること、個々人を応援するきっかけづくりとして、移住計画全体でやってみたいと案が挙がったのが、これからレポートする「みんなの移住ドラフト会議 ALL STAR GAME 2017」だ。
「移住ドラフト会議」自体は鹿児島移住計画が発案し、過去2回鹿児島県内を対象に開催していたが今回はそれの全国版となる。

●移住ドラフト会議とは?
近い将来移住を希望する「希望移住地」と移住者受け入れに積極的な「地域コミュニティ」とのマッチングシステムです。ドラフトに参加する各地域では、わが町に欲しい移住希望者をドラフト対象として指名し、ドラフト指名が成立すれば、指名した地域との1年間の独占交渉権が与えられるとともに、該当地域の特産品が送られる。このイベントの前提として“移住はしなくてもいい”としている。

イベントは結果から言うと“大成功”というより“楽しかった”という言葉がしっくりくるかもしれない。

「移住ドラフト会議」は“壮大なコント”と銘打っており、さらには“移住しなくてもいい”としている。
「どこに住みたい?」よりも「だれとなにをしたい?」を起点に地域との関わりの選択肢を広げることを目的に、地元だから、ヨソモノだからという境界線を越えた新しいコミュニティづくりの場である。

この辺りの想いについては、8月に東京で開催したイベントレポートとして京都移住計画が2本にわけてまとめてくれています。
みんなの移住計画キックオフ(前編)
みんなの移住計画キックオフ(後編

「みんなの移住ドラフト会議 ALL STAR GAME 2017」は11月25日の前夜祭と26日の指名会議本番の2日間にわたって開催された。

25日の前夜祭は、福岡移住計画が運営に関わっている東京八重洲の『ダイアゴナルラン トウキョウ』で開催され、鹿児島移住計画の安藤さん、佐賀移住計画の東さんを進行にスタート。

※佐賀移住計画/東さん(左)、鹿児島移住計画/安藤さん(右)

移住したい人(選手)と選手を指名する12の地域コミュニティ(球団)の2グループにわかれ、立候補した48選手が2分間の自己プレゼンが行われた。

▽12の地域コミュニティ(球団)
・Sustainable Commons“石狩族”(北海道石狩市)
・南部鉄器青年団(岩手県盛岡市)
・LODEC JAPAN(長野県大町市)
・美山エコツーリズム推進協議会(京都府南丹市)
・山と温泉(奈良県天川村)
・21Cの暮らし方研究所(山口県阿武町)
・いいかねPalette(福岡県田川市)
・べっぷいい十湯〜隊(大分県別府市)
・アサッテの未来(熊本県菊池市)
・日南市ローカルベンチャー推進事務局(宮崎県日南市)
・頴娃町おこそ会(鹿児島県頴娃町)
・コザマシンガンズ(沖縄県沖縄市コザ)


合間には球団のトークショーも行われ、前日までに事前共有されていた選手のエントリーシートと実際のプレゼンを見て迷いが出てきている球団や確信へつながったなどリアルな意見が飛び交った。

プレゼンが終わる度に、どの球団も真剣に協議をはじめる風景も印象的であった。

最後には『Coffee & Cozy TiNiES』さんによるケータリングと全国各地の球団のご当地のお酒や食べ物を振る舞う交流会が開催され、プレゼンを見て気になった選手へ積極的に話を聞く球団の皆さんや、逆指名的に球団に売り込む姿などが見られた。

前夜祭を終えて、選手と球団の方にお話を伺ってみると、

選手A:「ドキドキしました。もともと地方には関わってみたいと思っていたので、どの地域(球団)に指名いただいても、そこで自分なりにできることを精一杯やりたいと思います」

選手B:「最初はどの地域(球団)もとても魅力的なので、どこに指名いただいてもいいと思っていました。だけどもともと九州出身なので、九州はいいなと思いました」

選手C:「指名されなくても、面白い地域(球団)ばかりなので、これをきっかけに行ってみたくなりましたね」

奈良:「1位指名は決めました。プレゼンを聞いて、そして実際話してみてこの方ならという方に出会えました。明日はなんとしても獲得したいですね」

別府:「皆さんのプレゼンがすごいなと思っていて、明日指名するのが心苦しいんですが、これをきっかけに来たい人はみんな来て欲しいですね。皆さんを案内して別府のファンをつくりたいなと思います」

象徴的なのは、選手はエリアを重視しているというより、自分自身が だれとどこでどう活動できるかを考え、球団側(地域)も“人を主体として”考えているということだった。

ここからはじまる新たな関わり

そしていよいよ指名会議当日。
会場は『大和ハウス工業』さんの東京本社をお借りして、本場野球のドラフト会議同様にパーティ仕様の会場と埼玉西武ライオンズのMC等をされている久米さんに司会をお願いし、「◯◯移住計画」発祥の京都移住計画の代表田村さんの挨拶を皮切りに緊張感に包まれた雰囲気ではじまった。


“必ずしも移住しなくていい、壮大なコントです”。とお伝えしつつも、どこかに個人名で指名されるというなかなか無い経験、ワクワクとドキドキが入り混じった選手と球団の方の表情は新鮮で素直であった。

※球団席


※選手席

そしてはじまる第一巡指名のとき。

12球団の投票を終え、次々に候補者の名前が呼ばれていく。
様々な個性のある選手と、球団によって取り組みや欲しい人材像が異なることから、指名が被ることなく順当に指名選手が決まっていく。

しかし最後から2番目の鹿児島の開票が読み上げられた瞬間、会場内は「おぉー!」という歓声が響き渡った。札幌と鹿児島の指名選手が重複した。

重複した場合は、本場のドラフト会議同様に抽選が行われる。


※札幌と鹿児島が重複し抽選。


交渉権を獲得したのは鹿児島。
獲得した喜びは写真の表情を見ていただければわかっていただけると思う。

そして2巡目、3巡目も重複がおこる。

その度に程よい緊張感と歓声がこだまする。

抽選する球団にとっては絶対欲しい人材。本気の願掛け。

※岩手と福岡が重複


※獲得したのは岩手、外れた福岡。
(ちなみに抽選で外れたら本当に悔しいらしい)

獲得したかった選手を逃し、再度選考に悩む球団の皆さんは真剣そのもの。

そしてこの日一番の盛り上がりを見せたのは4巡目指名のとき。
なんと5球団が重複であった。

結果引き当てたのは信州。

(引き当てた瞬間はめちゃくちゃ気持ちいらしい)

4巡目を終え指名会議が無事終了。
その後は入団会見のように該当地域特産品の贈呈会が行われた。
地域の特産品や宿泊券、往復の航空券、他球団の景品の豪華さに急遽ディズニシーのチケットを渡すなど、盛り上がりの熱は冷めない。


そして、すべての工程を終えた段階で選手と球団に改めてお話を伺った。

選手A:「奈良に指名していただきましたー。もともと緩やかにいいなと思っていたんですけど、お話した時も目指していきたいところとかすごく共感できたので、ご縁をいただいて率直に嬉しいなと思います。自分が大阪に住んでいて近いというのもあるので、今後どういうカタチで関わっていけるかはこれからですが、まず現地へ行ってみて決めて行けたらいいなと思っています」

選手B:「私は正直指名されないだろうなと軽い気持ちでいたんですけど、やっぱり名前を呼んでいただいてご縁ができるのはすごく嬉しいもので、今後また岩手のこと知ったり関係性を深めていければと思います。
観光では何度か行って素敵な場所というのは知っているので、そういうところを広めていければと思いますが、でもあんまり深く考えすぎないでいきたいと思います」

宮崎:「めちゃめちゃ面白い!楽しいし、まず普段出会わない層もライトな移住層もディープな移住層も幅広くありながら世代が若いのが良かった。今回は4指名とも理想通り獲得できました。このあとの選手との関係性は、このあとすぐ飲み会がはじまります(笑)。さらに定期的に東京でイベントを開催もするので、そこで現地日南のメンバーと一緒に企画を考えたり、できればいろんな地域に一緒に行って、私たちの町がどんな町かを発信していきたいですね」

信州:「全48選手が主役なイベントだなと思いました。選手は想いを持ってこれから行動していこうとプレゼンをしてきれたじゃないですか、なのであえてこちらからは強制でこういうことをしてくれというのではなく、この偶然のご縁から何が生まれるのかを楽しみにしていたいなと思います」

奈良:「楽しかったですね。それに尽きるかと。選手にはまず天川に遊びに来てもらって、よく遊びにいくところ(=天川)にしてもらいたいなと思います。そこから関わっていくなかで関係性を濃くしていければと思います」

その後、選手と球団は自然発生的に地域ごとの懇親会へと移動していった。

※運営と京都と信州が同じ懇親会会場に。のちに日南も合流する。

“来てきて”と抽象的なPRをしても人はこない。個々人が主体的にどこでだれと何をしたいのか、地域側も個人を尊重しながら一緒に何ができるのかを、まずは対等な関係を持ちながらはじめていく。
高齢化が進む地域に若者が移住してくれるのは地域として大歓迎だろう。しかし地元住民<移住者(この逆も然り)という構図が出来てしまってはいけない。

・移住させるという“奪い合い”ではなく関係値を高めていく。
・地元住民<移住者ではなく、地元住民=移住者の姿勢。

小さい関係性からはじめて徐々に好きになれば移住をすればいい。
合わなければまた別の地域へ移ってもいい。
そういう自由な選択肢を増やし、地域側もそれを受け入れ柔軟に対応できる姿勢ができれば、奪い合いや過度な期待や地元と移住者の隔たりはなくなってくると思う。

「◯◯移住計画」はオフィシャルなもので全国17地域に広がっています。
それらはそれぞれその地に特化したコミュニティの入り口になっています。

気になる地域があれば訪ねてみてはいかがでしょう。きっと“何かしらの”得られるものがあると思います。

開催後間もないですが、すでに現地ツアーを組んでいる地域もあり、この「移住ドラフト会議」により地域へ一歩を踏み出すきっかけができたと思う。

コンセプトは「生きたい場所で生きる人の旗印へ」。
私たちは個々人と地域を応援するコミュニティの入り口の一つです。

※イベントの建付け上、選手を指名することで“奪い合い”になっていますが、これは壮大なコントです。移住はしなくてもいい。地域との関係性をつくるきっかけの一つです。
(text:窪田 司/福岡移住計画、photo:谷口 千博)

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