【ぼくらが連れて行きたい店vol.28 】看板メニューは全て!貫く信念と尽きない好奇心が生む自己流の場。(六本松酒場 竜馬)

魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。

試練でも貫くもの

大手テナントが次々と入居して華々しく誕生した『六本松421』。周辺ではまだまだ道路拡張や新ビル建設が続いている中、高層マンションの狭間で赤い暖簾を揺らす、間口ひとつの小さな居酒屋があります。もともと飲食店が多く入れ替わりが激しい六本松の地で12年間、変わりゆく景色を眺めながらあくまで自己流を貫き、ひとり信念を持って厨房に立ち続ける『六本松酒場 竜馬』店主の庄司さんにお話を伺いました。

※『六本松421』前の広場から直線で竜馬の赤い暖簾がみえる。

−話題の『六本松421』が道路を挟んですぐ目の前で、周りも高層マンションに囲まれていますが、小道の脇に移転してきた旧制福岡高等学校のシンボル像や、陸軍墓地の石碑。竜馬の赤い暖簾と共に妙にノスタルジックな雰囲気も醸し出していて、ここだけ時間が止まっているような感じもしますね(笑)。実際のところ、影響はどうですか?

「あきらかに人は増えた感じもしますし、通りは賑やかになりましたよ。ただ、こちらに流れてくるかといえば、、正直いって今、私にとってはかなりの試練。踏ん張りどきです。とはいえ、これに便乗して派手な宣伝や過剰なサービスを売りにはしたくないんですよね。あくまでこれまで通りにお客さんに美味しいと思っていただけるものを丁寧に仕込み、料理をし、ここで飲む酒を喜びとしてもらえるようがんばるだけだと思っています」

※九州大学の前身である旧制福岡高等学校のシンボル像がすぐ近くに移設された。


※開店準備をする店主の庄司さん・カウンター9席と奥に小上がりの座敷がある。

−たしかに新しくできたお店はそれだけでワクワク行ってみたくなりますが、これだけ選択肢が増えるとその魅力を伝えるためにどんな手段をとるかということも大事になってきますよね。そういう意味では『竜馬』はとにかくこれまで支えてくれた常連さんをより大切にするということでしょうか。できたと思ったらすぐなくなってしまうお店も多いなかで、12年続いていらっしゃるのはすごいですよね。

「もともと私は大手外食チェーンの会社で接客の仕事を長くしていたのですが、いつかは自分の店を持ちたいと夢見ていて、実家は南区なんですけど、たまたま六本松にカウンターを中心とした程よい大きさの今の物件に出会ったんです。 その時はまだ九州大学は閉校になっていなくて、さまざまな専門家の方、芸術関係やメディアの方なども多く常連さんになってくださいました」

※刺身は旬の魚を一番美味しい状態で上品に盛る 刺身盛り合わせ(時価)

「地方の珍しい食材や酒のことや、“もっとこんな味付けにしたら?”“こんな料理を食べてみたい”と、いろいろな情報やリクエストもくださって、まさにお客さんに育てられました。 食に関して好奇心が尽きることがないです。凝り性な私は、それならと片っ端からいろいろとメニューに取り入れてきました。それでどんどん看板メニューが増えていったんです。どれも中途半端ではなく材料や調理法にこだわり思い入れがあるものばかりなんですが、あまりにもメニューが多すぎて店としての特徴が出にくくなっていますかね?(笑)」

※庄司さんが今一番力を入れている手打蕎麦 ・シメの盛りそば。

※和食中心かと思いきや、ワインやパンに合う洋食メニューも。ポテトとゴルゴンゾーラのグラタン。

−たしかに!隠れ家的な小さな酒場の割には、焼き鳥にお刺身に揚げ物にもつ鍋に手打ち蕎麦まで!和洋折衷、一品料理もいろいろですよね。メニューだけ聞くとチェーンの居酒屋さんみたいですが、実はなんでも美味しくって、丁寧に手作りされている。お一人の厨房でここまで多彩なお品書きがあるということ自体が大きなウリではないでしょうか。たしか塩麹ブームの前から、いち早く塩麹料理も出されていましたよね。

「ありがとうございます!塩麹については、たまたまお客さんに食に詳しい新聞社の方がいらして、調味料としての塩麹を世に広めた方にお引き合わせいただいたのがきっかけです。麹を利用した自家製調味料は今も大変重宝していて、小売もやっています。
凝り性というか探究心というところでは、開店前の勉強にと食べ歩きをしていた時、久留米にある老舗の焼き鳥屋さんが出す骨つきカルビの味にハマってしまいました。弟子にしてもらえませんかと頼み込んだのですが叶わず、とにかく何度何度も通ってタレの味や焼き加減を再現できるよう研究しました。この骨つきカルビこそ私の初心を表す一品です」

※研究に研究を重ねた竜馬の看板メニュー第1号。豚の骨つきカルビは病みつきになる味。

「小さな店ですが、とにかくお客さんにここでしか味わえないような感動を届けられたらという一心で手は抜いていないつもりです。今の時期ですと、北陸地方では冬の珍味として知られている「香箱蟹」を解禁と同時に金沢から直送で仕入れます。鮮やかなオレンジ色の卵が詰まった雌のズワイガニで甲羅に身と共に食べやすく盛り付けてお出しするのですが、福岡で手軽に存分に味わえる店はうちだけしかないのではと自負しています」

※毎年11月の解禁日より北陸から仕入れる旬の香箱蟹。

「北陸の地酒も多く取り揃えていますし、酒のアテとして最高に後味がよい自家製のカラスミも自慢のひとつです。一ヶ月かけてじっくりと熟成します。“一度食べたら忘れられない味”と、完成を心待ちにしてくださっているお客さんも多くいらっしゃるんですよ。そういった感動が口から口へと広がっていけばというのが一番の理想です。 時代の流れで両隣の店もなくなりましたが、あと2年で50歳になりますので、今ここで精一杯できることを、初心を思い出しながらやれるところまでやりたいと思っています」

※竜馬自家製のカラスミも多くのファンが完成を待ちわびている。

わざわざ訪ねて損はなし、ここでしか味わえない感動が詰まっています。店主の想いとともに至極の料理とお酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。

【六本松酒場 竜馬】
福岡県福岡市中央区六本松4-1-9
TEL:092-771-5018
営業時間:17時〜23時(L.O.22時30分)
定休日:日曜日

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