商品やサービス自体は知っているけれども、どこのどういう会社が手がけているものだろう?
ふと、そう思ったことはないだろうか。このコーナーはそんな会社の中身を見学・取材させていただくことで、福岡県内の素敵な会社の本質を紹介していくものです。
この秋、福岡で最も注目を集めている『六本松421』。福岡市科学館や蔦屋書店などが入る話題のビルは、1階の正面玄関を入ると、ひときわ凛と美しい店構えの「善太郎商店」が目をひきます。ここは、福岡の老舗菓子屋・石村萬盛堂が手がける、新ブランドのショップ。優しい光に照らされた、まるで舞台のようなガラスケースをのぞくと、季節感あふれる和菓子たちが出番を待っていました。
この7月、4代目の代表取締役社長に就任したばかりの石村善之亮さんと、取締役副社長・営業本部長の石村慎悟さんに、善太郎商店にかける思いを伺いました。おふたりは、創業家に生まれたご兄弟。ふたりそろってメディアに登場するのは、実は今回が初めてとのこと。善之亮さん曰く「副社長(弟)は熱くて勢いがあり、私は冷静なタイプ」とのこと。この日の取材も息ぴったりでした。
※善之亮さん(左)、慎悟さん(右)
−石村萬盛堂は、明治38年に博多で、石村善太郎さんが和菓子屋の暖簾を掲げたのが始まりですね。「鶴乃子」をはじめ、オリジナリティあふれる和洋菓子は多くの人に愛され、ホワイトデーを発案して全国に広めたことでも知られています。今回、『六本松421』へ出店されることになった経緯を教えてください。
慎悟さん:3年ほど前、この地に新しい“まち”が生まれると聞き、ぜひ出店したいとアプローチしました。六本松は中央区と城南区の境目でいろいろな人が交わるところですし、建物は福岡市のランドマークになると感じたので。それに、私は大濠高校出身なので(笑)、六本松はなじみがあるんです。
−思い出の地なんですね。きっと出店希望が殺到する中で、御社が選ばれたのだと思います。今回、「善太郎商店」という新しいブランドのお店を立ち上げた理由はどういったものだったのでしょうか?
慎悟さん:出店にあたり、JRさんから「これまでと違うことをしてほしい」と言われたんです。プロジェクトチームで議論を重ねた結果、“原点回帰”がコンセプトになりました。
−だから、創業者である善太郎さんの名を入れた「善太郎商店」にされたのですね。
慎悟さん:そうですね、会長(父)からは「自分はようしきらん」と驚かれたんですけどね(笑)。
−そうだったんですね(笑)。善太郎さんはおふたりの曾祖父ですね。
善之亮さん:はい、会ったことはないのですが、親戚はみんな「おじいちゃん」と呼び、エピソードをよく聞いて育ちました。おじいちゃんは、地元・博多の人々を想い、地元の人が誇れるお土産として「鶴乃子」を生み出したとか。それから当社は初代・善太郎の教えの通り、伝統と独創性を大切にしながら、「守破離」を理念として、常に革新を続けてきました。この姿勢こそ、当社が100年以上続いてきた理由だと考えています。
ですから、今回の新ブランド立ち上げも、当社の強みを生かし、当社らしさを出せるチャンスだと思いました。
−善太郎さんが遺された教えで、特に印象に残っているものは?
おふたり:うーん、いろいろありますね。
善之亮さん:「人が角いものを作るなら、こちらは丸いものを作れ」でしょうか。初代が商品づくりの信条とした「独創」が、端的に表れている言葉だと思います。
慎悟さん:そうですね。
−新ブランドの立ち上げで、一番苦労されたのはどんなところでしょう。
善之亮さん:商品開発ですね。半年以上かけて試行錯誤を重ね、新しい生菓子を生み出しました。とにかく作って試食して改良して…。ただ美しいとか奇をてらうとかではなく、やはり長くお客様に愛されるものにしたかったんです。今はここでしか買えない生菓子が、常時10種類ほど店頭に並んでいます。毎朝心をこめて作ったものをお出ししています。あとは定番のお土産菓子も置いています。
善之亮さん:生菓子では、特に「善太郎好み 塩豆大福」(130円)が人気で、おかげさまで1日に数百個売れています。もっちりとした食感の「どらもち」(150円)も好評。「どらもち」のラムレーズンは、ロングセラーの洋菓子・シャンデレザンからヒントを得ました。「和魂洋才」や「和洋折衷」は創業時からの伝統かもしれませんね。
また、善太郎商店では、ガラスケース越しに従業員が注文を承り、箱に詰めてお渡しします。その、ちょっと丁寧なひと手間も大事なこだわりです。
−9月26日のオープンから、頻繁にお店の様子を見に来られているそうですね。今、感じられていることや、これからの目標を教えてください。
慎悟さん:地元の方に愛されるお店に育てていきたいと思っています。ありがたいことに、すでにリピーターさんもいらっしゃるようです。和菓子のよさは、季節の移り変わりを感じられること。気軽にお越しいただいて、おひとつからでも、日々のお菓子・おやつとしてご購入いただけるとうれしいです。
善之亮さん:お客さまが並んでくださっているのを見ると、本当にありがたい。当社は地元の素材にこだわり、安心安全なお菓子をまっすぐにお届けしています。今の若い人たちは、和菓子を食べる機会が減っているようですが、和菓子は健康によくて、食べるとおいしさをわかっていただけるはず。店頭には試食もありますので、ぜひお試しください。
−ちなみに、善太郎商店さんのホームページは、当社が制作を担当させていただきました。こだわったポイントがあれば、教えてください。
慎悟さん:シンプルな作りにしています。たくさん要望を出したのに、全てきれいにまとめてくださって、すごいと感じました。当初は新しいブランドイメージを打ち出すつもりでしたが、「店舗の古い写真を入れましょう」などと提案され、社内にいると見えない当社のよさを引き出して、形にしてもらいました。
ホームページにある写真の木型は、100年ほど前に実際に使っていた和菓子の木型なんです。いい状態で保存していたのでまだ使えるらしく、この木型を利用して『六本松421』でワークショップができれば、というアイデアもあります。
※善太郎商店HP
善之亮さん:初代・善太郎おじいちゃんの名に恥じぬように、この店から新しいものを生み出し、これからもいろいろなことに挑戦していきます。
(文:佐々木恵美)
【善太郎商店】
https://zentaro-shoten.jp/
住所:福岡市中央区六本松4-2-1 六本松マルシェ1階
TEL:092-406-4038
営業時間:10:00〜20:00