【暮らしのたねvol.02】暮らしの道具を作る。つきあう、育つ、変わっていく。(僕がはじめるちいさな木工所jingoro)

「暮らしのたね」は日常生活に一つ加えることで、ちょっぴり気持ちが豊かになるモノ・コトに関わる背景ストーリーを紹介していくものです。その地に根ざしたその地らしいストーリーをご覧いただくことで、福岡で暮らす上での何かしらの気づきやヒントになれればと思います。

できることから自分で

うきは市吉井町。福岡都心部から車でおよそ1時間のこの町に、木工作家・山口和宏さんの『ちいさな木工所jingoro』があります。北九州出身でいくつかの職を経験したのち、木工で生きていく事を決めて独立、吉井町に自宅兼仕事場を構えた山口さん。今までのこと、そしてこれからのことをうかがいたくて、会いに行きました。

室内に入り、まず目に飛び込んできたのは制作途中の椅子、そしてトレーやカッティングボード、器たち。桜、栗、ウォールナット、なら、くるみ・・・色々な種類の木が使われています。いずれも、シンプルだけれどあたたかで、どこかなつかしい雰囲気をまとっていて、穏やかにゆっくりと話すご本人の印象と重なります。

−今日は、山口さんの「暮らしと仕事」についてお話をうかがいたいと思います。うきはに越してきた最初の頃、少し前はもっと山の方に住んでいたというお話をうかがったことがあります。その後、ここ吉井町を選ばれたのは、どんな理由からだったのでしょう?

和宏さん:「若い頃、人づきあいが苦手だったので“手に職を”と思い、家具作りの勉強をしたのが八女の星野村でした。20代後半かな。それから独立して自分で家具作りをしてみようと思って、まず借りたのが浮羽町の山奥の古い民家です。でも、そこは山奥なので普段の生活が大変でした。子どもが生まれるという事もあって、もっと暮らしやすいところはないかなぁと探していたら、柿畑だったこの場所をご紹介いただいて。ひらけていて日当たりも良いし、気持ち良かったのでここに決めました。1年近くかけて書類を整えて農地から宅地にして、最初に仕事場、次に自宅の順に建てました。2トン車を借りて、縁のあった星野村で材料を調達して、大工さんにも手を貸してもらいながら、自分で出来るところは自分でやりました。いやぁ、地目変更の手続き・・・あれが本当に大変でした」

−ご自分で出来るところはご自分で!何とも素敵ですね。地目変更は本当に大変そうですが。こちらで暮らすようになってから、どのようなものを作ってこられたのですか?

和宏さん:「最初は、家具作りから始めました。その当時は、民芸がブームだったので、漆で仕上げたりもしていたのですが、なかなか注文をいただけなくて。とは言え、ずっと待っていても仕方が無いので、天神で場所を借りて展示会をしたんです。運送会社にお願いして4トン車で運びました。何度か重ねていると、テーブルやベンチなどを購入して、応援して下さる方が増えてきて。珈琲美美さんにベンチを購入していただいたのも、この時期ですね」

和宏さん:「それで、独立してしばらくは家具作りを中心にやっていたのですが、家具はどうしても打合せや、図面のやりとりなどもしなければいけないので、段々としんどくなってきたんですね。丁度その頃、『四月の魚』さんが久留米から移転してきたんです。そこに置かれているフランスやどこかの古道具・・・大きな木のトレイや鉢、カッテイングボードが気になって。新しいものが入っていないか確かめるために、いつも見に行っていました。それから、気になったものを参考に、器や小物を作り始めました。自分が使いたくなる角度や厚みに少しずつ調整して、徐々に仕上げていく、自分のものにしていく、という感じです。そのあたりから家具の方も作りたいものが変わっていきました」

この町で考える次のこと

−なるほど。山口さんの器が持つあたたかな雰囲気の根っこは、古道具にあるんですね。ちなみに、お料理もお好きと伺ったのですが?

和宏さん:「妻が仕事柄(教職)朝早くて夕方遅いので、好き嫌いじゃなくて、僕が作らないといけなかったんです(笑)。子どももまだ小さい頃でしたし、料理をはじめた頃は手の込んだものは作れませんでした。とにかく食事を用意するだけで精一杯で。でも、今は楽しいです。
基本的に凝り性なんです。何かに凝り始めると、そればっかり。例えば、すはまっていう和菓子、あれに凝っていた頃なんて1カ月ずっと作り続けてました。なので、一生分をもう食べちゃてる気がします(笑)」

※娘の歩希子さん(右)

−まるで研究者のようですね。歩希子さんは、小さい頃から山口さんの椅子や器を使ってこられているわけですが、どのように感じてらっしゃいますか?
大学を卒業し、Uターンして夫・一城さんと共にお父さんと一緒にこの木工所で働いていることについても、良ければ教えて下さい。

歩希子さん:「小1の頃に父に作ってもらったチャーチチェアが、とても素敵に育っているんです。小さい頃は、この良さがわからず、みんなが使っているような椅子を欲しがっていたんですけど、今は大好きです。使ってからが勝負というか、出てくる味というか、それを伝える事が出来たらと思っています」

歩希子さん:「実はここの他に、『食と木』をテーマに、自分たちの作っているものを実際に使ってもらえる場所として、展示場兼カフェを作ろうという目標を立てて、図面も出てきました。山苞の道沿いで、来年6月スタート予定です。父も還暦を過ぎましたけど、60歳まではイントロ、これからが本番だよって言ってます。みんなで一緒に頑張ろうねって」

−わぁ、なんて素敵なお知らせ!山口さんも、作り手として、「使うことでわかる魅力を発信したい」というお気持ちですか?

和宏さん:「そうですね、木は使って汚れてから出てくる『味』がありますから。以前、スペインの巡礼の映画を見た事があったんです。その中で主人公たちが宿に泊まって、テーブルを囲むシーンが出てくるんです。卓上の道具がどれも汚れていて使い込まれている味があって、とても良かった。木も普段からつきあうと、育って、徐々に表情が変わっていきます。人間関係と一緒ですね。わざわざ『作品です』という感じで過保護にせず、木の経年変化を楽しんでほしいです」

裏には涼やかな森があり、庭では鳥や虫の音色が響く、自宅と『小さな木工所』。娘・歩希子さんとそのパートナー・一城さんも制作所の仲間に加わった山口さんの生活。うきは・吉井町から生まれる「使われて育つ、暮らしの道具」たち。もっと身近に感じる機会がもうすぐやってきます。心から楽しみです。

【僕がはじめるちいさな木工所jingoro】
http://mokkousyo.jp
福岡県うきは市吉井町福益296-1
TEL:0943-76-4302

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