魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。
『パーレンテッシ2.0(ドゥエ)』は、地下鉄室見駅にほど近いオーガニックイタリアンレストランです。東京の名店『パーレンテッシ』で17年シェフを務めたミシュランピブグルマンのシェフ中野秀明さんが福岡へ移住してオープンされました。今回はオープンしたばかりのお店でお話をお伺いしました。
−今年3月にオープンされて、私自身もファンになって何度も通うようになりましたが、この場所にお店をオープンしたきっかけは何ですか?
「1999年に東京で『パーレンテッシ』をオープンしました。2年ぐらい前からそろそろ東京ではないなと思い始めて、17年続けた東京・池尻大橋の店は一緒にやってきたシェフに任せて、福岡に移住。そしてたまたまご縁のあった物件でこの『パーレンテッシ2.0』を室見でオープンしました。
もともと、室見界隈で古くから有名だった『ヨットクラブ』というレストラン&バーの店舗を居抜きで使っています」
−東京のお店に続き、店名のパーレンテッシはお店のコンセプトにもつながっているのでしょうか?
「イタリア語で括弧という意味です。間という取り方もあります。“イタリアと日本の間に入りましょう”という意味を込めました。26歳の時に、海外から5年ぶりに東京に帰って来た人に“海外ってどんなところですか?”と聞いたら、“海外から日本を見ると、何も生まれない、何も育たない街に見える”という言葉が返ってきました。それがずっと印象に残っていて、何年か経ってわかったのが、中華、イタリアン、フレンチ…東京には何でもあって、もちろん東京でもピザは食べられるけれど、人件費や家賃が高い中で、仕方なく食材を妥協してチーズもトマトも安物でいいだろうとなってしまう。そうなると本場のナポリのピザとは全然違うものになります。結局、何も生まれないし何も育たないんです。日本でも良い食材を使っていったらナポリを越せるのに。
“何も生まれない、何も育たない街に見える”とその人が言ったのはこのことかとジレンマに陥って、29歳の時に“2年後に店を出すぞ、俺は絶対本物をやってやるぞ”と決めて31歳で独立しました」
「どこでも同じかもしれませんが、安ければお客様は来ます。でも俺の想いは、お客様に健康になってほしいし、お金をいただくのだから変なものは出したくない、美味しいと言ってほしいです。高いと言われると、使いたい食材は使わずにツーランク下の食材を使ったり、本当にやりたいことをやっている飲食店は少ないんじゃないかな。価格競争で、お客様はいっぱい入っていても、やりたいことできていないスタッフに笑顔がない。食べさせられている方はたまったもんじゃないですよね。美味しく味わいたいお客様が困っちゃう。東京パーレンテッシは、値段は高いけれど予約で埋まっていたのは、美味しさを求めるお客様達がまだいてくれたからです」
※東京のパーレンテッシはミシュランガイドにも掲載されている。
−ひとつひとつに妥協せずお客さんを想って料理を提供されているんですね。そんなお客さんと印象に残っているエピソードはありますか?
「お客様の子どもが来てくれたのがめちゃくちゃ嬉しかったです。独立した時に親方から“親子3代ご飯食べさせられたらそんな幸せなコック冥利につきることはないよ”と言われました。10年続けられれば3代に食べさせられるだろうと思ったけれど、それはすごく甘い考えで。親方が言ってくれたことは、長く続ければ良いんじゃなくて、“うわぁ、ここ美味い!次は旦那と子供を連れて来たい。その次は親を”と思うような、一番愛する人を連れて来たいと思う店にすることだったんだなと気づきました。“今度子どもを連れて来たいんだけどさ、連れて来ていいかな?このピザ絶対食べさせたい”と言われた時に、あぁ、これか!と。そう言ってもらえるようなお店をやりたいとなると変なものは出せないですね」
−食材にもこだわりを持たれていると思いますが、福岡の食材ですか?
「オーガニックや自然栽培のもので、できるだけ糸島のものを使おうと思っています。運営している『農業生産法人のすまいる農園』を中心に、『伊都彩菜』で販売されているものも使います。福岡は魚も野菜も食材が良くて安いですね。スーパーのイカが生きて売っていることに驚きました。欲しい材料がないなら自然栽培やオーガニックができる農家やお店と一緒になって作れたらとも思っています。西区下山門のパン工房『Nohmi』さんで1週間に1回自然栽培の小麦で俺のレシピでプロデュースしたパンを作ってもらうことが決まっています。酵素ジュースや糸島の竹パウダーの糠床につけたピクルス…熟成発酵食品など日本の文化も取り入れて、確実に美味しいものを出していきたいです」
−すごく精力的に動いていらっしゃいますね。今後の新しい取り組みや挑戦したいこともまだまだあるのでは?
「久々に生ハムを作りたいですね(※中野さんは、東京オリンピックで生ハムを提供する金子裕二さんの一番弟子です)。九州の豚で作りたいと思っています。塩と糠床を使うなど色々トライしたいです。提供できるのは目標2年後かな」
「あとは、実家が農家ということもあってこちちでも畑を持ちたいです。体に良い野菜を栽培してどこまで活かせるのか挑戦したいです。
これからは若いお母さんや子ども達に自然栽培の野菜だけを使った離乳食などのレトルト食品も広めていきたいです。パックすれば1、2年はもつから、被災地に送ることもできます。熊本の震災の時に、大量のカップ麺が送られてきたけれどアレルギーを持った人たちは何にも食べられなかったと聞いています。『パーレンテッシ2.0』のカレーは小麦が入っていないので、アレルギーがある人でも食べられるものを届けることができます。あとは、銀座三越でもやったレシピのない料理教室もやりたいです。商品を開発したり、発酵・熟成を伝えていったり…そういう意味ではレストランだけではなくなってきましたね(笑)」
※木村秋則さんのリンゴの入りイノシシカレー
“仕事は生き甲斐ではなく、やりがい。いかにやりがいのある仕事をやるかだよ。この仕事を好きになれるまでやってみようと努力すれば良い。君達が世の中を変えられるよ”と店のスタッフや学校の講演会では子ども達にも伝えている中野さん。“俺がジャンクだと言われるピザを体に良い食べ物に変えてやるんだ”と毎日ひたむきに取り組んできた中野さんのパワフルで熱のある料理をぜひ食べに行ってみてください
【パーレンテッシ2.0(ドゥエ)】
http://parentesi2.com
福岡県福岡市早良区室見5丁目4−1
TEL:092-707-7345
営業時間:11:30〜15:00(O・S/14:30)*ランチ
18:00~23:00(O・S/22:30)*ディナー
定休日:火曜日