地域との相思相愛を目指す。ローカルスーパー経営者の想い(サンピットバリュー)

自分たちにできることを

「スーパーが苦戦、大量閉店へ」というニュースをたびたび目にするようになりました。高齢化や、消費者のニーズ多様化など色々な要因があるのでしょう。けれど、そのような情勢にありながら、様々な仕掛けや情報発信で地域の人々に愛されるローカルスーパーがあります。そのスーパーの名は福岡県うきは市にある『サンピットバリュー』。

今回はその地域に愛されるスーパーの仕掛け人である経営者の久次辰巳さんにお話を伺ってきました。

−まずはうきは周辺の小売業、特に大手スーパー等についての現状を教えて下さい。最近ものすごく店舗数が増えているように思います。影響はどうですか?

「そうですね・・・人口3万強に対して大手スーパーや量販店、ドラッグストアが数店舗、コンビニエンスストアもいくつも出来ていて、その中で地域密着のローカルスーパーと呼ばれるお店は本当に少ないです。うちも、大手さんが開店される度に売り上げが一時落ち込みますから、影響はかなり大きいと思います。やはり品揃えや価格で競うと厳しい部分もあるので、うちはそこではないところで頑張ろうと思ってやっています。この地域の行事ごとだったり季節感だったり、そうしたものを感じてもらえるような品揃えを心がけて、チラシもそうした内容にするように工夫しています」


※極力値段は掲載しないようにしているそう。

−そうなんですね。先だって、サンピットの中の「スーパー内学習塾」が日経ビジネスでも取り上げられたと記憶しています。学習塾を開いたり、移動販売車「ウキウキ号」を市内各所に走らせたり、うどんを200円で提供して高齢者の方々の集いの場も生み出されたり・・・久次さんが仕掛けている事が、色々と話題になっています。店内に小さなお子さんの絵が飾ってあって、地域の皆さんが楽しくなるような催し物にも取り組んでいますね。そうした事は、やはり他の近隣スーパーとの差別化のために始められたことなのでしょうか?

「まず、うちが出来たのが30年前です。高度成長期の勢いそのままで、当時はうきはも子どもが多かったんですよ。その後バブルがはじけて、このあたりでも職場が減って、相対的に人口も減って。そんな中でこの数年は大手さんやコンビニが沢山市内へ出店されてきたんです。もう危機感しかないわけです。企業体力では到底かなわない。だったら何をすればいいんだろうと考えますよね。うちが出来て、よそが出来ない事は何か。やっぱり地域に徹底的に関わってつながる事だなと。学習塾については、スタッフの方からの相談がきっかけです。社員に講師が出来る人間もいましたし、そこからやれるんならやろうと」

「移動販売については、買い物弱者の高齢者の方々に、小さな寄り合いの場を作って、選ぶ喜び、料理する喜びを提供しようと。これはスーパーに買い物に来て下さる方もそうですね。“スーパーに来る”が運動になるし、高齢者の方々の寄り合いが自然発生するんです。うちの場合、主なお客様はご高齢の方々でこの地域の食材で、季節の旬の料理を作りたいという方が多いです。ですから、惣菜もそのような構成にしています。もちろん、老若男女、幅広い年代の方に来て頂きたいのでもっと頑張りますよ。特に子どもたち。季節感や地域感の無いものじゃなく、旬のものやこの地域のものと出会ってほしいと思っていて、子どもとその親御さんに向けて[食育][職育]という観点から『子ども店長』を募集したり、[お弁当の日]PRなどを行っています」


※お弁当の日

−そこを強化することは、もちろんスーパーとしての競争力アップにつながることだと思うのですが、その点についてはどうお考えですか?

「そうですね。まさにその通りで、スーパーが食育までする事が、経営としてもとても重要なわけです。使命だとも思います。うきはの場合、実は住んでいる住民がこの地域のありがたさの事をまだ実感してないと思うんです。耳納連山があって、筑後川があって、温泉があって、市という自治体単位で見ると全国でもここぐらいと思うんですが、井戸水・湧き水で美味しい農作物が育って、日々暮らしていける。そして、その恵みは本来食卓にも直結しているはずなんです。ちなみに、厚労省は1日に野菜を350グラム摂取を推奨しています。けど、朝食はパン食、あるいはお菓子という子もいる。そういう食事は、たまにだったらいいんです。でも、パン食だったら、パンにバターやジャム、それにジュースで済んでしまう子もいるでしょう。そういう朝食は、すぐに血糖値が上がるから一見わからないけれど、腹もちしないから授業中集中力が切れる。毎日がそれだったら、学習能力の低下につながるように思いますし、その先は地域の衰退にもつながる話だと思っています。せっかく農産物がこれだけ豊かな地域だから、[朝はごはん食]を少しでも意識したらどうなると思いますか。ごはん食だったら、米だけじゃあないですよね。そこに漬物があったり、味噌汁があります。ゆるやかに消化していくから、子どもたちは学校で給食の時間までしっかり勉強できる。そして地域の野菜や米農家さんが喜ぶ。うちも売り上げが上がる。三方良しです」

「毎日の朝食がごはん食だと、親御さんは確かに大変かもしれません。うちの妻も最初はやはり面倒くさがりました。けど、理由を伝えたら理解してくれて、毎日2歳の娘の世話をしながら頑張ってくれています。そしてそんな母親の様子を見ているからか、2歳の娘も台所で一緒に手伝おうとします。世話をしながらなので妻は大変だと思うのですが、その積み重ねは子どもが成長した時に大きいと思います」

−なるほど。お弁当の日PRなど、食育に力を入れ始めたのは、娘さんが生まれて父親になったという事も大きいですか?

「そう・・・父親になったという事は確かに大きいですね。やっぱりうきはって田舎じゃあると思います。田舎であるが故に、隣の芝は青いというか、都会への憧れというか、そういうことで若者が外へ出て行くわけです。でも、ここで育ってここに愛着を持った子たちは、進学で一旦外へ出ても、戻ってきてうきはで働こうと思うんじゃないかと。[食育]は、自分で作る事を身につけ、地域の食材を覚える事につながるので、地域への想いをじっくり育てる1つの方法です。他には・・・子どもたちが戻ってきたいとなった時、地域に仕事が残っていたり、受け皿となる事業所がある事、例えばうきはの基幹産業には農業もありますから、農業で食べていけるなり、あるいは地元企業で正社員として働いて暮らしていけるかどうか・・・というのが重要になってきます。その為には地域がこれ以上縮小していかない事、地域でつながりをもっていく、皆が良い方向へ進んでいく事が大事だと思います」

−地域コミュニティのポイントであるサンピットが好調であるという事は、今後もこの地域コミュニティが存続していく事につながるのかもしれませんね。お話を伺うと、「ローカルスーパー」は社会貢献企業になり得ると感じます。いかがですか?

「以前、同級生に言われたのが・・・サンピットがあるからまだ町の中心部に人が来るとって。うれしかったです。確かに、今はバイパスの方にどんどん大型店が出来ていますから。やっぱりうきはに住むからには、地域の人たちがうきはらしく、面白く明るく前向きになるように、その為にお役にたてる商いをするって事ですね。それと、地域あっての店ですし、店として食育・教育・職育の社会的課題に取り組む事が出来るので、スーパーは社会貢献企業であると言えるかもしれません。ちなみに、帰郷した時、僕は39歳でした。大勢の年上のスタッフの皆さんがいる中でわけもわからないまま継いで、今年47歳です。ここ最近、ようやく会社を長く続けていける土台作りが出来たなと思っています。社員・パート・アルバイト総勢で約50名在籍している従業員、そして地域の方々が、一生涯、健康に地域で暮らしていけるよう、そういう日々を支える事が、地域のスーパーであるうちの役割だと思います」

−以前はリクルートで敏腕営業として東京・大阪・名古屋などで活躍された後、沖縄で飲食店の共同オーナーをされていたんですよね。うきはへ帰郷し後継者となったのは、先代であるお父様から助けてほしいと連絡があったとうかがった記憶があります。今後は、どんな方向へ経営の舵取りをしていかれるのでしょう。

「育ててもらった町だし、やっぱり親がいてくれて今の自分があると思い、戻ろうと決意しました。何かしら今までの経験がいかせるかもしれないとも思いましたし。ここ最近は、外で発言する機会をいただく事も増えて、ありがたい限りです。これからも、どうしたらうきはが元気になるか、そしてスーパーとして出来る事をきちんと頑張る事が、うちが続く事にもつながると思います。明るく楽しく前向きに、皆で取り組んでいけるように頑張ります!」

地域との相思相愛を目指すサンピットバリューうきは店を牽引する久次さんは、1度は外の空気を味わったUターン組でした。外を知っているからこそ、うきはの魅力をより敏感に感じているのでしょう。
1人1人のお客様を慮る事、地域に想いを巡らしてみる事・・・お話を聴いているうちに、「ローカルスーパーは、一種の社会貢献企業だ!」という考えに至りました。とにかく徹底的に地域のお客様の事を考え、出てくる課題にスーパーとして取り組める事を企画し、立案し、実際に事業として打ち出す・・・ローカルスーパーの生き残り法、実は商いの王道かもしれません。

【サンピットバリュー】
https://www.facebook.com/sunpitvalue/
福岡県うきは市浮羽町朝田587-1
TEL:0943-77-6335
営業時間:9:00〜20:00

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