【Rethink Booksイベントレポートvol.3】空き家を活用!ノオト星野さんに聞く「あたらしいまちづくり」

今年6月に福岡の天神明治通り沿いに期間限定でオープンした『Rethink Books本とビールと焼酎と』では、私たち福岡移住計画では毎月第4水曜日にイベントを開催していくことになっております。

そして先日開催した第3回目。ゲストには城下町の町全体をホテルに見立てて古民家を再生している『NIPPONIA(ニッポニア)』を展開するノオトの星野新治さんに加え、地域のプロジェクトマネージャーとして上毛町などで空き家を活用している西塔大海さんもお招きしました。そのレポートを報告します。

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星野さん:「我々は古民家再生から地域をつくる『NIPPONIA』というプロジェクトをしています。『NIPPONIA』はプロジェクト名でもあり、再生でつくった複合宿泊施設の名前でもあります。

活動の中心は兵庫県の篠山市です。我々は一般社団法人ノオトからスタートして、株式会社NOTEを今年設立しました。今後は、一般社団法人では公益的な事業に集中し、株式会社では収益事業といった枠組みで事業を進める予定です。収益事業とは、投資を受けてそれを物件に投資するような事業で、地方専門の地域デベロッパーを目指しています。売上は大手デベロッパーとは比べ物にならないくらい小さいと思うんですけど、都会に集中する大手デベロッパーと比べて、我々が対象とする地域の面積は日本の大半を占めるので、小さいけれど日本に与えるインパクトは大きいのではないかと思って事業を進めています。

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※NIPPONIA
http://nipponiastay.jp

我々のミッションは一般的なデベロッパーと同じことを歴史地区の古民家でやっていくことです。基本的な仕組みは、歴史的な不動産を取得したり借りたりして、それに対して投資ファンドなど金融からファイナンスを受けて事業者さんに貸すという内容です。

我々の集計では建築基準法以前の木造建築が国内に149万棟あるんですね。その中で文化財とされているのは登録文化財も入れて1.5万棟。それ以外の残り大多数は手つかずになっていて、これをどうするかが我々の課題です。重要文化財も一般の古民家も、全部歴史的建築物として保存活用して残していこうというと我々は考えているんです。147.5万棟の20%、30万棟くらいできるんじゃないかと考えていますが、まず直近の目標は3万棟くらいを目指しています。

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古民家の魅力は、日本人が長年培ってきた暮らしや、自然と共に生きてきたということが詰まっていることだと思います。そしてその古民家が一番輝いていた時代の状態に戻すことが、我々の基本的なテーマなんです。だからあまり綺麗にはしすぎないで、時代の味を残しながら元に戻します。やってきてわかったことは、みなさんが“これはもう無理だな”と思う物件でも大体直せるということです。そして古い建物や日本の空間が意外とクリエイティブ人材を引き寄せるツールになることも、やりながらわかってきました。

基本的には「建物」「事業者」「仕事」の3つの分野をどうつくっていくかが重要だと考えています。政府にも今「まち・ひと・しごと創生本部」がありますね。たとえばシェフが来たからレストランをつくるということもあれば、宿泊施設をつくってホテル事業者を呼ぶということもあります。その順番はいろいろです。最終的には小さな産業を生み出していこうとしています。

古民家は流動化しないと言われていますよね。“貸してください”と言っても大体断られます。その理由というのは“仏壇が残っている”とか“盆と正月には帰る”とか。でも実は本当の理由は、“変な人に貸して村の方々に迷惑をかけたくない”とか“貸すとお金に困っていると詮索されて困る”とかコミュニティに対する配慮なんです。それで我々はどうするかというと、まちづくりのための重要な建物だということを地域のみなさんに話すんです。まちづくりのためなんだと周知できると、意外に物件をご提供頂けたりします。

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運営手法は様々です。例えば集落丸山という古民家の宿を運営しているのは地域運営方式。これは物件を10年間無償(固定資産税相当は負担)で借りて、改修をしてから地域の集落と一緒に運営する手法です。たとえば朝食をつくるのは集落のお母さんたち。食材は集落でとれたものです。ですがサービス品質はつくりこんでいて、プロが監修しています。魅せる料理であるかどうかは観光で重要なポイントです。

もともとこの集落はほとんど半分以上が空き家でした。農地も約半分が耕作放棄地。それが今は世帯数が5世帯から6世帯になって、人口も19人から23人へと2割増になったんです。耕作放棄地はゼロになりました。

そして今度はこの集落丸山モデルをスケールアップして、城下町を対象にしました。城下町全体を1つのホテルにしようという計画です。ここはファンド方式で運営していて、観光活性化マザーファンドからの出資と地元金融機関からの融資をいただいています。

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メイン棟になっている我々の建物は、おじいさんが住みながらずっと守ってきたものです。これまでにいろんな不動産業者さんから、ここを潰して宅地造成するとか老人福祉施設を建てるとか持ちかけられていたそうですが、断ってきたそうなんです。でも我々が、この歴史ある建物を活用しながらホテルとして活かしたいので売ってくださいとお話しをしたところ、“建物が残って活かされるのであれば”ということでお売りいただきました。

こうして、他の物件も含め城下町にある4棟を宿泊施設にしました。メイン棟でチェックインをして鍵を受け取ると、”あなたの今日のお部屋は2km先の歴史地区の町屋です“とか言われるんですね。宿が送迎しますが、歴史地区なので散歩しながら向かいたいという方もいらっしゃいます。

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これから次の目標は、市内のいろんな地区にクラスターをつくっていくことや、さらに周辺地区も連携させながら歴史地区再生による多様な文化クラスターと広域観光圏の形成をしたいです。地区も増やしながら、周遊してどう楽しんでいただくかということも考えていかなければなりません。

篠山の外には、竹田、大杉、豊岡という4地域に我々は施設を持っています。これらをつないで外国人に楽しんでもらう取り組みも準備しているところです。ガイアの夜明けでも取り上げていただきましたが、今後は3泊4日で1人30万円というツアーを来年に向けて進める計画です。たとえば福岡でもこうしたことができるんじゃないかな、と思っています。これから特に地方では観光が1つの産業の可能性だと思っています。日本の産業をつくっていかなければいけないと考えているんです。

西塔さん:私が活動しているエリアも丸山のような世帯数11軒の限界集落です。実は専門は物理学なのですが、3年前に福岡県上毛町にご縁があって移住して、今は移住や交流のために空き家を活用する取り組みなどをしています。上毛町では、田舎で暮らしながら働くワーキングステイを4年前かやっています。空き家活用としてはこれが最初でした。スタッフ自身も移住者で、空き家の手配から情報発信まで包括的に担ったのはユニークだったと思います。

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ワーキングステイには十数組の面白い人たちがやってきました。『ハウルの動く城』のDVDプロモーションとかもやっているようなデザイナーさんとか、スキマスイッチのツアーアイテムをつくっているイラストレーターさんとか。上毛町に移住することになった、旅するプログラマーもいます。中には滞在をきっかけに結婚相手を見つけた人もいました。

ワーキングステイで生まれたものは、たとえば上毛町フォトマップペーパー『KOUGE』です。上毛町は観光の町ではないので、パンフレットも無かったんですね。それでWEBマガジンのチームの方が作ってくれました。表紙や中身のデザインは『VOGUE』のパロディです(笑)

ワーキングステイの交流拠点は、歴史的建築物ではない普通の古民家をセルフリノベーションの教育プログラムでつくりました。なぜ教育プログラムかというと、それだと私が在籍していた企画課でできるからです。普通は建設課の領分なのですが、縦割り行政の中でこちらの想いも全く伝わらないまま普通に入札で進められるのは避けたいと思っていました。そこで、一緒にワーキングステイに取り組んでいた福岡R不動産(株式会社DMX)が提案してくれたのが『Design Build FUKUOKA』という、建築の学生たちが設計から施工までを自分たちだけでするというプログラムです。そうして教育プログラムとして交流拠点をつくることにしたんです。

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※上毛町ワーキングステイ2016
http://miranoshika.org/project/ws2016/

多くの方が関わるとセンスも思想もスキルもばらつきがあるので、空間デザインのクオリティという面では限界がありました。ですがつくる段階からたくさんの方に手伝って頂いたことで、確実に人が集まる場所ができました。建物をつくりながら、空間を運営していく上でのコミュニティの核ができていったんですね。実際、施設オープンの最初の月から100人以上の方が施設を活用するという状況になりました。

今この拠点は役場の公共施設になっていて、『上毛町田舎暮らし研究交流サロン』という名前がついています。路線バスもない、最寄駅から車で20分くらいかかるこの場所に年間1,200人くらいの方が来て、移住相談とか地域活性の相談をいただいています。移住も十数組ありました。民泊をやっていて、お客さんと仲良くなって結婚した人もいます。空き家も少しずつ流動化していて、Uターンで帰ってきた若者が空き家活用の不動産屋を始めたりもしています。

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そしてこの上毛町の取り組みを活かして、今は福岡県香春町にある1つの集落内で2つのプログラムをさせてもらっています。1つは築100年の無人駅の駅長室を改修して移住交流拠点にするというプログラムです。設計から施工まで全部やるのはかなり大変だったので、今回は活用については住民と一緒に考えて、施工はプロがリノベーション。地域の象徴となるようにクオリティを重視していきます。2つ目は、お試し滞在するためのトライアルステイ物件をつくるプログラム。こちらはプロが設計し、施工は短期間講座にしてみんなでやります。遠方からはつくばからの参加者もいらっしゃるんですよ。みんなでつくることでコミュニティをつくっていきます。

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古民家を活用するセルフリノベ講座は、プロに頼むのが一番だと思います。資金を集めてから建築士や大工さんとやることが大前提です」

このイベントでは毎回、会場の方にも「話す」ことに参加していただいています。今回のクロストークでも、たくさんの質問が投げかけられました。

質問:—プレイヤーの人はどうやって見つけて、引っ張ってくるんですか?

星野さん:「“ここで商売したい”とか“こういう空間だったら自分の夢がかなう”みたいな魅力的な空間をつくることです。“ここでやりたい”と思わせて誘引するのが重要です。我々は箱を作って用意して、目の前に差し出してあげます。たとえばカフェとしで進めている物件でもシェフとめぐり合うということもありますが、そうしたら厨房を広げてその人に合わせたりもします。」

西塔さん:「まずは数人の、10人力や100人力の移住者が必要だという時には、ボトルネックは魅力的な住空間や仕事空間がないことです。そこは箱を作ることが一番早い解決法になると思います。そして人を見つけるために積極的に出かけるとことも大事です。人が集まって面白いことが起きている地域の人ほど、いろんなイベントに出たりして積極的に人を見つけに行ってます」

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質問:—地元の方には”防御心”もあると思うのですが、どのように価値観をすり合わせているのですか?

西塔さん:「その地域の信頼を得ているプレイヤーと関係性をつくって組んでいくことです。全て合意形成してから始めようと思うといつまでも始められないので、ステークホルダーの核となる人たちが納得してくれた時点で、ある程度強行突入に入ることもあります。やってみて実際に変わった状況を見て、みなさんが納得してくださるのを信じてやるしかないので、すごくドキドキします」

星野さん:「すごく危機感を感じている地域では、新しい試みに反対する声に対しても“これをやらなきゃ村はなくなるよ!”と協力してくれる人がいます。一番難しい地域はそこそこ豊かに暮らしているところ。実は実情は疲弊してるのに“変えなくていいんだ!”という地域です。地域のために宿泊施設をつくるというと、地元の旅館の人から“そんなことやったら、おれたちの商売が…”みたいに言われることももちろんあります。そんな中でも“やらないと!”と感じている応援者や協力者もいたりするもので、そのような方々にどう説明して協力していただくかが大事です」

質問:—田舎で事業を起こす時に、成功する見込みは何をみて考えたのですか?

西塔さん:「限界集落でむりやりお金を産むためにカフェをしようとか、素人が考えるととんでもないことになるので、プロと組めない限りはそういうことは僕たちは考えないようにしています」

星野さん:「産業にしていくフェーズに入っているので僕らもガチンコです。ちょっと体育会系ですけど、つくっていくしかない。成功の見込みというより、成功のために方法を考えます。例えば予約だったら一休.comさんと提携して予約を取っていくとか。

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でもこのマーケットに対する可能性は金融機関や投資家も感じていて、金融機関からの引き合いが最近すごく多いんです。お客さんは今のところほぼ京阪神の方ですが、このモデルはインバウンドとか横展開も考えられるので。
マスではないですけど、歴史的な町に溶け込んで泊まる価値とか、そういった世界で一定の顧客がいるマーケットではあると思います。そこを海外も含めてつかんだら、それなりのマーケットになると金融機関もとらえているんじゃないですかね。

我々が今後可能性があると考えているヨーロッパの富裕層では、1泊3万〜5万円とかは“安宿”なんですよね。だけど木造建築のハードでやるには、いきなり20万-30万円の世界はまだ無理だと判断しています。まずは欧米のミドルアッパーの顧客にどう日本に来てもらって文化価値を体験してもらうかを考えています」

質問:—外の力を呼ぶために地域がすべきことってなんですか?みなさんはどんな感じの地域だったら見たくなりますか?

須賀:今日は香春町役場の方がいらっしゃっているので、逆に西塔さんをどう呼んだのか聞かせていただけますか?

香春町役場まちづくり課 坪根さん:「西塔さんとはたまたま知り合ったんです。それで香春町に来ていただいて町を案内しました。そしたらすごく気に入っていただいて、いいところを具体的にたくさんほめてくれたんです。ちょうど採銅駅舎開業100周年で町が盛り上がっていたので、駅舎もお見せしました。すると”ここを拠点にしたらどうですか?”と提案していただいたので、実は参ってしまいまして(笑)

それから役場の中のいろんな人を説得して回りました。町長も説得して。それからたまたま国の地方創生交付金の募集があって、応募したら採択されました。私の場合は西塔さんに知り合えたというのが大きいです」

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星野さん:「まさにそういうことだと思います。結局は人です。なんとかしたいんだと熱意をもった方が、町の中にいること。それが役場の職員さんの場合もあれば、地域住民だったりします。我々は少人数でやっているのでフィーをいただいても時間を割きにくくて。そんな中でも“行きましょう!”と思うきっかけは、担当者さんの想いとか人柄です。“本当になんとかしたい”という想いがあると、ちょっとキワモノな僕たちがやりたいことも一緒にできるかなと思うんです」

西塔さん:「そうですよね。仕事をしていく上で、パートナーになれるかどうか。お金だけの関係ではなくて、“一緒に”面白いことができるかどうかを見させてもらっています」

次回のイベントもぜひお楽しみに!

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