アラサー世代が考える働き方についてのイベント『Work&Local around30』。
4回目のテーマは「割り切ったはたらきかた」です。
ゲストはVJ.motordriveさん。一般企業でサラリーマンとして働きながら、全国各地でイベントVJをこなす映像クリエイターです。motordriveさんの活動は多岐に渡り、CMやPVでの映像制作、プロジェクションマッピング制作、さらに大学での講演や専門書の執筆なども行っています。栗山遼さんを司会に、motordriveさんの働き方について伺いました。
motordriveさん:「今日のテーマは、この人はこういう選択肢をしてこういう結果になったというデータを持って帰ってもらって、自分に合う・合わないを判断する材料にしてもらうことです。一番大切なのは自分で考えることだと思いますので、みなさんが働き方を考える上での材料になることをゴールだと考えて、今日は来ました。
ー(栗山さん)会社員をしながら映像クリエイターもするという働き方になった経緯をお話しいただけますか?
motordriveさん:「そもそも映像制作を仕事にしようとは考えていませんでした。映像制作を始めたのは会社に入ってからで、その会社に入社した理由は家に近くて大企業だからです。親が病気がちで高齢なので、近くで面倒を見れて、何かあった時に休めるような福利厚生の整った企業を狙ったんです。
それから入社3~4年するとわかった風になっちゃって、会社が面白くなくなったんです。普通にいい会社なんですけど、当時20歳前半の自分はつまんないなあと感じて。それで他に楽しめることを探しました。当時はインターネットが登場した頃で、ある時に会社がインターネットの研究のためにホームページ作成ソフトをドーンと導入したんです。でもだれにも使われなかったので、僕は昼休みとか定時後にPhotoshop、illustrator、Flashをタダでいじくって遊んでいたんです。そしたらそれが面白かったんですね。その時には、お金になるとかは全然考えてませんでした。
それからネットの中でモーショングラフィックのカッコいい作品が世界中で出始めたのでマネして作っていたら、イベントとかライブの背景に映像を出す活動があると聞いて、地元のイベントと一緒にやってみようかと言って友達と趣味で始めたんです。VJの走りですね。そしたらVJ自体がすごく面白かったんです。人前で自分の作ったものを見せるというのが楽しくて、会社員もやりながらVJもやっていました。
当時日本ではVJは生まれたばかりのカルチャーだったから、やっている人も少なくて、“もしかしたら少し熱を入れたら、いいところまでいけるんじゃないか?”って思って、情報サイトを作りました。その時にはまだオープンソースという考え方はなかったんですけど、僕も教えてもらっている代わりに何か出さなきゃと考えて、自分が作った映像のソースファイルをタダでどんどんアップしたんです。ソースファイルって、クリエイターは普通は出し惜しみしてアップしなかったんですけど、僕は価値を全然知らなかったので200か300くらい作って全部アップしていました。するとMP3の音楽再生ソフト会社から“ビジュアライザーに使いたいから権利を売ってくれ”とメールが飛んできたんです。それで60万円くれたので、ちょっとお金を意識し始めました(笑)
その時にはソフトは自分で買っていて、3万円のFlashのソフトが60万円になったので、その60万で56万のソフトを買ってみたんです。仕事として映像を作るためには3万円とかじゃなくて業務用のソフトウェアが必要だったので。それで業務用ソフトを買ったおかげで、全国の映像系のコンテストにも出せるレベルの環境が整いました。その時にVJの大御所さんから“コンテスト出してみたらいいじゃん”って言われて出し作品がソニーのコンテストで受賞したので、今度はソニーの人が広告代理店を紹介してくれるようになって。電通さんとか博報堂九州さんとかが“仕事できるんだったらやる?”って言ってくれるようになりました。そこから副業の形ができた感じです。それが28歳くらいでした」
ー(栗山さん)会社の人にはVJのことは話したりはしていたんですか?
motordriveさん:「全く言わないようにしていました。会社の仕事はちゃんとしているんですけど、何かしら色眼鏡で見られるのは嫌だったんです。でもこれからは、副業を認めるのは必要なんじゃないかなと思います。僕は心の面でも、副業が必要だという気がします。
VJを本格的に仕事にしようと思ったのも、コミュニティに何かの手段で入り込みたかったからなんです。VJ自体も楽しかったんですけど、自分の世界を持って楽しくやっているコミュニティの内側に入っていたかったんですね。クラブイベントとか音楽イベントで単にお客さんというのは物足りなくて。
そもそも人が本当に好きな仕事に就けるかって、ほとんど大半の人は就けないんじゃないかと思います。そして就職したらそこで頑張らなきゃいけないって、みんな考えると思うんですけど、それって無理が出てくるんじゃないかと思っています。だから前提としてメインの仕事はしっかりしながら、それ以外の世界でも能力とかユニークな要素とかを発揮して、好きな人たちとのつながりを作ろうと。それがスポーツでもアートでもいいんですけど、僕は映像が好きだったからVJで。今は締め切りに追われたりすると、“もしできなかったら、自分がこのコミュニティで必要とされなくなってしまう!”と恐怖感も感じながらやっています(笑)会社とは別のこの世界って、僕にとってとても大事なんです。
ー(栗山さん)サラリーマンをやめようとは思わなかったんですか?
motordriveさん:「フリーでいけるかもと思ったことは何度もあります。でも人間って、どうしてもその人がもっているカードというか制約があるんですね。僕の場合はそれが家族で、親の介護とかの優先順位が高いんですよね。そうした時に、フリーの映像クリエイターって儲かることもあれば全然仕事がこないこともあります。自分が倒れたらどこからもお金がこないし。あぶないことだらけだと感じたので、親が頑張っている間はこの危ない橋は渡らないようにしようと。だけど会社員だけしようとも思いません。両方やるためには寝る時間を減らせばいいと考えて、朝3時まで映像の仕事をして8時に起きて。5時間は寝ながら、なんとか頑張れています。
もし親の心配がなくなったとして、じゃあ仕事はどうするかというと、今の2つをやると思います。会社を辞めて映像の仕事だけにしたらどうなるかなと考えると、たぶん今会社に行っている時間帯は寝るだろうなと思うんですよ。自分という人間を知ることがすごく大切です。自分は追い詰められないとやらないタイプだし、締め切りをすっとばしたりキャンセルしたりするほど図太い神経もない。追い詰められて泣きながらギリギリ仕事するタイプなので、仕事を1本に絞ったところでそれほど大差はないはずだと思います。
年収について“300万円あれば食っていける”っていう声もありますが、僕は完全に不可能だと思います。税金もあれば機材投資もあるし。それに映像ソフトとかの年間保守料だけでも年間40万円くらいかかるんです。映像の仕事1本に絞ったとしても、年収でいうとサラリーマンをそう簡単には超えないです。でもフリーでやっていると、自分がやりたい案件が舞い込んでくることもあります。愛知万博とか、カプコンの仕事とか、ももいろクローバーZとか。そういうのを仕事でできるのは楽しいですよね。
そもそも仕事って何だろう?って考え始めた時に、どんな仕事でも“自分で決めた範囲内で頑張れば、それでとりあえずよし”という考え方をしないと、底なし沼になっちゃいます。クリエイティブでは特にそうなんですけど、終わりが見えないんですよ。例えば「かっこいい」というのを追求していつまでも作り続けちゃう。“ここまで”と自分で切る考えを持っていないと、終わらないんです。だから映像の仕事も会社の仕事も“ここまで”と割り切って、自分で範囲を決めて働いています」
『Work&Local around30』と題した30歳という節目を迎える人(あるいは迎えた人)のリアルな経験に基づいたトークイベント。働き方について考える新たなヒントを得られたという人も多かったのではないでしょうか?
このタイトルでのイベントは月1で開催していきます。
次回のキーワードは『3人のこだわり店主に聞く、ジブンの道のつくり方』です。お楽しみに。
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