福岡で、福岡にしかできない映画をつくる
舞台は、福岡は能古島。博多湾に浮かぶ、小さな離島。
ひょんなことから父親の古いビデオカメラを譲り受けた少年シュンは、
夏休みの毎日を映像づくりの情熱とともに過ごしていた。
そんなある日、ヒロインを探すシュンの前に現われた、鳶色の髪の女の子。
ここから、少年と女の子、島の住人との忘れられない夏が始まる…。
7月11日に公開となった、福岡発のオリジナル映画『なつやすみの巨匠』。
企画・脚本を手がけた入江信吾氏と、監督の中島良氏にインタビューしてきました!
-入江さんは福岡出身だそうですね!これまでに数々の話題作を手がけられ、まさに業界の第一線で活躍されている方が、どうして今、“地元福岡で自主制作映画”なんでしょうか?
入江さん:「福岡市早良区出身です。映画のロケ地になった能古島には、子供のころ家族でよく遊びに行っていました。僕は、ドラマ『相棒』でデビューして今年で10年になるんですけど、いつか地元でオリジナルの映画を作りたいと思っていたんです。最近は、どのドラマや映画も売れた原作ありきで、オリジナル脚本を、企画として通そうとしても通らない。ならば、自主制作でトライしようということになりました」
中島さん:「商業映画は、より幅広い人が理解できることが優先されます。地方映画を撮るにしても、標準語を使いなさいとか、日本語字幕をつけなさいとか。でも、全ての映画でそんなことをしていたら、金太郎飴みたいになっちゃいますよね。入江さんとは『いつかオリジナルをやろう』と話しながら、動き出しには7年かかりました。その間にお互いがキャリアを積み重ねて、機が熟したということもありますし、もっと差し迫る、今やらなければならない理由もあって…」
-今、やらなければならない理由とは?
入江さん:「僕の父が、4年位前から緑内障で目が見えなくなっていたんです。東京にいながらも地元にいる両親に映像を届けられる仕事をしてるのに、それが不可能になった。一番映像を見せたい人に映像を届けるにはどうしたらいいだろう。あれこれ構想する中で『父親も馴染みのある博多弁なら、耳だけで楽しめるかもしれない』と思いついたんです。始まりは、極めて私的な思いでしたが、福岡でしかできない映画を作ることで、こういうのがあってもいいじゃないかという、業界への問いかけができればという思いもありました」
詩的で美しい島・能古を舞台に
-『福岡の映画』ということだったら、もっと代名詞的なロケ地も沢山あったのでは?
中島さん:「福岡と聞いて、大半の人がイメージするのは、天神や博多、中洲でしょう。でも、映画を撮るという視点では、能古島の魅力が飛びぬけていました。島の対岸に大都会が広がっているなんて、あんな絵は探してもなかなかないですね。都会と自然のコントラストが独自性を放っていて、全国でもレアな場所だと思います。物語的な場所だなあと強く惹かれました」
-フェリーで10分。近いけれど、泳いでは渡れない。見えるけれど、手ではふれられない。作中では、近くも遠くもあるこの距離にゆさぶられ、陽炎のように揺れる少年の心情がとても繊細に描かれていましたね。
登場人物から飛び出す、生き生きとした博多弁も印象的でした!
入江さん:「ぼんやりしたターゲットを設定しても、誰も振り向いてはくれない。思い切って地域に徹しようと思いました。方言の台詞だって、他の地域の人がわかんなくてもいいやっていう気持ちで『字幕も絶対つけないぞ!』と。リアルをとことん追及しました。キャストも、福岡在住の俳優さんや、一般の方にも多くご協力いただいたんですよ」
中島さん:「例えば、家のシーンは、実際に島の方が住んでいるお宅をお借りして撮りました。オリジナルの世界観をつくりたいと思ったんです。独自性がある世界観が広がっていて、それが魅力的であるという状態にしたかった。マーケットに沿うものづくりではなくて、個人がクリエイティブの源泉だと信じたかったんです」
撮影を機に、福岡移住!
-中島監督は、なんと、この春福岡に移住されたそうですね!
中島さん:「福岡で生活してみて驚いたのは、食べ物が美味しいこと。スーパーのお惣菜から美味しくて、感動しました(笑)。空港までのアクセスもいいし、東京に比べて家賃も格段に安い。好条件ばかりが揃っているように見えて、移住の決断はとても気軽でした」
入江さん:「セカンドハウスにもいいと思いますね。僕も、今は東京がメインですが、ゆくゆくは福岡に拠点を持ちたいんです。打合せは東京で、執筆は福岡で、と使い分けてもいいですし、その時々でベストな場所が選べる仕事ですから。あと、監督には福岡移住に関して公言している大きな目的があって…」
中島さん:「はい、婚活もかねております。福岡は、女性が多いと聞いたので(笑)。それに、子育てをするならこんなところがいいなあとも思いました。だって、週末家族で遊びに行くのに、30分で海にも山にも行けるでしょう。東京だと、何をするにもお金と時間がかかってしまいますから」
入江さん:「監督が、こんなに福岡に馴染んで、正直驚いています(笑)。移住一年目にして、今年は山笠にも出ていて…。でも、こういうことも今回のプロジェクトの一環かなと。物語としておもしろいですよね」
-最後に、これから福岡へ移住したい人・検討している人へメッセージを!
入江さん・中島さん:「福岡が好き、移住したいと思っている方は、その気持ちだけでチャレンジしたらいいと思います。福岡は、頑張っている人を応援してくれる町です。ネガティブなことを言ったり、足を引っ張ったりする人がまずいません。積極的に協力してくれる人も多くて、今回も自主制作の予算では考えられないクオリティの映画が作れました。それは、人の力で何事も成し遂げられる、福岡がそんな場所だったからだと思います」
映画『なつやすみの巨匠』は、7月11日の中洲大洋映画劇場を皮切りに、九州各県で随時公開予定。オールメイドイン福岡で描かれたひと夏の物語を、ぜひ劇場のスクリーンで!
▼なつやすみの巨匠▼
http://nokoeiga.com/
≪プロフィール≫
【企画・脚本】入江信吾
1976年生まれ。福岡市早良区出身。
2005年、テレビ朝日系『相棒Season4』にて脚本家デビュー。
2011年、映画『白夜行』第61回ベルリン国際映画祭出品。
映画・ドラマのみならず近年アニメ分野にも進出している『黒子のバスケ』
『ログ・ホライズンン』
【監督】中島良
1983年生まれ。山梨県出身。
2007年、長編自主映画『俺たちの世界』で第29回ぴあフィルムフェスティバルにて3冠を受賞。同作にて第7回ニューヨーク・アジア映画祭において最優秀新人作品賞を受賞し、世界7ヶ国の映画祭に招待上映される。
2009年、映画『RISE UP』にて商業映画デビュー。