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コミュニティ ひと

【HOOD天神より】〈イベントレポート〉『はじめた人のはじめ方』 ~まちと人をつなぐ本屋編~

2016.7.21  

このコーナーでは、私たちが西日本鉄道(西鉄)さんと共同運営している『HOOD天神』からの情報(イベントやレポート、その他)をお届けします。


HOOD天神のテーマの一つは、“はじめる”ということ。自分らしく何かをはじめる人のきっかけの場になりたい、と私たちは考えています。
そこでHOOD天神では、まちを素敵にする“はじめた人”と、これから何かを“はじめたい”と感じている方とをつなぐイベントをシリーズ展開します。
初回は「まちと人をつなぐ本屋」にフォーカス。『ブックスキューブリック』の大井さんと『MINOU BOOKS&CAFE』の石井さんをゲストにお招きし、お話を伺いました。

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− 本屋をはじめる前にさかのぼって自己紹介をお願いします。お店のお話は後ほど。

大井さん:「今55歳で、福岡に戻ってきたのは17年前。30代後半でした。その前はイベントの仕事をやったり、イタリアで過ごしたりしていました。僕は生まれは福岡なんですけど、親が転勤族だったので大阪や東京でも長く過ごしたんですね。だから福岡移住者といわれればそうかなとも思うんです。

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福岡に戻って最初は新天町の本屋でアルバイトをしました。そして物件を探して2001年にけやき通り店をオープン、2008年には箱崎店を開きました。ブックスキューブリックは今年の4月でちょうど15周年なんですね。そして2006年にブックオカというブックフェスティバルを仲間と立ち上げて、今年は10回目を開催しました。

最近は本屋を通じた友達づくりをさらに広げて、他の本屋の開業や運営をサポートしたりしています。例えば山口の『市庭BOOKS』では棚の設計やスタッフトレーニングまでやりました。東京の『Title』には雑誌リストを渡したり。それから、そういうお仲間書店をつないで著者のトークツアーをしかけたりしています。実は石井さんにも相談に来ていただいたんですよね。それでブック&カフェやったらいいよって、いろいろアドバイスしました。

僕がはじめた頃は「本屋なんて隠居仕事をはじめてどうするの?」といわれましたが、はじめてよかったと今も思います。まちに働き場所があるのは幸せですよ。定年がないので90歳まで働いてやろうと思っています(笑)」

石井さん:「私はいろいろとカルチャー関係の仕事をしてきました。『cafe&books bibliotheque』で書籍や雑貨のバイヤーをしたり、福岡のデザインイベント「デザイニング展」の運営をしたり。ほかにもAutumnleafというバンド活動や、インディペンデント音楽レーベル『wood/water records』の運営もしました。

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いろいろしてきた中で、今の仕事に一番直結しているのは書籍バイヤーの仕事です。最初はカフェスタッフとして働きはじめて、たまたま書籍スタッフとしても働くようになって本に興味をもったんです。デザインとか音楽とか、文化を草の根的にまちに広げてフィードバックを得るのがすごく楽しくて。本もそうだったんですね。

「デザイニング展」の経験も今の仕事にとても影響しています。デザインとまちづくりを融合したようなイベントをしたんですけど、自分たちがまちに関わることでまちの景色が変わるという経験ができたんです。例えばあるお店があって、知らずに歩くのと常連が歩くのだと、その場所の見え方がすごく変わってきます。自分たちから主体的に関わっていくことでまちの風景が変わる。それが結局、まちが変わるということになるんじゃないかって思ったんです。

それから地元のうきは市で仕事をしたかったので、2年前にうきは市に戻って物件を探したりして、昨年9月に『MINOU BOOKS&CAFE』をオープンさせました」


−どんなお店なんですか?

大井さん:「けやき通り店は15坪。最初は20坪くらいで探していたので、狭くて大丈夫かなと思いながらのスタートでした。でも意外に狭さが武器になっていったんです。常連さんが言うには「一通りぱっとみただけで、自分の守備範囲じゃないジャンルやおもしろい本が、ちゃんと面陳列になっているので、偶然の出会いがある」本屋です。

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これははじめる前から企画書に描いていたコンセプトで、本とのいい出会いがある本屋をつくりたかったんですね。“本は人格をもっているメディアだ”って僕は言っているんですけど、情報をとるだけのツールじゃないんです。人との出会いで人生が変わったりする体験を自分はたくさんしてきました。本もそうだと思うんです。影響を与えてもらったりするには、いい出会いが必要です。だから出会った人に新しい世界を開いてくれるような本を積極的に集めて置いています。

そして箱崎店はカフェ併設店として開きました。もともとイベントが大好きだし、本の著者を呼んでお話を聞いたり体験をしてもらうのって、一番大事だなと思うんですね。それで夜はスペースをイベント会場に使えると思って、カフェをつけてみたんです。

今年からはパン屋も始めました。有名店「パンストック」のふとっぱらなオーナーさんに指導をしてもらって、片手間ではなく相当おいしいのを本気でつくっています。カフェではアートギャラリーも頻繁にやっていますよ。


石井さん:「うきは市は天領だった日田と久留米の間の宿場町として栄えたまちでした。そして昔からの白壁が今も残っています。お店がある場所はまちの中心部なんですけど、そこも伝統的建造物群保存地区に指定されているんです。だけど僕はまちに対する異物混入みたいなことをやりたくて、お店の外観はガラスにしました。

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たとえば白壁の古民家を改装して本屋をつくると、そのままでカテゴライズされてしまうと思って。それが嫌で、自分なりにかっこいいと思うことをやりたいと思ったんです。お店の人自身がかっこいいと思っているようなお店が点在するまちが好きなんです。昔の人もきっと「うちの白壁がいちばんかっこいい」って競うように白壁のまちをつくったんだと思うんですよ。

それでたまたま見つかったのがこの物件でした。シャッターが外壁扱いで、ガラスは内装扱いなんです。広さは30坪くらいで、半分を書店、半分をカフェにしました。暮らしの本屋というのをコンセプトにしていて、用事がなくても立ち寄れる本屋で偶然まちの人が出会ってお茶する、というような状況を作りたかったんです。

選書面でもコンセプトに沿って、まちの人がその日からすぐに暮らしの中に落とし込めるような本を集めています。そして“考える”ことをしてほしいなとも思っているので、例えば食ジャンルだったらレシピ本だけじゃなくて、食の歴史や思想や哲学についても揃えるようにしています。


−本屋というお店をはじめたきっかけは?

大井さん:「本屋をやろうと思ったきっかけは、イタリアで過ごした時に小さな個人商店がまちに対して重要な役割をもっているのを感じたことです。当時日本はバブルで文化的に軽かったり、コンビニが増えて個人商店が消え始めていました。それで伝統や、まちでのコミュニケーションを大事にするイタリアの文化に打ちのめされたんです。そこで文化的な個人商店をやろうと思って、本屋開業を決意しました。

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本屋を選んだのは、自分に向いているなと思ったからです。僕は興味の範囲が広いから、本を通じて自分の好きな世界を構築できるのはいいなって。それに子供の頃から本屋ってものすごく居心地がよかったんですよ。いろんなところを転々としてきた飽きっぽい人間がずっと同じ場所にいるならば、究極に好きなものとか、究極に居心地のいい場所じゃないと、絶対に飽きちゃうと思ったんですね。

それから本屋をはじめるために、モデルになる本屋めぐりをしました。そして一番感銘を受けたのは鳥取の「定有堂書店」です。「物語がある本屋」という本に定有堂さんが載っていて、考えていることが自分に非常に近いなと思って会いに行ったんですよ。それで非常に親切にしていただいたので、今は私も相談にいらっしゃる方にはサポートをしているんです。


石井さん:「『cafe&books bibliotheque』を辞めた後、好きなバンドがいるアメリカを訪れました。そして西海岸に3ヶ月間滞在する中で、ポートランドというまちに行ったんですね。そこで個人商店の大きな本屋さんが、歴史のあるまちの中心部で賑わっているのを見て、いいまちだなと感じたんです。それでうきは市の、変わらない風景の中でお店をつくりたいと思いました。福岡市内だと僕にとってはまちの移り変わりがちょっと大きすぎるんです。

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なぜ本屋かというと、僕も大井さんと近くて、飽きっぽいからなんです。でも本屋だと毎日雑誌が入ってきたりして情報はころころ変わります。自分が気になる新刊をオーダーして箱を開ける瞬間も楽しいんですよ。

トークの終わりには、大井さんと石井さんがそれぞれのおすすめの一冊を紹介してくれました。

大井さんは「谷郁雄エッセイ集 日々はそれでも輝いて」を推薦。ナナロク社から2011年に出版された本です。著者は詩人の谷 郁雄(たに いくお)さん。

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石井さん推薦本は平田オリザさんが書いた「下り坂をそろそろと下る」。劇場や本屋など、家と職場以外の居場所がある方がまちはよくなると書かれているそうです。石井さんがうれしい気持ちになれた一冊です。

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イベントの最後には2グループに分かれ、『1冊だけの本屋をやってみよう』と題して参加者にも“自分がおすすめしたい本”を持ってきていただき、本を売る側にたって本をおすすめしていく自己紹介も兼ねたスタイルの交流会を開催しました。

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“本”という共通の趣味をもった参加者ということもあって、交流会は大盛り上がり。参加者が紹介する本を写真に撮ったり、全てメモしたという方もいらっしゃいました。

自分の好きな本というのはある意味、本というフィルターを通した自分自身の考え方(思考)の現れなのかもしれません。
この場から様々な“つながり”ができたのではないでしょうか。

『はじめた人のはじめ方』と題したトークイベント。何かをはじめたい人は、きっとなにかヒントがあったのではないでしょうか。

このタイトルでのイベントは今後も開催していきます。
興味のある方はHOOD天神HPないしFBで告知しますのでお楽しみに。

【追伸】
本屋をはじめたい人や、本屋と何かをはじめたい人には、ブックオカ編の「本屋がなくなったら、困るじゃないか」もおすすめです。ネガティブな話題も多い業界に対して「じゃあどうやったら続けていけるのかっていうことを、もっと徹底的に話し合おう!」と大井さんがブックオカで呼びかけて、業界関係者が集まった会議から生まれた一冊。現在発売中!
http://bookskubrick.jp/books/4165

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板村成道
山口県宇部市出身。
2011年に東京から移住。大分と熊本での暮らしを経て、2014年から福岡市在住。移住計画のライティングやWebディレクションに関わりながらソーシャルウェブマガジン『greenz.jp』などでもライターとして活動。