魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。
茅葺き屋根の民家に「一目惚れ」
うきは市の観光スポット・白壁通りから車を走らせることおよそ30分。「日本の田舎の原風景」と言える光景が広がる一帯がある。山里の「ひめはる」地域だ。清流沿いの集落に車を走らせると茅葺屋根の民家が見えてきます。関東出身の林さんご夫妻が営む囲炉裏カフェ『里楽』です。
黒板に書かれたメニューには、地元・うきはの棚田米や林さんがご夫婦で育てた野菜や果物、そして猪肉など、里山の豊かな恵みを活かしたお料理が。取材に伺ったのは7月。カフェを切り盛りする妻・礼子さんお勧めの、うきはの果物がたっぷり使われた冷たいスイーツを楽しみつつ、お話をうかがいました。
林さんご夫妻はもともと揃って関東出身で、同じ会社にお勤めでした。そして夫・和弘さんはいわゆる「転勤族」でした。お二人が仙台に暮らしていた約10年前に、田舎暮らしに関する雑誌の見本誌を偶然手にした事がきっかけで、この茅葺屋根の家と出会いました。
―この家との出会いのエピソード、運命的ですね。「一目惚れ」ですか?
「そうですね・・・元々、将来は何か店をしたいと思っていましたけれど、九州にうきは市というところがあるって全く知らなかったんです。だから、本との出会いが無ければ、きっとここにはいなかったです。関東出身なので、夫は信州とかいいなぁと言ってましたけど、予算的には信州だと厳しくて、他の地域についても探していました。本当に[あのタイミング]で[あの本]が無ければ引っ越していないと思うので、何がきっかけになるかわかりませんね。それで、実際に2人揃って家を見に来たところで購入を決意して、屋根の葺き替えや壁塗りなど改修の目処がついて、ご近所の方々と井戸を掘って飲料用水を確保して、本格的にお店をオープンしたのは昨年の夏です。お店がオープンしてから約1年経ちます。その間に子どもも産みましたし・・・こうして振り返ると大変ですね~!」
*家の外観
カフェ店長で、母さんで。出来る事を、出来る時に。
さて、お店のことですが、新たな課題も見つかりました。茅葺屋根の民家ゆえ、冬にはせっかく温まった空気が屋根から抜けてしまい、とにかく寒いのです。これはお店を営業し始めて、改めて感じた課題でした。一方、夏は屋根からの熱は茅で吸収され、涼しく過ごす事が出来ます。取材した日も扇風機のみで涼しく過ごす事ができました。
*一歩中に入ると、モダンだけれど懐かしい和の空間が広がる
-実際にお店を営業されて1年が経過したところですが、どのようなお客様がいらしているんですか?
「冬は寒さが厳しかったんですが、春先からはまたお客様が足を運んで下さるようになりました。例えば、遠方のお客様だと、古民家好きの男性の方々や、ゆっくりした時間を過ごしたい女性グループの方がお出で下さいます。ビックリするのは、北九州や福岡から月に1回定期的に足を運んで下さる方がいらっしゃることでしょうか。ご自分をリセットしに、3~4時間ゆっくりと滞在されます。お料理もスイーツも我が家の畑で採れたものか、うきは産の季節の食材を使っているものが多いので、毎月少しずつ変わっていくんですね。そういう事をゆっくりと楽しんでいただけていたら嬉しいです。それと、これも嬉しいことに、地元の方が、子どもさんやお孫さんの帰省の時に、[懐かしい雰囲気]を楽しみに一緒にお連れになられたり、集まり事の流れで来て下さったりするんです。まるで田舎のおじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに来たみたいに。これは本当に嬉しくてありがたいです」
*里山の恵みがギュッとつまった里楽のスイーツ
-そうそう、畑にはベリーを沢山植えておられますね。あと、ハーブティーなどもご自身でブレンドされているとか?
「はい。せっかくだから体験や農業にも力を入れて、1日ゆっくりと過ごしていただけるようにしたいんです。[ブルーベリー]は、収穫体験をしていただけるように沢山育てているところです。それと、これは農業部門になりますが[ラズベリー]を育てていきたいです。国産でしかも無農薬となると、生産されているところが本当に少ないので、しっかり取り組んでいけたらと思っています。ハーブティーに関して言うと、数年前、ハーブティーのコーディネーターの資格をとったんです。この地域にはヨモギやスギナなどの野草も沢山あるし、在来種のお茶もあるので、自分でブレンドして、うきはの里山のお茶として提供していけたらと思っています」
*ブルーベリー畑
(スイーツに使われたブルーベリーは林家の畑から。ブルーベリー狩りは予約制でお願いできるそう)
-小さいお子さんがいる中で、色々なことに平行してチャレンジしておられるのですね。難しいと思う事、ありますか?またそのチャレンジ精神はどこから来るのでしょう?
「小さい子どもを抱えながらなので、やりたい事が全部できているわけではないんですが、それでも今できる事は少しずつやっていこうと思っています。例えば、日曜日ですけれど、今シーズンのところは予約制にしています。うきは市の場合、日曜日保育をお願いするのがなかなか難しくて。そうなると、夫が子どもの面倒を見るのですけれど、夫も平日は別の仕事をしているので、毎週末子どもと一緒だと、息詰まってしまうんですよね。そこで、予約をいただいている日曜日だけ、オープンする形にしています。今は日曜営業は月に2回くらいですね。子どもがもう少し大きくなって小学校にあがったら、友達との世界ができてくるでしょうから、あと数年はこのペースで頑張らなきゃ。ペースはどうしても・・・ですね。でも、だからと言ってやりたい事をやらずに諦めてしまいたくないんです。私自身、親が飲食業だった事もあって、母も働いている事が当たり前だったんです。働いて構われなくて悲しいだなんて、自分自身思ってなかった。だから、子どもには[働く母親の背中]を見せたい。もう少し大きくなった頃、[働くっていうことが何か?]を感じとってもらえたら・・・と思ってます。
それと、今後は、他の事業所さん・・・例えば旅館さんと連携して、ベリー狩りや木工作りなどの体験プログラムを提供して、1日滞在型の場にしていきたいと考えています。[お客様とうきはが出会ってもらえるようなお店]が目標です。自分に出来るペースで、この場を育てていきたいです」
移住者で、小さいお子さんがいて母さんで・・・という人はきっと多い事でしょう。それだけであたふたしてしまいそうだけれど、「母さんだけど諦めない、自分で出来るペースでやっていく!この場を育てていく!」と決意した礼子さんの健やかな逞しさが素敵です。次の季節、紅葉に囲まれた『里楽』に会いに行きたいと思います。
【里楽】
https://www.facebook.com/satoyamarelaxu/
福岡県うきは市浮羽町新川3918-1
TEL:0943-77-2275
営業時間:金、土、月 11:00〜17:00
日曜、祝日のみ予約制
定休日:火、水、木