全国的に増えている空き家。平成25年度の調査によると、全国の空き家数は約820万戸にのぼり、福岡県内には31.7万戸の空き家がありました。人口の減少に伴い、今後も空き家は増加すると考えられ、防災や防犯、衛生、景観面などで問題となる、いわゆる「空き家問題」が起こっています。そんな中、「福岡県の豊前市は空き家バンクの取り組みが好調!」という噂を聞きつけて、豊前市役所を訪問。総合政策課で空き家バンクを担当している木下博さんに話を伺いました。
―まず「空き家バンク」を知らない方のために「空き家バンク」とはどういった制度なのかを教えてください。
はい。「空き家バンク」は、空き家の賃貸や売買などを希望する所有者から登録の申し込みを受けて、空き家を購入または賃貸入居したい方に情報を提供する制度のことです。全国の多くの自治体が空き家バンクの取り組みを行っています。
―豊前市ではいつから取り組みを始めたのでしょうか?
平成21・22年度に空き家調査を行い、平成23年から豊前市空き家情報登録制度「空き家バンク」をスタートしました。始めるにあたっては、当時空き家バンクの先進地でありました、大分県の豊後高田市に視察を行いました。
私自身は平成27年4月に空き家バンクの専門官に就任して、前任者から仕事を引き継ぎ、今はひとりで担当しています。
―木下さんは部署異動で空き家担当になったのですか?
いえいえ、私は築上町出身で、博多の家電量販店で働いていました。実家が空き家になり、こちらに戻ろうと仕事を探していたところ、豊前市で空き家専門官を募集していると聞き、ご縁がありました。宅建の資格を持っていたことがプラスになったのだと思います。
―そうだったのですね。家電量販店から空き家担当へ、全く違う業界への転身ですね。
実は私、それまで空き家バンクが何かもよく知らなくて(笑)…でも実際に関わってみると、社会的に大きな課題で、やりがいを感じています。
―全国的に空き家バンクはなかなかうまくいかないと聞きますが、豊前市のホームページを拝見すると、これまで213物件の登録があり、114物件が「成約済み」になっています(2018年6月24日現在)。うまくいっている秘訣は何なのでしょうか?
皆さんには「豊前市の空き家バンクのホームページは見やすい」とよく言っていただきます。ホームページ自体は私が引き継いだときからあり、所在地や面積、設備などの共通項目をしっかり書き込んでいます。私が工夫したのは、特記事項に「〇〇小学校〇m、××中学校×m」など校区の学校名と学校までの距離を入れたり、できるだけ詳しく書くようにしたこと。あと、農地や家庭菜園をできるスペースがあれば書いています。空き家を探している人は、田舎暮らしで、自分で農作物を育てて…と思い描いているケースも多いからです。
―なるほど、どちらも大切な情報ですね。
農地に関しては、平成30年1月1日から面積要件が緩和されました。空き家バンク登録物件に付随した農地を、空き家とともに売買する場合に限り、農地法第3条による設定面積(下限面積)が1アール(100㎡)まで引き下げられました。これまでは、農地を3,000㎡以上耕作している必要があったけど、100㎡に緩和されたことで、農業や家庭菜園をしたいという方に喜ばれています。
―他に改善されたのはどのような点でしょうか?
私が担当になってから、所有者の方からできるだけ鍵をお預かりするようにしました。そうすれば、内覧したいという方がいたとき、すぐに私が対応できますので。スピーディに対応できるようになったことは、成約率アップにつながっていると思います。
―空き家を探して、所有者に登録してもらうことも大変だと思いますが、豊前市では何か工夫をされていますか?
空き家には「豊前市空き家管理アンケートのお願いハガキ」というものをポストに入れています。「所有する空き家を貸したい(条件次第で貸したい)」「所有する空き家を売りたい(条件次第で売りたい)」「空き家を賃貸・売却はしない」「将来、空き家バンクに登録したい」「詳しく説明を聞きたい。来訪してほしい」の5項目のうち該当するものにチェックして、ポストに投函してもらう仕組みです。
あとは、空き家バンクに登録するには登記簿謄本や地図などが必要で、それらをどこで入手できるのかなど必要なものが一目でわかるように見本を用意しています。
―空き家バンクの制度はどうやって周知しているのでしょう?
市報などに載せることで、市内在住の人には知られるようになりました。あとは市外に住んでいる所有者にもお知らせするために、今年から固定資産税の通知と共に空き家バンクのご紹介チラシをお送りしました。すると、結構反響がありました。
―どんな方が購入・賃借されているのでしょうか?
市内の人はもちろん、市外や関東の方が空き家バンクを利用して引っ越して来られています。これまでアパート住まいだったけど、まわりに気兼ねせずに一軒家で暮らしたいという家族や、空き家でパン教室を開いたり、ケーキ屋さんをしたり、法人の方は雑貨店や老人ホームとして利用されるケースもあります。
―空き家バンクを利用して購入・賃借した人には、何かメリットがありますか?
豊前市には助成制度があります。登録不動産業者に支払った仲介手数料を、一契約につき5万円を上限として助成します。
―木下さんのような空き家専任スタッフがいると、利用者も安心ですね。
そうですね、専任ではない自治体の職員でしたら、どうしても数年で異動になりますから。私は宅建に加えて行政書士の資格も取得したので、安心して任せられると言っていただくこともあります。うまくマッチングできると空き家バンクの登録者と利用者の双方に喜ばれる仕事なので、うれしいですね。
年々、利用者からの問い合わせが増えてきていますし、福岡県に他県の自治体から空き家バンクの仕組み等について問い合わせがあると、うちの市を紹介されて、視察に来られることもあり、光栄に思っています。
―豊前市として、これから空き家問題をどのようにしていく予定ですか?
基本的には今のやり方を続けながら、改善できるところはどんどん改善していきたいと思っています。今後はもっと民間の事業者などと連携して、例えばリフォームして売ったり、他の活用法なども考えたりできるといいなと考えています。
今回は「空き家バンク」が好調ということでお話を伺いましたが、そこには特別にすごいことを行っているわけではなく、事細かなケアがあることがわかりました。大切な家ですので、こういった信頼関係が上手くいっている証拠なのかもしれません。
【豊前市 空き家バンク問い合わせ】
豊前市 総合政策課
TEL:0979-82-1111