魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。
薬院エリアの路地を歩いていると、漂ってくるスパイスの香り。香りの元をたどると、古めいたアパートの一室にたどり着きました。外から確認できるお店らしいアイテムといえば、青いポット型の照明と「OPEN」と書かれた木札のみ。隠れ家的なそのお店は、2017年12月にオープンしたチャイ専門店『Chai Tea Heron(チャイティーヘロン)』です。
チャイとは、主にインドで飲まれている甘い飲みもの。紅茶の茶葉を煮立て、そこに砂糖・ミルク・スパイスを加えてつくります。知っているようであまり知らないチャイの魅力について、オーナーの竹井さん、店長の吉丸さんにお話を伺いました。
−白を基調としたやさしい雰囲気のお店ですね!お店の存在は以前から気になっていたんですが、アパートの1室で、店名の書かれた看板もないのでなかなか入る勇気が出ませんでした…(笑)。
竹井さん:中には「なんのお店ですか?」と扉を開けて聞いてくれる方もいるんですが、なかなかハードル高いですよね。自分だったら入れないです(笑)。
吉丸さん:あたたかい季節になってからは窓や扉を開けることが増えたので、外にいる人と目が合って「ほらカフェじゃん!」ってお店に入ってきてくれることも増えてきました。
−決して目立つ場所ではないですが、こちらをお店として選ばれたのはなぜなのでしょうか。
竹井さん:以前はうきは市でカレー屋を営んでいたんですが、重要文化財である観光施設を市から借りて営業していたので、そこでお店を営業できる期間が決まっていたんです。当初は営業期間終了後もうきは市吉井町周辺でと思っていたんですが、なかなかいい物件に出会わず、このままひとところにいても自分自身が成長しないなと思って、軽い気持ちで福岡市内に出てきました。当初はカレー屋を出店して、落ち着いたらチャイのカフェをと考えていて、物件を探す際に不動産屋さんにこれからの展開について相談していたんです。そしたらカレー屋さんより先にカフェに適した物件が見つかって、家賃もお手頃で内装も自由にしていいとのことだったので、予定を変更して先にチャイ専門店をオープンしました。
−物件は出会いですもんね。チャイはカレー屋さんの頃から提供されていたんですか?
竹井さん:カレー屋をしていた時やイベントに出店する時もチャイは出していました。ただ、注文を頂いてからその都度スパイスを配合して煮出して…とつくるのに手間がかかるので、カレーと並行しての提供はオペレーション的にも難しく、チャイメニューのバリエーションも増やせないので、チャイだけのお店をつくりたかったんです。
チャイというとインドのイメージが強いですが、“スパイスの入っている甘いミルクティー”というような感じで、カジュアルに飲んで欲しくて、ほうじ茶でつくったもの、コーヒーでつくったものなど豊富なフレーバーと、スムージーもご用意しています。
内装も解体から自分で行ったんですが、インドインドしないように気をつけて、極力自分の好みも入れずにつくりました。
−むしろオーナーの好みを詰め込んだ空間づくりをされているのかと思いました…!
竹井さん:つくりながら「あ、これは自分の好みだな」と思ったらそこをやり直したりしましたね。“店主の想いがこもった内装”にしようとは一切思っていなくて、好きで集めていた小物も一部ありますが、音楽も含めお店の9割以上は僕の好みじゃないです(笑)。
−来る人を限定しない、ニュートラルな空間にしたかったということですね。
竹井さん:そうですね。もともとDIYをしたこともなければ、工具も持っていないレベルで。内装を考える仕事をしていたこともないので、どんな空間をつくりたいかという具体的な発想自体がそもそも無かったんです。何かをゼロからつくることはできないけど、好きなデザイナーさんのつくった空間やつくり方は興味があってこれまでもいろいろ見てはいたので、そうしてインプットされたものを組み合わせてつくった感じです。
−実際、お店に来られるお客さんはどんな方が多いですか?
吉丸さん:この近辺はカレー屋さんが多いからか、カレーを食べた後に立ち寄られる方が多いですね。体感では7~8割の方がカレーを食べてから来られています。カフェが好きで、という方の割合は意外と少ないですね。
−確かに、ヘロン付近はスパイスのいい香りが漂っていて、カレー好きな方は香りに誘われて自然と足が向いてしまいそうです。カウンターにはずらりとスパイスが並んでいますが、チャイにはこんなにスパイスが入っているんですか?
竹井さん:インドのチャイは少ないとシナモン・カルダモン・クローブの3種類、多くても4~5種類のスパイスで作られていますが、うちのお店の場合は、さらにローズヒップ、モリンガ、ヘンプシードなど、味のバランスが崩れないように10種類ほどのスパイスでつくっています。
このお店をオープンする前に、Instagramで告知をして1週間くらいぶっ通しで試飲会をやったんです。ちょっとずつ分量の違う試作品をいろんな人に飲んでもらって、レシピをつくっていきました。それこそ、「もう飲めないです」って言われるくらい、来る人来る人に7~8杯飲んでもらってましたね。自分自身で作品のようにつくったレシピで提供するのは結構ドキドキしちゃうんですが、うちのレシピはたくさんの人と一緒につくったという自信があるので、このレシピ美味しいですよとか、すごくブレンドいいですよとか、栄養価もいいですよって、自信を持って提供できるんです。
吉丸さん:わたしはもともとチャイやスパイスが好きだったわけじゃなく、オーナーよりはお客さんに近い立ち位置なので、新メニューをつくる時もどんなものがいいか、お客さんと話しながらつくっています。お客さんに決めてもらったメニュー名がそのまま次の日にメニュー表に入っていたこともありました(笑)。お客さんにも「こんな参加型のお店楽しい!」と喜んで頂いてます。わたしも初心者なので、お客さんと一緒につくれることが楽しいです。
−お客さん参加型のお店、というのは新しい取組みですね!ほかにもこだわっていることはありますか?
竹井さん:シロップを使わない、ということでしょうか。チャイは基本的に甘い飲み物なので、あくまで“嗜好品”。飲む側はすごく受動的に体に入れてしまうので、せっかく飲みたいと思って飲んでもらえるのであれば、健康になったり体に負担のない素材を使うっていうのは極力心がけています。あとは、ちょっとずついろいろなところに「うきは」のものを取り入れています。お茶の葉は『新川製茶』さん、カルトンとして使用している木のお皿は山口さんという作家さんのもので、「OPEN」と書いている看板代わりの木の棒は『四月の魚』さんと『杉工場』さんのコラボレーションの商品です。うきはが嫌になって出たわけじゃないので、本当に好きな場所なので、あまり気づかないような、いいなと思ってもらえるうきはのものをこっそり置いています。
−いまは離れているけども、うきはを感じつつお店をされているんですね。いつかはうきはに戻ることも考えられているんですか?
竹井さん:最終的にはうきはでチャイのブレンドをする工場兼カフェをつくれたらいいな、と考えています。その前にはこのお店でもっと集客をする、チャイのティーバッグや粉末をつくって販売する、チャイのレシピ本をつくる、チャイのスタンドカフェをつくる、カレーに合うミールスのデリカフェをつくる…とやりたいことはたくさんあります(笑)。
吉丸さん:わたしは2020年、オリンピックが開催されている東京でチャイを売りたいという目標があります。もともと東京オリンピックに行きたくて、東京でチャイを売ることにすれば行ける、という不純な動機だったんですが(笑)、このお店に立っていろんなお客さんと話しているうちに、不思議と「わたしは東京でチャイを売りたいんだ」っていう気持ちになってきました。話せば話すほど、知ってるお店を教えてくださったり、価格はこうでこういう提供方法でってお客さんの方から提案してくださって、これは実現できる!と思ってきました。
−お客さんと一緒に未来を描けている…!素敵です。
吉丸さん:あとは、本場インドの方に来てもらって、うちのチャイを飲んでもらった反応が見たいですね。怖いもの見たさで(笑)。
竹井さん:怒られたいね、「なんだこれは!チャイじゃない」って(笑)。「なんだこれは!でも美味しい!」って言わせたい(笑)。
美味しいチャイを飲みに来るのはもちろん、おふたりとのおしゃべりを楽しみに通われる方も多いチャイティーヘロン。コーヒーショップが目立つ福岡ですが、福岡の飲みもの事情が、このお店をきっかけにまた変わっていくかもしれませんね。
【Chai Tea Heron(チャイティーヘロン)】
福岡県福岡市中央区大宮1-4-22-101
TEL:なし
営業時間:13:00〜20:00(19:30 L.O.)
定休日:水曜日