福岡県の南部にある柳川市。堀割がはりめぐらされた「水郷柳川」は、江戸時代には美しい城下町として栄え、今なお情緒漂う町は観光地としても広く知られています。
そんな柳川に、江戸時代から続く海産物問屋があります。会社の名は「やまひら」ですが、「夜明茶屋」という愛称で古くから親しまれてきました。老舗ながら、この20年ほどで魚屋や料理屋、宿、お土産など新たな事業を展開。今回は、新たな人材を募集されるということで、代表取締役の金子英典さんにお話を伺いました。
130余年前に女性が始めた、老舗の海産物問屋
―「夜明茶屋」は金子さんが4代目で、もともと明治23年(1890年)に女性が創業されたそうですね。
今から130余年前に、平野キヨが海産物問屋を開業しました。ここ沖ノ端は有明海有数の漁場で、すぐそこに市場があります。おばあさんは夜明になると景気づけとして漁師に「お茶」と称したお酒を出していたらしく、「夜明茶屋」と呼ばれるようになりました。
漁師町は活気と人情があふれていて、僕は物心ついたときから、いろんな人に面倒をみてもらい、小学校のときは「夜明のボン」なんて呼ばれてましたね(笑)。昔は本当にいけいけどんどんで、貨車を貸切って東京の築地まで魚を運び、築地で売上トップ10に入って表彰されたことも。親父やおじちゃんたちは大盛りのご飯を食べて、酒を飲んで、相撲があるとみんなでテレビの前で盛り上がって…古き良き時代でした。
有明海の水産資源が枯渇して厳しい状況に
―金子さんはいったん東京で働き、Uターンして家業を手伝い始めたとか。
大学を卒業して映像機器メーカーに勤め、28歳で柳川に戻ってきました。その頃、有明海では水産資源の枯渇が大きな問題になっていました。獲れる量が少ないので漁師さんは高く買ってくれと言うけれど、ディスカウントスーパーができて、競りは安売り合戦で、生業は厳しくなる一方。それに、海が相手の商売は干潮・満潮や天候によって仕事が不規則で、それでも働いてくれるスタッフにはできるだけ高い給料を出したいのに、それも難しい…。お恥ずかしい話ですが、当時は毎日のように親父と「どうするんだよ」「このままじゃ倒産するよ」と大喧嘩してました。
―厳しい状況の中で、福岡へ戻られたのですね。
そうなんです。もともと「夜明茶屋」は愛称で、もうその頃には「やまひら」として商売していました。でも、僕が地元に戻ると近所のおばあさんやおじいさんから「あ、夜明の、帰って来たとね」と言われて。昔の活気を取り戻したいと思い、再び「夜明茶屋」の看板を掲げました。すると地元の年配の方々も親父も「懐かしかねえ」とすごく喜んでくれて…ああ、今思い出しても涙が出てきます。
―映画のワンシーンのような情景が浮かびます。それからどうされたのでしょうか。
有明海の水産資源が減り、漁師が獲ってくれたものが競りでは思うような値段で売れない。この業界はどうなるのかと不安に駆られました。そこで、まずは工場内の1坪ほどの小さなスペースで、魚屋を始めました。それなら自分で値段を決められるので。両親には大反対されましたが、生き残るために必要だと説得しました。
工場を改装して料理屋も始めました。もともとは女工さんの作業場で、90歳ぐらいの近所のおばあさんから「私が女学生だった頃は、学校に行く前にここで貝をむきよった」と言われたりしたんですよ。昔は有明の料理を出す食堂があったけれど、不漁や後継者不足で店がなくなって、地域の人から地のものを食べられる料理屋をやってほしいと言われたのがきっかけ。僕は魚を捌くこともできなかったけど、とにかく技術を身につけて、調理師免許も取りました。
魚屋と料理屋のオープンに続き、お土産を開発
―長年、海産物問屋だったのに、新しいことを始められる行動力が素晴らしい。
いやあ、必死でしたから。さらに海産物に付加価値をつけて売ろうと商品開発にも乗り出しました。前から貝の粕漬は作っていたけれど、全く新しい発想で15年前に有明海を代表する魚の「むつごろうラーメン」を作ったところ、話題になりました。当時は袋ラーメンが5食200円ほどなのに、こちらは1食250円で、これまた父には大反対されたんですけどね。衰退するむつごろう漁の火を消さないためには、むつごろう漁師の皆さんの生活を守ることが重要なんです。そのためにラーメンをつくったわけです。そしてこのむつごろうを活用したラーメンで、日本観光振興協会会長賞受賞(2013年)をいただき、「地ラーメン」という新たなジャンルを切り開くことが出来たのです。漁師さんたちも「俺たちのラーメン」が出来たと喜んでくれたことが何よりもうれしくてその後の商品開発のモチベーションとなったのです。
―サバ燻製の「THE さBAR」も人気です。
あの商品は考えに考えた末の決断でした。有明産の観光土産をいろいろ開発してスタッフも増えたけれど、依然として有明海の水産資源は減っていて、原料がなくなったらいかんともしがたい。だから、うちの加工技術を生かし、原料は有明海に限定しないことにして大衆魚のサバを使ったんです。3年前に発売したら、おかげさまでかなり売れまして、工場を新設して張り切って作っています。
コロナ禍に宿と釣りエサの新事業をスタート
―コロナの影響はいかがでしたか。
観光客が来られなくなったので、空港や駅、道の駅などで売っている観光土産は打撃を受けました。ただ、料理屋はもともと地元の人が食べられる値段で、地元の人が納得する料理を出して、地元に愛される店を作ろうという思いでやっていたので、昼間のランチに来てくれる方もいらっしゃって、本当に助かりました。
あとは、うちはいろいろな料理屋さんに海産物を卸しているのですが、コロナで売り先がなくなりました。でも、漁師さんが持ってきた芝エビなどをうちが買わなければ、その人は生活できなくなる。昔から親父には「漁師さんの生活を守れ」と言われてたんです。だからとにかく買って、どうにかお金に換えなければ、とすがる思いで売り込んだのが、釣りのエサ。昨年は釣りバブルということもあり、売ることができました。それで、何かあっても安定した経営ができるように、新規事業として釣りエサを作ろうと決めて、来年には新しい工場を建てる予定です。
―昨年は「夜明の宿」もオープンされました。なぜ宿を作られたのでしょうか。
柳川で空き家が増えているという課題の解決と、魚食を普及したい、有明海のことを知ってほしいという思いから、宿を作りました。柳川の海産物の素晴らしさを知ってもらうには、新鮮な地元のものを味わってもらい、魚市場を見てもらうのがいい。柳川の魚市場は福岡県下で3番目ぐらいに大きく、取り扱う魚の種類も豊富で。ただ、市場の競りは朝5時から始まるので、近くに泊まれるところが必要だと思い、古い空き家を改築して宿にしました。コロナ禍のオープンでまだ本格稼働していないのですが、いずれはお客さんと早朝に市場へ行き、お客さんがほしいと言ったものを競りで買い、それを朝食で食べられたら最高に楽しいなと妄想しています。
▲夜明の宿HPより
会社全体のことを一緒に考えてくれる人を募集
―金子さんはいろいろなアイデアを思いついて、それをしっかり実行に移せる方ですね。
僕はね、ずっと真剣に考えてるんですよ、どうすればみんながハッピーになれるのかなって。それで今回は、会社のことをトータルで考えてくれる人を募集することにしました。
夜明茶屋には「鮮魚部」「食堂部」「お土産部」があって、通販をしていて、宿と釣りエサも始めました。全体のブランディングや企画を一緒にやってくれる仲間がいたら、すごく心強いしありがたい。ちなみに僕は今、商店街の会長もやっていて、コロナで大変まいっている商店街をどうにかしようと奮闘しているところで、まち全体をひっくるめてコーディネートしていけると面白いなと考えています。
―夜明茶屋ではどんな人が働かれているのですか。
パートの人も入れると全体で45人くらい。下は高校生から上は78歳かな、みんな長く働いてくれていますね。65歳で定年なんて決めず、生産性ばかりを追求せずに、楽しく働き、生きがいや充実感を得られて、自分の成長を実感できるような会社にしたいと思っています。
―どんな人に応募してほしいですか。
うーん、実はこんな人がいいという具体的なイメージはなくて、年代も性別も経験も問いません。僕より熱い人だとふたりで暑苦しすぎるかなと思うけど(笑)、意外といいかもしれないし、こればっかりはご縁で、会ってみないと分からないですね。
あえて言うなら、俯瞰して物事を考えられる人、常に新しいものに興味を持って学ぶクセがある人がいいかもしれません。そして、決して「自分だけ儲かればいい」ではなく、「みんなでハッピーになろう」という気持ちが根本にあることが一番大事だと思います。
僕は毎日ワクワクしてるんですよ。今でも朝5時に競りに行き、そこで繰り広げられるドラマにドキドキする。生きているといろいろなことがあるけれど、やっぱり人生は楽しい。ぜひ一緒に毎日ワクワクしながら楽しく働きませんか。ご応募お待ちしています。
店舗名 | 株式会社やまひら(夜明茶屋) |
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募集期間 | 決まり次第終了 |
募集職種 | オールラウンダー(プレイングマネージャー) |
採用人数 | 若干名 |
雇用形態 | 正社員 |
勤務地 | 福岡県柳川市稲荷町94-1 |
勤務時間 | フリー |
給与 | 正社員250,000~(経験、能力による) |
福利厚生 | 正社員(各種保険完備、まかない付き、交通費補助、社員専用駐車場付き) |
休日休暇 | フリー |
仕事内容 | 各種企画、デザイン、開催、実行(営業、商品、イベント、まちづくり、コラボ等)情報発信、ネット関連、顧客対応、各種仕入れ、製造、販売、プレゼン等 |
応募資格 | 【歓迎するスキル・経験】 オールラウンダーとしての幅広い見地と考察力。それに付随する必要なスキルや資格。要普通免許。社長である金子の思いでもある「水産業にデザインを!を起点とした柳川ディズニーランド計画や柳川移住計画、稼げるまちづくりと商店会」の理念を共有し実現できるパートナー。 |
選考プロセス | STEP-1.当サイトへのお申込み STEP-2.面接(履歴書(写真付)・職務経歴書を持参) |
備考 |