コロナ禍において、地方移住への注目が高まっています。しかし、共働き夫婦が家族で移住するとなると、夫婦ふたりともに納得できる仕事を探すことはかなり難しく、どちらかというと妻の方がキャリアを諦めざるを得ないケースが多いのが現状です。
そんな現実に疑問を持つ福岡の2社が「家族まるごと採用」と題してユニークな取り組みをスタートしました。株式会社else if(エルス イフ)の社長・髙森啓二さんと営業部長・藏田和美さん、株式会社オフィスat(オフィスアット)の社長・寺島みちこさんと専務・阿部博美さんの4人に、取り組みの背景や思いなどをじっくり伺いました。
障がい者をはじめ多様な人が柔軟に働く「else if」
―「家族まるごと採用」というのは、インパクトのあるネーミングですね。どんな内容なのか、とても気になります。
髙森:ひと言で説明すると「移住してこられるご家族をまるごとサポートしますよ」という宣言です。
―宣言ですか!詳しく伺う前に、まずは取り組みを始めた2社のことを教えてください。
蔵田:株式会社else ifは、2015年8月に福岡市で創業したソフトウェア開発会社です。障がい者の就労をサポートする株式会社カムラックと資本提携し、主に精神障がいのある方々をパートナーとして働いています。他にも、さまざまなバックグラウンドを持つ方々を積極的に採用しようという方針のもと、「else if」=「それ以外」というプログラミング言語を社名にしました。今は、弊社の社員20人とカムラックの社員70人ほどでチームを組んで仕事をしています。
―なぜカムラックさんと提携されたのでしょうか。
髙森:僕はもともとエンジニアで、東京に本社を置く一部上場会社の福岡事務所で10年ほど責任者を務めていました。我々の業界は長らく技術者不足で、仕事はあるのに人がいない状態です。一方で、カムラックの代表・賀村さんから、障がいのある方は新しい仕事にチャレンジできる環境がないと聞きました。ならば双方をマッチングしようと考え、会社を立ち上げました。
―障がい者と一緒に働くIT会社は、これまで聞いたことがありません。
髙森:そうですね、僕の知る限りでもありません。IT業界では珍しいようで、コロナが広がる前は全国から毎週のように視察に来られていました。お問い合わせもたくさんいただきます。
正直なところ、最初は不安いっぱいで、1年目は大変苦労しました。しかし今はうまく回るようになり、ぶれずに続けられ意義を感じています。障がい者との取り組みが注目されがちですが、僕としては技術者不足をいかに補うかが出発点だからこそ、子育て中のお母さんやシニアなど多様な人が集まる会社を作りたいと考えています。
―多様な働き方を実現する上で、どのような工夫をされているのですか?
藏田:九州のシステム開発会社は、スタッフがお客様のところに常駐するスタイルがほとんどです。でも、弊社は受注スタイルで、スタッフがチームを組んで社内や在宅で仕事をしています。障がいのある方やエンジニアは、出向くのを好まれない方も多いので。ですから、子育て中のお母さんが子どもが学校に行っている間だけ在宅で仕事をしたり、子どもを学校に送るために遅く出社するお父さんがいたりと、柔軟な働き方を実現できてきます。
髙森:一般的にIT業界は残業が多いのですが、うちは極力残業しないようにしています。僕はプライベートが一番大切で、会社に自分を合わせるのではなくて、自分の生活に会社を合わせたらいいと思っているので。
女性視点で企業と女性、社会をつなぐ「オフィスat」
―次に、株式会社オフィスat(アット)のことを教えてください。
寺島:私どもは女性視点のマーケティングやプランニングを得意とする会社です。女性の声と力を企業や社会に生かすことをミッションに掲げ、阿部=aと寺島=tで、2014年福岡市で設立しました。atは場所を意味する前置詞でもあり、企業と消費者をつなぐ場や女性が輝ける場を作り、企業の女性ファンづくりや採用ブランディング、人材育成などを展開しています。
大きな特徴として、会社のスタッフは私たち2人ですが、延べ2000人ほどの女性たちがメンバーとなり、在宅や現地集合でプロジェクトを動かしてくれています。子育てや介護、転勤などで制約のある女性たちが、柔軟な働き方で力を発揮し企業をサポートできればWin-Win-Win。そういうモデルを作っています。
―なぜ女性のサポートを始めたのでしょうか。
阿部:私は人材派遣の仕事に長く携わっていました。1990年代、派遣を希望するのはほぼ独身女性で、結婚・出産を経て「また仕事を紹介してほしい」と来てくれるのですが、既婚で年齢が上がると受け入れてくれる会社はなかなか見つかりませんでした。それから広告の部門に異動になり、私以外は全員男性で、違和感のある案ばかりが通っていきました…。
そんな中、たまたまマーケティングの本を読んで男女の違いがよく分かり、それまでの違和感の謎が全て解けたんです。この視点を生かせば女性と会社をマッチングできると思い、活動を始めました。
寺島:今、力を入れているのがハピレボ(ハッピーレボリューション)というサービスです。else ifさんのように女性が活躍できる会社になりたいという会社に、柔軟な働き方を実現できる制度や風土づくりからブランディング・マーケティングまで伴走して採用の支援をしています。コールセンターや土木、製造など、全国の会社に関わらせてもらっています。
女性向けの採用活動で優秀なシニアも採用できた
―2社が出会ったきっかけを教えてください。
髙森:3年ほど前に経営者の集まりで阿部さんの講演を聞き、男女の違いって面白いなと思い、女性の採用について相談させてもらいました。うちにはエンジニアで子育て中の女性がいて、もっとそのような方を採用したいと思っていたからです。
藏田:女性のエンジニアを採用したくてハローワークや求人媒体に募集を出していましたが、あまり反応がなく…。atさんにアドバイスいただき、女性を採用するand Fプロジェクトを立ち上げて、会社見学ツアーを実施しました。すると1回目の見学会で、7年のブランクがある女性を採用できました。2回目はなんとベテランのシニア男性が参加されて、その方を採用したんですよ。それで55歳以上のベテランを採用するand Gプロジェクトも立ち上げました。
―え、女性視点で採用活動をしたら、シニアの男性も来られたのですか!
阿部:そうなんです、制約のある女性が働きやすい環境を整えれば、誰にとっても働きやすく魅力的な会社になるんですよ。
寺島:仕事を探している女性は、求人情報に載っている仕事内容や給料などのスペックだけでなく、社内の雰囲気や服装、休みを取れるかなどをすごく気にしています。else ifさんは社内の雰囲気がとても良く、柔軟に働ける体制を整えているので、それを見える化して見学会もしましょうとご提案しました。
家族みんなをサポートするので安心して移住してほしい
―「家族まるごと採用」について教えてください。
髙森:移住による採用を強化したいという思いから生まれた考え方です。僕は出身地の大分にもオフィスを作って大分県と一緒に移住の取り組みをしているのですが、つくづく難しいなと感じていました。
30~40代のマネージャークラスに来てもらうなら、移住が大きな選択肢になると思います。ただ、その年代の方は家庭があってお子さんがいたり、家を買っていたりする。それに、例えばお父さんの仕事が決まっても、お母さんの仕事や子どもの学校はどうするか、生活環境はどうなのかなど、家族まるごと考えないと移住にはなかなか踏み切れないですよね。そこをクリアしたくて、atさんと「家族まるごと採用」を始めました。
寺島:うちの会社には働きたい女性たちのネットワークがあって、東日本大震災の影響で移住してこられた家族や転勤組もたくさんいます。パパは職場でネットワークができても、ママは取り残されて居場所がないかも…という不安をなくしてあげたいんです。
―なるほど、夫婦をエンジニアとして採用しますということではなく、家族まるごとサポートしますという考え方を発信されるのですね。
阿部:そうなんです。以前、友人から「夫の仕事で福井から福岡に引っ越す女性がいて、福岡に知人がいなくて不安がっているから会ってみて」と頼まれたことがあります。会ってみると、たまたま彼女のスキルとうちのニーズがマッチして、動画づくりをお願いしました。そうやって直接仕事に結びつく場合もあれば、うちが関わっている女性や子ども対象のプロジェクトに参加してもらって参加者同士の出会いから世界が広がり、多方面で活躍している女性たちもたくさんいます。
寺島:私たちは女性を採用したい企業やママを支援する団体などと幅広くお付き合いがあるので、「ママも子どもも含めて家族まるごとサポートします」と発信することで、移住を後押ししたい。福岡には柔軟な働き方ができる会社があって、家族みんなサポートしてもらえて安心で楽しそうだなと、ワクワクして来てもらえるようにしたいです。
髙森:今はコロナで難しいのですが、これからイベントなどもやっていきたいですね。うちでは59歳で採用して、定年後に継続して働いてもらっている方もいます。人生100年時代ですから、若い人や家族はもちろん、定年を見据えて自分のペースで好きなところで働きたいという方の移住も増えるといいなと思います。
誰もが楽しく働き暮らし、会社の業績も上がる福岡に!
―お話を伺っているとワクワクしてきました。最後に読者へメッセージをお願いします。
阿部:笑顔で働く人が増えてほしいというのが私の一番の願いです。会社で決められた通りに働くことだけが仕事ではなく、もっと主体的に動くことで笑顔になるのではないでしょうか。それを推進している2社があると知ってほしいですね。
寺島:柔軟な働き方ができれば、個々人にとって豊かな人生になり、多様な人が関わる会社ほど業績が伸びているというデータもあります。私たちが会社と人をつなぎ双方をしっかりサポートすることで、「柔軟な働き方ができて、誰でも自分らしく活躍できて、会社の業績も上がっている福岡はすごいね、めっちゃ楽しいね」と言われるように頑張っていきます。
藏田:働きたいけれど、いろいろな制約があって働けない方はたくさんいらっしゃると思います。弊社ではできるだけ自由な働き方に対応しますので、興味を持ってくださった方はぜひお気軽にご連絡ください。お待ちしています。
髙森:僕は技術者不足の解消をきっかけに会社を作りましたが、仕事の質にこだわりつつも、もっと社会課題を解決できるような取り組みをやっていきたいと強く思うようになりました。多様性のある会社が増えれば世の中が変わると信じて、少しでもそのきっかけになれればと思っています。atさんの力をお借りしながら、これからも取り組みを進めていきます。
▲【株式会社else if】社長・髙森啓二さん、営業部長・藏田和美さん
▲【株式会社オフィスat】社長・寺島みちこさん、専務・阿部博美さん
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社オフィスat
担当:阿部
TEL:080-3182-0866
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